無邪気な彼女、複雑な彼
少し短めです。
ゆびきりなんてしたのは何年ぶりだろう。
睦月の指と絡む、自身のほっそりした指を見ながら衿香はぼんやり考えていた。
睦月は何と言ったのだろうか。
私の何を守る?
抱きしめられたり、唇で触れられるのが嫌だという事は分かってもらえたらしい。
けれど、守るってどういう事だろう。
それになぜ突然そんな事を言い出したのか。
しばらく考えたが答えは出てこなかった。
それなら尋ねてみようかと視線を上げると、睦月の熱のこもった視線とぶつかってしまい、衿香は慌てて目を逸らせた。
仕方ない。
ここは都合の良い解釈を選択しよう。
絡まった指をぎこちなく解いて、衿香は言葉を探した。
「ええっと、睦月先輩?質問してもよろしいですか?」
「どうぞ、なんでも」
睦月が穏やかな笑顔で答える。
「つまり、睦月先輩は過去の所業を反省して、私に対する接し方を改めてくれるという事なんでしょうか」
「……まあ、そういう事かな」
過去の所業……。
そんなに嫌だったのか。
衿香の発言に睦月はがっくりと首を垂れ、額を手で覆う。
「じゃあ、お気に入りを解除してください」
「は?お気に入りって?」
「夏目くんが言ってたんです。私は睦月先輩のお気に入りだから、他の男子生徒が近付けないって。正直困ってたんです。新聞部の活動で各クラブのキャプテンにインタビューしようとしても逃げられちゃって仕事にならなかったんです」
「……夏目。余計な事を……」
「あ~、良かった。夏休みには密着取材をしたかったんですよね~。早速スケジュールを確認しないと~」
「えっと、衿香ちゃん?」
「はい?」
きらきら輝く衿香の目が睦月に向けられ、うっと睦月は言葉に詰まる。
「……そんなに楽しみなの?密着取材」
「はいっ。城ヶ崎部長に初めてオッケーもらった企画なんで、どうしても成功させたいんです!」
「……そう。がんばってね」
「はいっ。ありがとうございます!」
つい先程とは別人のようにニコニコと笑う衿香に、それ以上何も言えずに睦月はそっと溜息を漏らした。
「これ美味しいですね~。睦月先輩も食べます?」
上機嫌の衿香が料理を一口、睦月に差しだす。
目を丸くする睦月だが、衿香は無邪気な笑顔のまま彼を見つめていた。
……完全に、男として見てない。
一瞬、面白くないと思ってしまった睦月だが、差し出された料理をパクリと食べ、まあ逃げられるよりはいいかと思いなおす。
間接キスなんだけどなあ。
無邪気そのものの笑顔で料理を頬張る衿香に、苦笑を浮かべるしかない睦月だった。
必殺無邪気作戦成功(*^^)v




