糾弾
夏目の淹れてくれた紅茶を飲み終わった頃、生徒会室のドアが静かに開いた。
「……神田さん」
雅の声に衿香はカップを置いてそちらを見る。
「どうして?笹原くん?」
雅は軽く敦志を睨んだ。
敦志は頭を掻き、すみませんと背を丸めた。
「私がお呼びしたんです」
衿香は立ちあがって頭を下げた。
雅は警戒するように目を細め、衿香を見つめる。
キンと空気が張り詰めた。
「とりあえず、みんな座ろうか?」
いつの間にか雅の隣に立っていた睦月が柔らかく彼女の背中を押す。
渋々といった様子で雅はソファーに腰を下ろした。
雅先輩、ちゃんと食べてるのかしら。
衿香の斜め向かいに座った雅は、パーティーで会った時よりかなり痩せていた。
顔色も良くない。
信也たちが心配するのも無理はない。
「で、改めて聞くけど、衿香ちゃん、君が晴可先輩に婚約破棄を勧めたっていうのは本当なの?」
衿香の隣に座った信也が問いかける。
うわ~、冷気放っちゃってる。
一瞬ぷるりと体を震わせた衿香は、気丈にもその頬に笑みを浮かべた。
「そうですね。先日お会いした時に、雅先輩の求める婚約破棄を認めるべきだと言いまし……!!!?」
何が起こったのか衿香の目には見えなかった。
ただ風が巻き起こり、次の瞬間には木田のごつい手が衿香の首にかかっていたのだ。
「やっぱりお前、晴可の事狙ってやがったのか」
低く唸るような声。
首に食い込む指の感触。
声もなく、衿香は木田の憎悪に彩られた瞳を見つめる。
「だ~~~~!!!だめだって!!!祐真!!離せ!!」
気が遠くなる寸前、睦月の声がして喉の圧迫が取り除かれる。
ぐらりと倒れそうになるのを堪え、衿香は喉元を押さえ必死で息を吸った。
どたんばたんと木田と睦月が取っ組み合いをしている音が聞こえたが、衿香にそれを気にかける余裕はなかった。
「苦しかった?けど自業自得っていうんだよ?」
ぜいぜいと肩で息をする衿香に、信也は冷たい姿勢を崩さない。
「……ふ。いきなり暴力ですか。程度が知れると言うものですね」
いまだ喉を押さえたまま、掠れた声で衿香は答えた。
その目は怒りに燃えていた。
「まだ吠えるの?その喉、潰されたかった?」
信也の目も不穏に光る。
その隣で夏目と敦志が万一の事態に備えて視線を交す。
「あら。信也先輩は事情を知りたくて私を呼んだんでしょう?喉を潰せばその目的は達成できませんよ」
「事情?まだ申し開きができると思ってるの?君は晴可先輩の隣を狙って、邪魔な雅ちゃんを排除するために婚約披露パーティーを利用したんだ。雅ちゃんを傷つけ、怯えさせ、婚約破棄を言いだすよう画策した。そうなんだろ?」
「……はあああああ!?」
衿香は喉が痛むのもかまわず叫んでいた。
「晴可先輩も晴可先輩だ。こんな見え見えの手に引っ掛かって」
口惜しそうに吐き捨てる信也の顔を見ながら、衿香は忙しく頭を働かせる。
つまり、私が、パーティーで雅先輩を襲わせた首謀者だと言ってるの?
そうして雅先輩に身を引かせ、貴島さんを手に入れようとしたと?
「馬鹿にするのもいい加減にしてください!」
衿香は思わず立ちあがって叫んでいた。




