なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
最後の聖女召喚は閃光と熱と共に ~罪の連鎖が終わる時~
三日前まで王女だったわたくしは、罪人として辺境に護送されています。
聖女召喚の儀に反対したからです。
去年から始まった魔王との闘い。
人類と魔族のあいだで、何百年、いや何千年も続いている戦い。
それはいつも、聖女を召喚し、その聖女の犠牲で終わるものでした。
今回も王国はそうしようとしたのです。
わたくしは反対しました。
王宮の禁書室で、歴代の聖女たちが残した文章を見てしまい、聖女召喚は、彼女達にとっては単なる誘拐でしかなかったことを知ってしまったからでした。
わたくしの主導で開発された、対魔族の兵器は効果を発揮していましたし。
魔王との会談の準備も水面下で進んでいました。
ですが、それを叛逆と取られたのです。
わたくしを脅威と考えていた陛下と王太子殿下と大神殿が結託したのでしょう。
大神殿の護衛兵と近衛により、わたくしが主導していた研究所は襲撃されました。
生産が開始され始めていた対魔族用兵器は、全て、偽物として破壊され。
わたくしに賛同していた人々も処刑され。
わたくしは王族なので、処刑はされず。
王都から一カ月ばかり離れた廃離宮へ監禁されることになりました。
遠くない将来に死ぬのでしょう。
その証拠に、捕まったその日に、わたくしは王太子――兄――に純潔を散らされ。
その後は、護送の兵達に毎晩女として扱われています。
護送開始から二日後。
護送の馬車に、騎士の一団が追い付いてきました。
率いているのは、わたくしの処刑を強硬に主張していた神殿の副護衛長でした。
兄と一緒に、わたくしを辱めた男でした。
この男は、軍の一部が『聖女なしでも独力で魔王と戦える』と、わたくしを支持していたので。
軍の動きを牽制するために、王都郊外に配置された部隊を指揮していたはずです。
おそらくわたくしを殺しに来たのでしょう。
その前に辱めるつもりでしょうか。
ですが、彼の行動は意外でした。
副護衛隊長指揮下の兵は、わたくしの護衛についていた兵士たちを皆殺しにしました。
そして、体を満足に覆う事さえ出来ぬボロをまとったわたしの前に跪き。
「王女殿下、王都へお戻りください」
意外な言葉でした。
その顔は青ざめ疲れ切っておりました。
「わたくし、もう王女ではありませんわ。貴方方がそうしたではありませんか」
ああ、なるほど。戻って処刑しないと気が済まないということでしょう。
「あれでは足りず、広場で辱めようということでしょうか?」
副護衛長は、ひどく気まずそうに視線をそらしました。
「あなたの子種を孕ませたかもしれないから、その子を王にでもしたくなったのですか?」
「あ、あの時は……殿下に……」
「なるほど。貴方は上の人間に言われれば、なんでもするのですね。死ねと言われれば死ぬと、立派な心掛けですわ」
副護衛長は、ぶるぶると震えました。
どうも、事態はわたしの想像の外にあるようです。
「……なぜ、わたくしを今更王女と?」
「……もう王族は貴女しかいないのです……」
これまた意外な言葉でした。
「王都で何か?」
「王都は消滅しました。神殿も……いえ、一番外郭の城壁を残して跡形もなく……」
「……」
わたくしは言葉を喪いました。
ですが、この様子を見る限り、嘘とは思われません。
「神殿前広場で聖女召喚の儀が行われていた時刻、王都は消滅したのです」
「一体なにが」
「……わかりません。ですが、王都中心部は閃光と共に跡形もなく消滅したことは確かです」
焼失ならわかります。大火事でもあったのでしょう。
崩壊でもわかります。この王都で起こったことはありませんが、地震というものがあります。
被災地を調査と慰問に行ったことがありますから……。
ですが消滅?
「焼失でもなく崩壊でもなく、消滅?」
「……はい、それ以外の言葉がないのです……私以外の高官は全て、行方知れずです」
「消滅と共に消えた、と」
「はい……」
「では、戻りましょう。ですが、その前に、幾つか手紙を書きたいのです」
「……なんなりと」
それでもわたくしはまだ半信半疑でした。
ですが、引き返し、王都を望見できる峠まで来た時、信じざるを得ない光景を見ました。
王都は文字通り消滅していました。
外城壁を残して、その中はあとかたもなくなっていたのです。
わたくしは、処刑を逃れ、かつ信用のおける人間を王都に呼び出し。
彼らと共に王都の調査を始めました。
消滅と言っても、まったいらの地面になってしまったというわけではありません。
建ち並んでいた建物の残骸や、石組の一部は延々と続く瓦礫となって残っています。
それらの破壊の状況からして、被害は、神殿前広場を中心に広がっています。
建物の石材は焼けただれ、鉄は飴のようにねじ曲がっておりました。
そして、鉄は、神殿前広場から遠ざかるほど、原型が残っておりました。
会議の冒頭でわたくしは言いました。
「おそらく、召喚した時に、凄まじい熱と暴風が発生して、王都は壊滅したのでしょう」
副護衛長は、震えておりました。
「召喚に失敗した……ということですか……王女殿下が正しかった……のですね」
「さぁ。この事態まで予測していたわけではありません」
わたくしが呼び寄せた、兵器の専門家が、
「……これが自然災害とは思えません。魔法でもありません」
「そうですね」
「我が兵器局が開発していた硝石と炭と硫黄の混合物を爆発させたケースと似ている感じがします。規模は全く違いますが」
副護衛長がますます身を縮めました。
彼は、兵器局の試作兵器の数々を、偽物だとして破壊した責任者だったからです。
「他の世界から何かを召喚するのですから、不測の事態が起こっても不思議ではありませんね」
もしかしたら……いや、推測するには材料が足りなすぎです。
わたくしは、即位の儀式もないまま書類上即位しました。
王にならなければ出来ないことがあったからです。
まず、密かに進めていた魔王との会談を今度こそ実現しようとしました。
半ば予想通り拒否されました。
王都は壊滅し、わたくしの主導して開発した兵器類も喪った今となっては、向こうは和解する気などないようです。
代りに魔王が突きつけて来たのは、王国の無条件降伏。
さらには、王国の人間は全て魔王の私的財産にするという要求。
魔王によって人間は奴隷として支配されるのでしょう。
こちらには、なんの反抗する手段がないのですから。
和解は、こちらの力がある程度あるからこそなりたつものなのです。
わたくしは、ひとつの決断をしました。
魔王からの提案を拒否し、徹底抗戦をするという返答しました。
もし戦を終わらせたければ、王都まで来いと。
魔王軍は無人の野を進むように快進撃を始めました。
わたくしは軍に時間稼ぎのみを要求しました。
それならば対魔族用の兵器がなくても、ある程度は戦えます。
進撃路にあたる住民たちを疎開させる時間を稼がせます。
更にわたくしは、有能な神官たちを王都へ召喚しました。
王都の大神殿は消滅しましたが、地方に、権力争いで敗れたり、有能であるがゆえに追放された神官たちが何人が残っていました。
そして、王都に進撃して来る魔王軍を待ち構えたのです。
魔王軍が王都へ降伏勧告をしてきます。
わたくしは最後の王としてそれを拒絶しました。
わたくしの首を取りたければ、神殿前広場で待っていると。
一番外側の外郭城壁をめぐる戦いが始まりました。
敵は圧倒的、ですがそれでも時間を稼いでもらわなければなりません。
巨大な爆発音が轟きました。
ほどなくして伝令が駆けてきました。
「神殿副護衛長殿が、戦死いたしました」
「……そうですか」
わたしは彼を送り出す時に告げたのです。
貴方は上の人間に言われれば、なんでもするのですよね。でしたらこの戦いで死になさい、と。
真っ青になった彼は、うなずきましたが……本当にそうするとは。
「ですが、副護衛長が秘匿していた兵器によって四天王のうちふたりを殺害。魔王にも手傷を負わせたようです。敵の進撃は遅れております」
彼は、わたくしが主導して開発した兵器を数点秘匿していたそうです。
いつか、使うために。
恐らく、権力争いやクーデターのためだったのでしょうが……
あれらの兵器の知識をもつ人間は、何人か生き残っています。
全て地方にいます。
もし、最後の企てがうまくいかなくても、人類の反撃の手段は未来に残ります。
一瞬だけ戦いの音が止みました。
幹部が立て続けに戦死し、魔王も手傷を負った魔王軍は、体勢を立て直すために停止したようです。
僅かの時間でしょう。
ですが、間に合いました。
廃墟と化した神殿前広場の空き地には、巨大な聖女召喚の魔法陣。
そして僅かに残った神官。
仮の玉座についているわたくし。
こんなものに座っていたくありませんし、欲しくもありませんでした。
ですが、もう立っていられないのです。
わたくしは王都に帰還してから一週間後あたりから、急速に具合が悪くなっていました。
髪は次々と抜け、めまいやたちくらみや頭痛に始終襲われる状態になっていました。
いつも口の中には血の味がします。
それでも、最期まで最後の王としての務めをまっとうしなくてはなりません。
「ふ……」
思わず、乾いた笑いが漏れました。
聖女召喚に反対していたわたくしが。
恐らく最後となる召還を実行する王になってしまうとは……。
王都の廃墟を貫く大通りに、魔王軍の隊列が現れました。
わたくしは、宣言しました。
「これより聖女召喚を実行する」
口の中に血の味がします。
神官たちが、一斉に祝詞を唱えだしました。
魔法陣の直上の空間が徐々に歪んでいきます。
透明なカーテンを折り曲げたように青空が歪み。
ガラス越しのようにゆらめいていきます。
ゆらめきながら現れたのは巨大な黒い球体。
明らかに人工物。
この世界の感覚では武骨すぎる金属の塊。いや装置。
ああ。やっぱり。
その瞬間。
黒い球体から熱と閃光が放たれました。
王都はまっしろな閃光に包まれました。
魔法ではない、凄まじい熱量。
最後の瞬間、わたくしははっきりと悟りました。
あれはこの世界のものではない。
魔法で動く武器ではない。
これは、なにか別のものだ。異種の兵器。
我々が何度も召喚と称して、聖女を拉致していた世界。
あれは、おそらく、その世界の兵器。
その世界から送り込まれた反撃なのだと。
白い光と熱に、魔王もわたくしも呑み込まれていきます。
召喚の知識をもった神官たちも、これで死に絶えます。
これで、いいの、です。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
評価や感想をいただけるととても励みになります。
別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




