生徒会室に行こう4
「で?どうなってんだ。説明しろ。」
衿香のいなくなった生徒会室。
木田がどかりとソファーに座った。
「どうもこうも、さっき言った通りだよ。新聞部に朝霧ちゃんの取材許可を出したのは僕だ。」
睦月もソファーに座り、悠然と足を組んだ。
去年までは役員の中でも一人年下で、可愛がられキャラだった睦月だが、会長職にも少し慣れた今、最近急に伸び出した身長とも相まって、風格というものが感じられるようになった。
長い足を組むのも様になっている。
「だから、その理由を聞いている。」
「それもさっき衿香ちゃんの言ってた通りだよ。彼女の正論に、祐真、太刀打ちできなかったでしょ?」
「……キャンキャンとよく鳴く犬みたいな女だったな。」
「朝霧ちゃんを生徒会に引き入れた時と状況がちがってる。去年の事情を知らない奴らが混じりこんでいる今、朝霧ちゃんの事を隠そうとするのは逆効果だと思う。」
「奴らの動向は把握してるのか?」
「まあ、ね。今年は1年生に数名しか入っていないから、難しい事じゃないけど。」
「今年の『純血の花嫁』は何人いるんだ?」
「1年に一人だけ。しかも本人無自覚。」
「え?」
「外部入学だから。」
「なん?」
「奴らもその存在は把握していない。学園でも㊙扱いだし。」
「誰だ?まさか。」
木田の顔色が変わる。
反対に睦月は至極楽しそうに笑った。
「ひ、み、つ。衿香ちゃん苛めた祐真には教えてやんない。」
「おまっ!!なんだそれ!!俺がいつ犬っころを苛めた!?」
「ほらあ。また衿香ちゃんの事犬扱いして。とにかく、朝霧ちゃんの記事は新聞に載せるからね。これは正式に承認された事なんだから、茶々入れないでよね。」
「ぐ・・。」
「祐真は朝霧ちゃんの護衛に徹してもらえばいいんだから。わかった?」
幸田くん、楽しそう。
二人のやり取りを、真田と共に黙って見守っていた雅は心の中でつぶやいた。
「ねえ、真田くんは何の話なのか分かってるんだよね?」
隣でニコニコしている真田に尋ねる。
「うん。まあね。えっと純血の花嫁って言うのは、人外と人外の間に生まれた女の子のこと。」
「玉紀先輩みたいな人?」
雅は今年卒業していった先輩の華麗な笑顔を思い浮かべた。
人外。それは人にあって人にあらず。
いにしえに、人より遥かに優れた能力を持つ、人でない何かと婚姻を結んだ一族。
人外の子供のために設立された歴史を持つ、この学園の男子生徒はほぼ全員が人外だ。
反対に人外は女子が生まれにくいため、この学園の女子はほぼ全員が人間という事になる。
「うん。女の子は生まれる数が絶対的に少ないから、今年は学園には一人しかいない。」
「そうなんだ。で、奴らって?」
「ん?」
「とぼけてる?」
「いや。そうじゃないけど。人外の学園ってここだけじゃないんだ。元々は同じ学園だったんだけど、理念の違いから別れた学校があって。今年はそこから外部受験した男子生徒が数人いる。」
「ふうん。」
「彼らがどういう思惑で入学したのかは分からない。学園が入学を許可した時点で、問題なしと言いたいんだけど、念のため生徒会で監視しているという状態。」
「そうなんだ。」
「木田先輩も雅ちゃんの事になると心配性だからね。」
「ああ・・・。」
さっきの木田と衿香とのやり取りを思い出し、雅の顔が曇る。
いかにもお嬢様然とした衿香は雅に対して、終始下級生としての礼節を崩さなかった。
高飛車な態度をとられる事を覚悟していた雅は、その態度に驚いた。
晴可の存在を知っている上級生はともかく、新入生は雅の生徒会入りを納得していない。
なぜあなたが生徒会に?
どんな手段をとったのか?
そんな侮蔑混じりの質問が飛んでくるのを覚悟していたのに。
彼女との時間が楽しかった。
また話をしてみたい。
そう思わせる何かを持った女の子だった。
そんな事をぼんやり考える雅の横顔を、真田が穏やかに見つめていた。