イケメン登場
神田衿香、15才。
人生の岐路に立ってます。
ここが学園。
衿香は大きな門の前で立ち尽くしていた。
衿香を送ってきてくれた車はとっくの昔に帰って行った。
もう帰れない。
分かっているのに、足が進まなかった。
この門をくぐれば、私の戦争が始まる。
ここで求めるものを手に入れられなければ、私は神田の娘として失格だ。
でも怖い。
女子校で多くの時間を過ごしてきた衿香にとって、男の子は未知の生物だ。
衿香が知っている男、と言えば父と兄。
どちらも性格に難あり、だ。
やだやだ。
特に顔のいい男は、大抵性格が歪みまくってるんだから。
門の前で一歩が踏み出せない衿香の頭の上に、音もなく桜の花びらが舞い落ちる。
「あれ?きみ、どうしたの?」
門の向こう側、ひょいと桜の木の陰から顔が覗いた。
ひょえ~。美少年!!
衿香は固まった。
あの顔は、確か攻略マニュアルの一番最初に載っていた。
名前は・・・。
「僕、会長の幸田睦月だよ。きみ、新入生?」
うわあ、まぶしい笑顔!!胡散臭い!!
衿香はさりげなく彼から目を逸らした。
「は・・い。神田衿香と申します。」
「へ~。衿香ちゃん。よろしくね。ところでなにしてるの?」
睦月がこてんと首をかしげた。
うわ~。こてんってした。こてんって。
衿香は心の中で叫ぶ。
絶対この人、自分の容姿を理解しててやってる。
いや~~~。
首をかしげたまま衿香を見つめる睦月。
放置して逃げたいのは山々だが、そういう訳にもいかないので衿香は返事を探した。
「あ、その。寮に行きたいのですが、あまりに広そうだったので、どうしようかと。」
衿香の適当な答えに、睦月は人の良い笑みを浮かべた。
「そうだね。確かに初めての人には広いかも。寮はこっちだよ。おいで。」
「えっ。あ、はい。」
するりとさりげなく睦月が衿香の手をとり、衿香はあれほど悩んでいた一歩を踏み出していた。
手、離してくれないかな。
折角の親切に振り払う事もできず、衿香が悶々と考えていると、ほどなく目的地に着いた。
「うわ、広い。」
寮の玄関前に立ち、衿香は思わずつぶやいた。
寮と言うよりホテルだ。
その立派な建物と同じ建物が少し向こうに建っていて、中庭の向こうで繋がっている。
「あっちが男子寮の入口。繋がっているところが食堂だよ。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
お礼を言って、寮に入ろうとした時、衿香の手が引っぱられた。
「へ?」
手の甲に何やら柔らかくて温かいものが押しあてられ、衿香は二度見した。
二度見した上に、見た物を信じられなくてごしごしと目をこすった。
「ちっちゃい手だね。」
衿香の手の甲に付けたくちびるを離して、睦月が微笑んだ。
「ななななないでしょ~~~~!!!!」
「?」
瞬間的に真っ赤になった衿香は、手を奪い返すと寮の中に駆け込んだ。
なななにあれ。
男子って男子って男子ってあんなことするの!?
うそでしょ~~~~。
真っ青になる衿香。
初対面であんな事を普通にやられたら、憤死してしまう。
「ちょっと、あなた。新入生?」
身悶える衿香の前に数人の女子が立った。
「あなた、睦月さまと何をしていたの?」
その顔は険しい。
さっきのちゅっを見られていたのだろうか。
衿香はごくりと唾を飲み込んだ。
恋物語の睦月登場です。
今回、がんばってくれる事を期待します。