生徒会の愉快な仲間たち
「うわ~。気持ち悪!!なんで男に抱きつかれやなあかんの~。睦月、変態になった!?」
「もう!!なんで晴可が開けるんだよ~。僕の至福の時を返してよ!」
「いつの間にそんな子になってしもたん!?俺は睦月をそんな子に育てた覚えはないで。」
「晴可はいつから僕の母さんになったの?で、なんで晴可と衿香ちゃんが一緒に来たの?」
ドアの向こうから充分距離をとって、この様子を観察していた衿香は、睦月の視線に肩を揺らした。
いつものほんわりと柔和な顔から想像できないような、冷え冷えとした視線。
「途中で会って、俺が道案内を頼んだんやけど。なんか都合悪かった?」
晴可がニヤニヤしながら睦月に問う。
「いや、別にそんなんじゃないけど。晴可が初対面の女の子にそんな事頼むなんて、珍しいなと思って…。」
睦月が歯切れ悪く、言い返す。
「ふーん。それだけ?」
晴可の意地悪な問いかけに、睦月がむっとした顔を向けた時。
「あ~!!君が学園のエンジェルちゃん!?ようこそ生徒会室へ!!初めましてだよね!僕は生徒会会計の笹原敦志。あっくんって呼んでいいよ!!」
突然、風のように現れた生徒会会計が、衿香の手を両手で握り、ぶんぶんと振りまわした。
「あ、え?神田衿香です。よろしくお願いします。ってエンジェルって、なんですか?」
「知らないの?有名だよ。今年の一年には天使が舞い降りたって。僕も早く会いたかったんだけど、睦月先輩の人使い荒くってさ~。」
いまひとつ、納得いかない衿香だったが、とりあえず一部の生徒が自分の事をエンジェルだと言っているのだろう、と考える。
「それで、敦志。捕まえたの?」
睦月がするりと衿香と敦志の間に割り込んで、彼の腕を捩じり上げた。
「あたたたた!!やめっ!!なにするんですか!!」
敦志が涙目で腕をさする。
それを半眼で睨みつける睦月。
その周りの温度が急激に冷えていくのは気のせいだろうか。
目を丸くする衿香の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「えりりーん!!会いたかった~!!」
振り返る衿香の目に、真田にえり首を掴まれ、じたばたともがく夏目の姿が映った。
「はい、睦月。この通り、一条夏目くんを無事捕獲してきたよ。」
にっこり爽やかに笑う真田。
「とりあえず、みんな。廊下で騒がずに、中に入ろうか?」
その目が笑っていない事に気付いた一同は、静かにその言葉に従った。
「えーと、あとは朝霧ちゃんだけだね。紹介が遅れたけど、生徒会会計の笹原敦志と書記の一条夏目。これで生徒会は全員揃ったことになる。」
「え~~。睦月先輩~。僕、書記なんて承諾した覚えないですけど~。」
「仕方ないだろ。どうせ、そのうち会長職につかなきゃならないんだから、諦めろ。」
「僕に自由を~~。」
「うるさいな。衿香ちゃんが仕事にとりかかれないだろ?ところで衿香ちゃん。写真はどう撮る?」
睦月が無理矢理夏目を黙らせて、衿香に尋ねた。
静かに二人のやり取りを眺めていた衿香は、目を瞬かせた。
「ええと。写真の構図に関しては一任してもらっているのですが、私個人の意見としては個別に撮るのではなく、全員で撮った方がいいと思います。」
先日の木田の剣幕からすれば、個人写真など許可してもらえないだろう。
衿香はそう考えていた。
この、内面はともかくきらきらしい顔の男どもの間に入れば、言葉は悪いが朝霧先輩はうまく霞んでしまうのではないだろうか。
衿香の意見に睦月も賛成した。
「あとは朝霧ちゃん待ちか。」
睦月がそうつぶやいた時、生徒会室のドアがこんこんとノックされた。
黙って見守っていた晴可の瞳がきらりと輝いた。