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ちょっと寄り道3

「つ、つまりそれはこういう事?睦月さまのお側に近付きたくて親衛隊に入ったのに、親衛隊員になったと言う事で花嫁にはなれない?」


茫然と花音がつぶやいた。

そう言われれば、親衛隊の中からカップルになった者の話はあまり聞いた覚えがない。

それもそうだろう。

親衛隊が設立されるのは、生徒会役員を始め、各委員会委員長、各部部長といった人の上に立つ者ばかり。

親衛隊は彼らに不当に近づく者を排除するのが使命。

つまり互いが互いを監視しあう役割も担っているのだ。

彼女たちは親衛隊としての規範に忠実に従い、本来の目的を見失ってしまっていた。


「なれない、という訳ではありません。」


そんな彼女たちの動揺に付け込むように、衿香は悠然と言いきった。


「注目すべきは、花嫁候補の勝ち組四十九人がどういった人物であったか、という事です。」


完全にこの場を支配した衿香は彼女たちの目を一つ一つ覗きこむ。


「彼女たちは特に家柄、容姿に共通点はありません。あるとすれば、性格。」

「性格?」

「そう。彼女たちは一様にどちらかというと目立たない温厚な性格の持ち主でした。」

「目立たない……。」


考え込む親衛隊員たちに衿香はゆっくり、噛み砕くように問いかける。


「よく考えてみてください。もし皆さんがイケメンばかりに囲まれ、毎日ちやほやされたらと仮定します。それが続くと皆さんはちょっとやそっとの顔の良さには、まったく反応しなくなるでしょう。」


ふむふむと頷く少女たち。

衿香の勢いは止まらない。


「そこに、今までとは全く違ったタイプの男子が現れる。彼はイケメンというよりどこにでもいそうなタイプ。一番に自分に傾倒しそうなのに、なぜか自分に媚びようとしない。どう思いますか?芹名先輩」

「生意気。」

「ほら、彼の事が気になったでしょう?」


ニンマリと衿香が笑った。


「気を引いてしまえば勝ちです。あとは追いかけさせるだけ。逃げる者を人は自然と追いかけたくなるもの。これを私は恋の狩人現象と呼びます。」


はああああ、と深く頷く少女たちの頭に、去年、生徒会会計が溺愛した少女の面影が浮かんだのは衿香の預かり知らぬ事である。


「よろしいですか?積極的な女は彼らには通用しないのです。つまり、私などどれだけ生徒会役員の方々に近づこうと、自滅の道を歩むだけ。親衛隊の方々が私にかまう事など時間の無駄です。さあ、皆さん。私などに構わず、対策を立てるのです。皆さんがこの学園にいらした本当の理由を忘れてはなりません。勝ち組になるために、何を為すべきなのか考えましょう。」

「「「はい!!」」」


夢から覚めたように、彼女たちの目が輝いた。


「ありがとう。衿香さん、いえ、衿香さまと呼ばせて。私たち目が覚めました。」

「いいのです。さあ、皆さん。時間は貴重です。限られた高校生活の時間を無駄にしてはなりません。」

「はい。それでは私たち失礼いたします。」

「ええ。皆さん、ごきげんよう。」


ごきげんよう、と頭を下げながら親衛隊員たちは裏庭を去って行った。


一人裏庭に残された衿香は、特大のため息をついた。


何、語っちゃってるんだろう。

ほんと、勝ち組に一番遠いのは私じゃない。


ぱちぱちぱち。

裏庭に突然拍手の音が響き渡った。


「!!?」


顔を上げる衿香の前に、見たこともない男が降り立った。

降りる!?

どこから!?

衿香がきょろきょろあたりを見回す。

この裏庭に身を隠せる場所はない。

では、この男はどこから湧いてきたというのか。

戸惑う衿香に男はへらりと笑いかけた。


「驚かすつもりはなかったんやけど。ごめんな。あんまり見事な演説で、見惚れてしもたわ。」




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