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手詰まり

 一体なにがどうなっているのだろうか。

 放課後、衿香は生徒会室へと歩きながら考えていた。

 仮入部の一週間を経て、衿香は新聞部に正式に入部した。

 部長の城ヶ崎の新聞に対する熱い想いに多少引きかけた衿香だが、新聞部員という肩書目当てに入部を決めた。面識のない攻略対象者に偶然を装って接触するより、新聞部員として接触する方が簡単だし警戒もされにくいと考えたのである。


 なのになぜかうまくいかない。


 衿香は数日前に行った男子バレー部の部長のインタビューを思い起こす。

 特に失礼があったとは思えない。

 引かれるような態度をとった覚えもない。

 なのに彼は衿香がカメラ片手に取材に行くと、あからさまに衿香を避けた。

 ついさっきまでコートを元気一杯走っていた彼は、急に腹痛を訴え体育館を飛び出して行ったのだ。

 その前の日はバスケ部の部長に、さらにその前にはテニス部の部長に同じような対応を受けていた衿香は、大きくため息をついた。

 困った顔でとりなすバレー部員たちに力ない笑顔で礼を言い、部室に戻る途中で夏目と会った。


「おっ。えりりん。今日も運命の出会いだねえ」


 相変わらずの夏目に突っ込む気力もなく、曖昧に笑う衿香の隣を不思議そうな顔の夏目が歩く。


「どうしたの?えらくテンション低いね~」


 そう言う夏目に事情を話してしまったのは、度重なる非礼に結構ダメージを受けていたせいなのだろうか。

 黙って衿香の話を聞いていた夏目はその顔に珍しく苦笑を浮かべた。


「それはえりりん、災難だねえ」

「なにか避けられるような事してるのかな。敦志先輩が私の事を周りが天使って呼んでるなんて言ってたから、正直この反応はショックだったのよね」


 肩を落とす衿香は、夏目が彼女に見せた事のないような表情を浮かべているのに気がつかなかった。


「えりりんのせいじゃないから、気を落とす事はないよ?」

「じゃあ、何か他に理由があるってこと?」


 衿香が隣を歩く夏目を見上げる。

 その時には夏目はいつもの飄々とした顔になっていた。


「この学園ってさ、序列があるんだよね~」

「序列?」

「それも学年関係なく」

「?」

「力、というか能力、というか。まあ強いものが学園での発言権が強くてね。ちなみにこの頂点に立つのは睦月会長。次いで真田副会長で会計の笹原。次が僕ね」

「はあ……」

「それに次ぐのが各委員会の委員長、クラス委員、各部部長」


 夏目は不意に足を止めた。

 つられて衿香も立ち止まる。


「でね?えりりんはそのもっとも強い力を持っている睦月会長のお気に入りなんだ」

「……はあ!?」

「そのえりりんに不用意に近付くことは睦月会長の意向に背く事になる。だからえりりんに近付けるのは僕たちのようにある程度会長に匹敵する力を持つ者か、反対に全く力がなくてえりりんの視界にも入らないような者か、どっちかって事になる」

「ちょっと待って。よくわからない」


 衿香の視線をまっすぐ受け止めて、夏目は薄く笑う。

 その手がすうっと伸びて、衿香の髪を一筋すくい上げた。


「夏目くん……?」

「仕方ないよね。こんなにがっつりマーキングされてたら、正常な奴ならびびっちゃうよね~」

「マーキング?」

「ううん。なんでもない」


 首をかしげる衿香の髪から手を離し、夏目が歩きはじめる。

 納得がいかないながらも衿香はそれに付いて歩き出した。


「ねえ、夏目くん。余計訳わからないんだけど」

「ん?つまり、えりりんは睦月先輩のお気に入りで、下手に関わりを持つと先輩にお仕置きされる可能性があるって事かな」

「つまり私がこういう目に合ってるのは、睦月先輩のせいだって事!?」

「平たく言えばそうかな~」


 そういう事なのかと、その時衿香は妙に納得したのだ。

 その日以来、衿香は自分がどう行動すれば良いのか考え続けていた。

 夏目の話では、睦月が怖いから彼らは衿香を避けるという事だった。

 つまり、睦月を何とかしなければ、生徒会以外の攻略対象者と接触するのは難しいという事か。

 考えるのよ、衿香。

 必ず突破口はあるはず。

 気がついた時には衿香は生徒会室の前に立っていた。







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