裏新聞
閑話を少し書こうとしたら、なぜかお話が進んでしまいました(^_^;)
明日から定時更新始めますので、よろしかったら読んでやってくださいませ。
「何を隠したんですか?」
新聞部部室に足を踏み入れた衿香の姿を見て、あからさまに不審な行動をした城ヶ崎と進藤の姿に彼女は眉を吊り上げた。
ふふふと不敵な笑みを浮かべ近付く衿香に、男二人はじりじりと後退する。
城ヶ崎がちらりと進藤に目配せした。
微かに頷き進藤が動こうとした時。
衿香は微笑みながら手に持ったカメラをひょいと窓の向こうに突き出した。
「あああ!?それは新聞部の貴重な備品だぞ!?」
宙にゆらゆらと揺れるカメラを見て城ヶ崎が絶叫する。
「それだけじゃありませんよ、部長。今日は珍しく、雅先輩の姿も映ってるんですよ。このカメラ、衝撃に耐えられるかしら。試してみます?」
にっこり微笑む衿香。
ちなみに新聞部の部室は三階である。
「わわわわかった!!!落ちつけ、神田!!」
両手を頭の上にあげ、城ヶ崎が叫ぶ。
衿香は満足げに微笑んで片手を突き出した。
「じゃ、さっき隠したもの、渡してもらいましょうか?」
「裏新聞?」
衿香は手に持った一枚の新聞を眺めて眉をしかめた。
衿香から取り戻したカメラに頬ずりしていた城ヶ崎は渋々それに答える。
「まあ、公には出回らないものだ」
「公には出回らない。じゃあ、誰が読むんですか?」
「……」
眼鏡に手をやり逡巡している城ヶ崎に衿香は追い打ちをかける。
「この頃~生徒会からのお誘いがうるさくて~断りきれなくなってきたんですよね~。私掛け持ちなんて無理だし~新聞部でも~のけ者にされてるんなら~考え時かなあ」
「わ~~~!!ちょっと待て!脅すのか!?」
「人聞き悪いですね~。ちょ~っと心の声が漏れただけです」
「ぐっ……」
ぺらり、と衿香がページをめくる。
ふと衿香の目が新聞にくぎ付けになった。
「……人気ランキング?」
「え?あ?それ?えっと、なんて言うか、その、それはな?」
「一位が雅先輩、二位が図書委員長の新垣先輩、三位が千世ちゃんで、あっ美雨も六位に入ってる!」
「……」
冷や汗をだらだら流しながら黙る城ヶ崎を衿香は冷めた視線で見た。
「つまり、男子生徒の手にしか渡らない新聞、という事ですか?」
「……はい」
ほんと、男って子供みたいな所があるんだから。
小さくなる城ヶ崎はまるで叱られた男の子のようだ。
人気ランキングは月間となっており、一位から二十位までが記載されている。
衿香はまじまじとそれを眺めた。
そして眉をひそめた。
ない。
その中に衿香の名前は載っていなかった。
「あの、部長?ちゃんと教えてあげた方がいいんじゃないですか?」
ふらふらと部室を出ていく衿香の姿が見えなくなると、心配そうに見送っていた進藤が口を開いた。
「む。なんと説明する?お前は会長の唾が付いているから、奴に遠慮して誰も票を入れられなかったとでも?ごめんだな。そんな事、幸田の耳に入ったら、新聞部の存続の危機だ」
「……そうですね。でも、神田さん、大丈夫かな」
「むう」
男二人に心配されているとは思いもしない衿香は、軽くショックを受けたままふらふらと歩いていた。
自分が人気絶大だとうぬぼれている訳ではない。
学園の女子は総勢二百名弱。
それぞれが容姿に優れた女子ばかりである。
上位は衿香の予想通り、花嫁候補ではないが人を引き付ける魅力のある人物か、花嫁候補であっても千世のように万事控えめな性格の人物が占めていた。
だが、二十位の中には、親衛隊長である花音や律香の名前もある。
花嫁候補だから除外されている訳ではないのだ。
人気のない裏庭のベンチに腰掛けて、衿香は深いため息をついた。
自意識過剰な訳ではないが、衿香は自身の容姿に対して絶対の自信を持っている。
もちろん、好みというものもあるだろう。
万人に好かれる顔だとは思わない。
けれど、嫌われる要素の少ない顔だと思う。
それなのに、衿香の名前は二十位の中に入っていなかった。
それはつまり、容姿が問題にならないくらい、性格が悪いと思われてるという事だ。
最高の男の攻略を目指している衿香にとって、それは痛い現実だった。
私、ダメじゃん。
ガックリと頭を下げて、珍しく衿香は力一杯凹んでいた。




