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もし、あの事故で万が一の事が起きていたのなら家族は絶望的であっただろう。幸い、腕一本なくすだけで済んだ……じゃない。

腕一本丸ごとなくすのは、ピアノを弾く人にとってはなんて悲しいことなのだろう。普通の人でさえ、腕一本失くすということは人生の楽しみの半分以上を失うことと一緒。自由を奪われた僕はピアノでできる事の四分の三の事をできなくなった。ああ、悲しいよお。

ツェルニーを練習し始めてから早一ヶ月。面白い弾き方を「世界の名人」という番組で見た。

画面に映ってたのは、柏谷飛史。有名なギター奏者だ。この人も僕と同じように腕がない。それも一本だけではなく、両腕無いのだ。

正直言って、どうギターを弾くというんだ、と最初は思った。でも、不自由なのは手だけで、足は何の変哲もないということを思い知らされた。

柏谷飛史さんは上手に弦を足の指で操り、見事難しい曲を演奏していたのだ。

「もしかしたら俺も彼と同じようにピアノを弾けるかもしれない。」僕はそうつぶや

いた。

「ニャー」

猫ちゃんに聞こえちゃったのかな、賛成しているのか、反対しているのかは分からなかったが、僕の決心はついたのだった。

番組が終わると、僕は防音室へ直行しようとした。当然ながら、今見たばかりの「足で楽器を弾く」をやってみたかったからだ。

そこえものすごくタイミング悪く、「ピンポーン」と玄関のベルが鳴った。扉を開けると、またまた孝次がいた。

一体何回来れば気が済むんだよ、と思いつつ、彼を迎え入れた。

「利久、とっておきの弾き方を見つけたんだよ!やってみない?」

あ、もしかしてさっき見た番組、孝次もたまたま見たのかな。

「お前も『世界の名人』を見たのか?」僕はそう聞くと孝次は驚いてた。

「あ~あ~そうそう、それそれ。足で弾くやつだよね。」

やっぱり、思った通りだった。孝次と僕はしょっちゅう同じ番組を見てるんだよね。

「うん。俺、今それ早速やろうと思ったんだけどお前が来てさあ。」

「はあ?来ちゃ駄目?いいよ。じゃあ、帰る。」

「おいおい、相変わらず冗談通じねえな、お前は。」

そして、大切なピアノを汚したくないから足は石鹸で良く洗った。そのあと、早速足を鍵盤に乗せました。

今までに感じなかったこの微妙な感覚。この姿勢結構つらい。

「さあ、弾いてみよう、はーい、ドからドまで、さあ、早くう。」

それから一時間、僕は練習に夢中になった。なぜなら、意外と簡単だったから!ヤッホー!やばい、僕、踊りそうです。

さすがの孝次も僕の新たな才能に唖然としている。いい気分になるなあ、これって。

手が無くなると、その代わりに足の指が器用になるのですかね。それとも、僕の生まれつきの才能なんですかね。

ちなみに、今、足で弾けるのがツェルニー練習曲第一番の伴奏部分。四分音符以上に短い音符がないから楽だ。メロディーの部分は左手に任せれば完璧。すごく嬉しかった。

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