生徒会室に行こう1
翌日、衿香は城ヶ崎からもらった、朝霧雅という生徒会庶務のパーソナルデータを反芻しながら生徒会室に足を運んだ。
朝霧 雅、四月九日生まれ。十八歳。おひつじ座。血液型はAB。
身長百六十五センチ、体重㊙。
特待生枠で入学。
どんな人なんだろう。
花嫁候補ではなさそうだから、コネや媚を使って生徒会入りした訳ではないだろう。
特待生枠とあるから、がちがちのガリ勉タイプなのかしら。
女子初の生徒会役員に興味津々の衿香の頭からは、ここが誰のための部屋かという基本的な事がすっぽりと抜け落ちていた。
衿香は深呼吸を一つしてドアをノックした。
「……。」
ノックをしてしばらく待ったが、返事がないので勝手にドアを開ける。
「失礼します。新聞部仮入部中の神田です。インタビューのお約束があっ……!?」
衿香が控えめに開けたドアが、いきなり中から引っぱられ全開した。
ドアノブに手をかけていた衿香も一緒に引っぱられ、体が泳ぐ。
「会いたかったよ~~。ようこそ、生徒会に。」
引っぱられて1、2歩よろけた衿香の体が、魔法のように睦月の腕の中に吸い込まれていった。
事態が呑み込めず固まる衿香の首元に顔を埋め、睦月が思い切り息を吸い込んだ。
「うーん。いい香り。」
「ぐぎょあぁ。」
その声に一気に覚醒した衿香が声にならない悲鳴を上げ、もがく。
しまった~~~!こいつがいる事忘れてた!
やめやめっ!!くるしっ!!死ぬから!!
「こらこら。」
必死でもがいてもびくともしなかった腕の中から、誰かが衿香をひょいと助け出した。
「ごめんね。大丈夫?」
爽やかな声に振りかえると、副会長の真田が心配そうな顔で立っていた。
「あ、はい。ありがとうございます。」
「なんだよ~。もう少しいいだろ~。信也~。」
「睦月は晴可先輩に毒されすぎてるよ。」
「え~?そんなことないよ~。ね?衿ちゃん?」
にこにこと悪びれない笑顔の睦月を衿香が半眼で睨んだ。
「そういった事は互いの了承を得た上で行うのが常識だと思いますが。」
「ほら、睦月。嫌われちゃってるよ?」
「恥ずかしがってるだけだよ。僕と衿香ちゃんの仲でそれは了解済みでしょ?」
「了解した覚えはありません。」
「睦月?」
「も~。衿香ちゃんの恥ずかしがり屋さん。」
「「……。」」
成り立たない会話を最初に諦めたのは真田だった。
「会長の頭に花が咲いてしまっているようで、すみません。朝霧さんはもうすぐ来ると思うから、こちらへどうぞ。」
真田に案内されて質のよいふかふかのソファーに座る。
副会長はまともそうね。
衿香は脳内で攻略ブックの真田の欄にポイントを加算する。
でも城ヶ崎部長のこともあるし、しばらく観察しないと。
新聞部部長と生徒会会長の残念っぷりを思い、殊更慎重になる衿香であった。