衿香の回想
こんにちは。ゆうこです。
恋物語に続いてこんなお話を書いてみました。
舞台は同じですが、恋愛要素は少なめになるかもしれません。
お話が進むにつれて、甘くなればよいのですが・・・。
神様仏様、私に力をお貸しください。
神田衿香は祈った。
私は今から戦場に旅立ちます。
どうか、ご加護を。
神田衿香、15才。
人は彼女の容姿を、お人形のようだと讃える。
色白の小さい顔にほどよく配置された目鼻立ち。
小柄な体にほっそりとした手足。
毛先だけくるんとカールしたさらさらの髪は生まれつき。
容姿端麗、頭脳明晰。
幼稚園から中学まで某有名女子校で過ごした、生粋のお嬢様だ。
ぱっと見、大人しく見られがちな衿香は決して内向的な性格ではない。
中学では2年連続生徒会長を務めた、どちらかと言うと姉御肌で面倒見の良い性格だ。
だが、それは女子校にあってこその衿香。
完璧を誇る彼女の最大の弱点。
それはイケメン嫌いだった。
なのになのに、なんで私がこんなイケメンしかいないような学園で、お婿探しをしなきゃいけないの!?
衿香は涙目で無駄に高くそびえる門を見つめた。
この中に入ったら、もう戻れない。
立ち尽くす衿香の頭上に、桜の花びらがはらはらと舞い落ちた。
衿香が通いなれた女子校の高等部に進学できないと言われたのは、つい先日の事だった。
なぜ!?と詰め寄る衿香に、父はヘラリと笑った。
「えっとぉ。会社が危ないんだよね~。」
「ええ!?」
衿香の父は全国的にも有名なグループ企業の社長を務めている。
その会社がまずい事になっているなど、衿香は露ほども知らなかった。
父が言うには、外国企業の買収の的になっているらしく、先の事はわからないらしい。
「でさ~。本当は大学からでいいかなと思ってたんだけど、衿香には行ってもらいたい高校があるんだよね~。そこは全寮制の学校なんだけど、なかなかの優良企業の子弟が揃ってるって有名でね、衿香だったら会社の利益になる出会いができるんじゃないかな~。」
衿香は父の言葉を頭の中で咀嚼する。
「つまり、私に会社の利益になる縁を作ってこいと?」
「ん~。ぶっちゃけて言うとそうかな。パパ、後悔してるんだよね~。衿香の事大事にしすぎちゃったって。衿香、恋愛偏差値ゼロだろ?縁を結ぶ前に、衿香は経験値を上げる必要があると思うんだ。」
「経験値って・・・。」
「もちろん、会社は大事だよ?パパの肩にはもちろん、衿香の肩にも神田の従業員の生活がかかっている。けど、恋のひとつも知らない大事な一人娘に、政略結婚を押し付けるほど、パパは非情じゃないんだよ~。」
「いつ私が一人娘になったのよ。お兄ちゃんの存在を無視しないで。」
「あれは男だし~大学生のくせに自分で起業までしちゃって、神田の力にはならない気満々だからね。」
親父が小首をかしげても可愛くないって。
衿香はげんなりとしてため息をついた。
「そんな悲愴な顔しないで~。スマイルスマイル~。で、もう荷物は寮に運ぶ手配済みだから、明日には寮へ行ってね。これは学園のパンフレットと攻略対象者の名簿。名簿は頭の中に入れたら、処分する事。他に質問は?」
手渡された冊子をパラパラとめくっていた衿香の手が止まった。
「お、お父様?」
「ん~?何か気になった?」
「この攻略対象者って・・・。」
「あ~。全員イケメンってすごいでしょ?外見的にはどれも外れなしだよ~。」
「ぜ、全員?」
「うん。ちなみに彼らを狙う外部受験の女の子たちは、花嫁候補って呼ばれてるらしいよ~。」
「・・・。」
「大丈夫。衿香は可愛いし賢いし育ちもいいし。きっと花嫁候補ナンバーワンだよ~。」
衿香が衝撃を受けていたのはそこではないのだが。
衿香は諦めて猛然と攻略者名簿を頭にインプットし始める。
そんな衿香を父は面白そうに眺めるのだった。