ドラゴンと死者と人間
俺が来た死の穴が……まだ追ってきてる。何すればいいんだよ。
目ぇ痛ぇし、手は血だらけ。
鼓膜も完全にやられてて、もう何も聞こえねぇ。顔もねぇドラコニドが、周りに転がってる死体の山漁ってるの、ただ見てるしかできねぇ。何度も同じこと考えちまう。「どうやって俺、こんなとこ来ちまったんだ?」日の光が、一人の骸骨照らしてた。この世界じゃ見たことねぇような変な服着てる。
土と血だらけで、胸に知らない名前のプレート付いてた。ルートヴィヒ・カイザーなんか黒いもんが、骸骨の中に流れ込んでるみたいだった。
ヤバいエネルギーだ。誰かが、本来この世界にいちゃいけねぇ魂引っ張り込んできたんだろう。
別の世界から無理やり引き剥がされた魂。
なのにその魂、まだしぶとく生きようとしてやがる。消えねぇ。枝のきしむ音がした。骸骨がゆっくり上体起こした。
頭蓋骨がちょっとだけ動いて、顎開いた。
体が「まだ動かねぇと」って受け入れたみたいに。王国の都じゃ、商人どもがうるさいくらい怒鳴ってた。「さあさあ、どうぞ! 後悔しねぇっすよ! 聖水で祝福された瓶入りポーションで!」当たり前だけど、真っ赤な嘘だ。フード深めに被ったドラコニドが、店見ながら歪んだ顔して独り言。「こんなゴミ買う馬鹿、いねぇだろ……」そしたら白い肌の若い男が近づいてきて、小銭出してポーション何本か買いやがった。ドラコニド、頭おかしくなったみたいに笑い出した。男は茶色い髪に青い目。
この辺、ほとんど色黒の人間ばっかの地区だ。この国じゃ、冒険者としてちゃんと強くなった有色人種しか、堂々と金持ってるの許されねぇ。
それ以外がそうしてると、すぐ怪しまれる。ドラコニド、心の中で。「どうせ王族の甘ちゃん小僧が、駄々こねて逃げ出してきたんだろ。
面白くなっちまいそうだ……」ところが急に、人たちが不安そうに道開け始めた。そこそこ背あって痩せた人影が、足引きずりながら近づいてくる。
死人みたいな歩き方だ。変な服着て、口から管生えた緑の仮面被ってる。
体から金属プレートぶら下がってて、歩くたびにカチャカチャうるせぇ音させてる。ドラコニド、身構えた。人影は若い男の前で止まった。
男、全然反応しねぇ。ドラコニドが殴りかかった。
相手も避けようとしたけど、遅かった。拳が顔面にガツンと入って、仮面吹っ飛んだ。
下から出てきたのは、空っぽの頭蓋骨。何人かが悲鳴上げて逃げ出した。でも若い男は、他人事みてぇにただ突っ立ってる。骸骨がもう一回、今度は弱めに男殴って、しゃがれた声で言った。「ただ……助けてほしいだけなんだ」男、イラついたように言い返した。「お前が悪いだろ。そんなブサイクな顔で人驚かして」骸骨、怒ってまた殴った。ドラコニドが割り込もうとした、その瞬間——
皆がフードの下見た。顔がねぇ。
底なしの黒い穴だけがあった。二人の間に挟まれた若い男が、声震わせて呟いた。「今日は何なんだよ……なんで俺なんだよ」ちょっと考える。「どんだけ罪作ったら、サタンとルシファー揃って隣に来るんだよ……」あまりに馬鹿馬鹿しい光景に、周りの人間、何考えていいかわかんなくなってた。普通の人間が呪われた奴二人に挟まれてるなんて、何千億人に一人あるかどうかだ。
この世界の呪われた奴ら、全部合わせてもだいたい三千六百万しかいねぇ。「あの三人、何かのグループなのか?」誰かが小さく言った。地面に座ったままの若い男が、今度はドラコニドに殴りかかった。拳は黒い穴に吸い込まれて——
次の瞬間、同じ力が跳ね返ってきて、男を後ろに吹っ飛ばした。「なんだよそれ!? 攻撃吸って跳ね返す魔法かよ!?」男が、痛ぇのと怒りで顔歪めながら叫ぶ。ドラコニドはもう男無視して、骸骨の方見た。
そこにあるの、ただの空っぽの眼窩だけだ。ちょっと背筋冷えた。
警戒した声で聞いた。「お前……何なんだ?」骸骨は表面じゃ落ち着いてるように見えた。
でも本当は、怖くて頭いっぱいだった。
自分がどこにいるのかすらわかんねぇ。この世界じゃ聞いたことねぇ訛りで答えた。「ドイツ軍の者だ。この辺り偵察してた……
で、お前は? 一体何者だ、得体の知れねぇ奴め」ドラコニドが、信じられねぇって顔で見た。「ドイツ軍なんてねぇよ。
死から戻ってきたせいで幻覚見てんのか?」骸骨、首横に振った。「銃弾食らって……気づいたら木の下にいた。
体重くて、何が起きたのか全然わかんねぇ」ドラコニド、完全には信じちゃいねぇ様子だった。「どうせ幻覚だろ。
それに、かなりジジイに見えるぞ」「二十一歳だ! ジジイじゃねぇ……ただ疲れてるだけだ」その時、近くの商人の一人が鏡取り出して、骸骨の前に出した。骸骨、自分の姿見て完全に固まった。
で、本気でパニックになって叫んだ。「俺は……俺は前は肉と骨のある人間だった! 何が起きてる!?」ドラコニド、黙って観察しながら心の中で。「この野郎、本気で怖がってるな……
本当に別の場所から来たのか?
いや、ねぇだろ。落ち着きすぎだ……」(実際のところ、骸骨は怖くて死にそうだった。
ただ、パニックにならねぇよう訓練されてただけだ。)まだ地面に座ったままの若い男が、小さく呟く。「俺、何に巻き込まれちまったんだよ……」その時、遠くから重い足音が聞こえてきた。
何人もだ。鎧着た連中が急いで近づいてくる音。
まだ残ってた見物人たち、すぐに道開けた。




