世界一優しい魔王
「今日も暇だな…」
俺はぽつりと呟いた。ここは魔王城。皆様のご想像では魔王城はめちゃ黒くて紫で禍々しい感じだと俺は思っている。だが、俺の魔王城は違う。そう、めちゃ普通の城なのだ。西洋風の。俺の名前は坂本 広志。転生した人間である。それで現在は魔王…いいや、訂正しよう。世界一優しい魔王である。俺はもともと、お人好しなのでめちゃ親切なのだが、それが魔王になっても変わらなかった。
「おい魔王出てこい!」
「なーんだ勇者かぁ…」
俺は言われた通り出てくると勇者アレクサンドラが姿を現した。どうやら懲りずに勇者パーティーを引き連れてやってきたようだ。
「だーかーらー、俺は魔王だけど戦うつもりはないの。ただただへーぼんな毎日を過ごしたいだけであって…」
「知るか!《フロストサンダー》!!」
《フロストサンダー》氷と雷を混ぜ合わせたアレクサンドラの得意スキルだ。俺はフロストサンダーを軽く握りつぶした。
「は…?」
「お前はただ無駄な時間を非合理的に使ってんの」
俺はステータスを見せる。そう、俺はLV999なのだ。
「んじゃあ、毎度お馴染み…《タイムストップ》!」
スキル《タイムストップ》時を止めるスキルである。俺はアレクサンドラと勇者パーティーのメンバーを街に返すと魔王城へ戻って、《タイムストップ》を解除した。
「おーい、アビス~人間と共存できる方法分かったか?」
「魔王様、人間どもと共存など無意味では…?」
「俺は平和主義者なの~」
こいつは真面目すぎる俺の部下、メイド・イン・アビスだ。名前がクソダサいのにクソ長い。
「後、魔王様じゃなくて広志でいいぞ」
「いいえ、魔王様と呼ばせていただきます」
「じゃあ、もういいや。休め」
「ハッ!」
アビスは闇の中に消えていった。俺は深いため息を漏らした。どうしたら戦いが絶えるんだろうか…そんなことを考えた時、一つ思った。
「普通に話せばいいじゃねえか」
どうして出てこなかったんだろうか。魔族は善人ですよアピールをすればいいんだ。俺は変身スキル《ヒューマン》を使った。
「よし、良い感じの人間だな」
俺は《タイムストップ》を使って、勇者たちがいる街へ向かった。
移動終了後、俺は街の端で《タイムストップ》を解除した。
「よし」
俺はまず食料を調達しに行った。
「おっさん、リンゴ一つ頂戴」
「あいよ、1ゴールドだよ」
「んじゃあ、これ」
俺は1ゴールドを渡した。買ったリンゴをかじって考える。
(さーて…魔族は良いやつですよアピールをしなきゃな)
すると悲鳴が聞こえた。おそらく女性の悲鳴だろう。
「スキル《ホップステップ》!」
《ホップステップ》移動速度とジャンプ力が3倍になるスキルである。俺は3倍になった身体能力で悲鳴が聞こえた所へ向かった。
「やめて下さい!離して下さい!」
どうやら、不良のような人物に絡まれていたようだ。俺は絡まれている女性をよくよく見た。勇者パーティーの一人だ。確か名前はアリア・クリスタルだったような気がする。俺は《タイムストップ》を使い、アリアを助けた後、拘束スキル《デスチェーン》を使って不良を拘束した。名前の割には結構しょぼいスキルである。そして俺は《タイムストップ》を解除した。
「大丈夫か?」
「は、はい…」
何が起こったのかおそらく理解できていないのだろう。
「あ、ありがとうございます!その…名前は?」
「広志だよ」
俺、坂本広志の名前は世間には公表されていない為、普通に名前を出すことができる。助かる。
「私は…」
「アリア・クリスタル。職業、僧侶じゃねえの?」
「せ、正解…です」
やっぱりあっていた。少し安心した。別人だったらめちゃ気まずい。
「ていうか…どうやって助けてくれたんですか?」
「ん?ああ、《ホップステップ》使ったんだよ。元から身体能力をめっちゃ高かったからな」
俺は適当な言い訳を考えて言った。するとアリアは「そうなんですか…」と少し頷いた。良かった、このしょうもない言い訳が通じたようだ。そして俺は今、気づいた。アリアをお姫様抱っこしていることを。
「おっと、降ろさねえとな…はい」
普通の男ならこんな美女をお姫様抱っこしていることにテンパるだろう。まあ、俺は距離感バグ女子と付き合ってたからな。これくらいお茶の子さいさいである。
「じゃあな」
俺は《ホップステップ》を使って、嵐のように過ぎ去った。
(ってあ!魔族悪い奴じゃないですよアピールを完全に忘れてた!!」
ただ、人間界を楽しんだだけなのである。だけど…
「まあ、別にいいか」
そんなことを呟いて俺は魔王城へ帰るのであった。




