ちょっと寄り道2
「誤解をされるのは本意ではないのですが、事実だけを見ればそう取られても仕方ありません。親衛隊の方々には不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。」
急にしおらしく頭を下げる衿香に、親衛隊員たちは唖然とした。
「で、では、あなたは自分の犯した罪を認めると言うのね?」
なんとか態勢を立て直した睦月の親衛隊長が衿香に問う。
それに衿香は儚げな笑みを返した。
「皆さまが私のしたことを罪と言うならば、認めましょう。」
「じ、じゃあ、今後、生徒会役員には近づかないと、誓ってもらうわ。」
「それは、出来ません。」
きっぱり言う衿香に、花音は声を詰まらせた。
「…出来ない?ですって?」
「はい。申し訳ありませんが、出来ない約束は出来ません。」
「ふざけないで!」
「ふざけている訳ではありません。でも私は新聞部員として、生徒会の取材を任されています。少なくともこの仕事をやり終えるまで、その約束を守ることが出来ないのです。」
「あなたね…。」
「ところで皆さま?こういうデータをご存知ですか?」
急に、衿香の纏う雰囲気が、がらりと変わった。
「皆さま、親衛隊に属すると言う事は、花嫁の座を狙っていると言う事で間違いないですよね。」
親衛隊員たちは顔を見合わせた。
なにか、ちがう。
彼女たちの顔に戸惑いが浮かぶ。
「私も花嫁候補として、この学園に参りました。そこで興味が湧いたのです。一体何人の女性がその花嫁の座を射止めたのか、という事に。」
中央で微笑む衿香。
それを固唾をのんで見守る少女たち。
先程まで、主導権を持っていた少女たちはあっさり衿香にそれを渡していた。
「まず女子生徒の割合を調べました。男子生徒に比べて女子生徒は四割ほど。そう考えると花嫁の座を射止めるのはそう難しいものではないように思えます。でも実際に在校中にカップルになれた数はそう多くありません。過去五年間の学園内のカップルの総数は百六組。一年平均約二十一組。各学年では平均七組のカップルが存在することになります。これについてどう思われます?花音先輩。」
急に名前を呼ばれた少女は、先程の勢いを失くしおどおどと視線を彷徨わせた。
「そ、そうね。大体そんなものだと思うけれど?」
「では、その百六組の中の女子生徒の割合を知っていますか?」
「割合?」
「百六名の勝ち組の中で内部進学の女子が二十八名。特待生が三十名。花嫁候補が四十九名。」
衿香は花音に視線を飛ばした。
「花嫁候補が一番多いじゃない?なにか問題が?」
衿香は残念そうな顔で花音を見た。
「内部進学組のカップル成功率は九十三%。特待生は三十%。花嫁候補が十四%。花嫁候補の数が多いのは当たり前です。絶対数が多いんですから。でも内部進学の女子がほぼ全員カップリング成功なのに比べ特待生は三割の生徒が、花嫁候補に至っては三百五十人中、四十九名しか成功者がいなかったんです。」
「えーと、つまりどういう事かしら?」
「勉学やスポーツで入った特待生より、家柄や容姿を重きに置いて選ばれた花嫁候補が負けていると言う事です。」
「「「ええ!?」」」
「もう一つ、皆さんに面白いデータを教えましょう。花嫁候補の成功者で親衛隊に所属していた者は何人いると思いますか?律香先輩。」
衿香に指名されたのはこの中でも多少冷静さを保っている少女だった。
「成功したのは四十九人だったわね。……三十人くらいかしら?」
衿香はにっこり微笑んだ。
「残念。親衛隊員の成功者は三人です。」
「「「えええええ!!!??」」」
少女たちの絶叫が、人気のない裏庭に響き渡った。