【閑話】王子様と村人A(1)
六原好。
言わずもがな、六原稔の姉である。
彼女を一言で表すのならば、「地味」。しかも彼女はただの地味ではない。地味の中の地味。「地味」のプロフェッショナルとでも言えばよかろうか。彼女はプライドを持った「地味」だった。
「地味こそ人生」
「清く地味であれ」
「地味よ万歳」
すべて彼女の座右の銘である。
弟が「王子様」ならば、さしずめ姉は「村人A」といったところだろうか。
立っているだけでタダならぬオーラが漂う弟と顔の造り自体はさほど違いはしないのだけれど、彼女は長年の努力に努力を重ねた結果、見事なまでに没個性なルックスを手に入れた。
互いに「まったく似ていない」と思っている姉弟であるが、同じ環境で育っただけに、根っこにある信念は同じだった。
嫌われすぎず、好かれすぎず。
それを違ったやり方で貫いた結果が、弟にとっての「猫かぶり」であって、姉にとっての「地味」であったというだけのことである。
互いのそれを、処世術であると理解しているだけに、姉、六原好には、最近の弟の急激な変化が非常に気持ちが悪く感じると同時に心配でもあったのだった。