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来年、スマホが黙る夜

作者: 徒然生成
掲載日:2025/12/19

✦来年、スマホが黙る夜


---


来年、

スマホが使えなくなるかもしれない。


理由は、

誰もちゃんと教えてくれない。


---


★目次


第一章 止まる動画と、弱い電波

第二章 母が歌で戻ってくる

第三章 田んぼの町の尊厳

第四章 四十九歳の金融マンの「理想」

第五章 考えないことに慣れた人たち

第六章 停電が日常になる

第七章 それでも止まっていく

最終章 来年のことを、少しだけ本気で考える


---


★第一章


〜止まる動画と、弱い電波


最初におかしいと思ったのは、

エアコンの音じゃなかった。


YouTubeだった。


動画が途中で止まり、

画面の真ん中で円が回り続ける。


Wi-Fiの表示は出ている。

だから、

電波が弱いだけだと思うことにした。


そう思うのが、

一番簡単だった。


僕は六十七歳で、

郊外のニュータウンの端にある

古い一戸建てに住んでいる。


四十年ぶりに戻ってきた家だ。


母が入院している施設が近くにあり、

見舞いに通うには都合がよかった。

理由は、それだけだった。


ノートパソコンも、

スマホも、

どちらも「少しだけ」調子が悪い。


固まる。

遅れる。

保存に時間がかかる。


新聞の片隅に、

小さな記事があった。


「国内で新設されるAIデータセンターは

 1施設あたり50〜300メガワット規模」


数字の意味は、

そのときは分からなかった。


ただ、

「とてつもなく大きいらしい」

という感触だけが残った。


---


★第二章


〜母が歌で戻ってくる


母は認知症だった。


けれど、

音楽療法を始めてから、

確かに変わった。


記憶ではない。

もっと柔らかい部分だ。


スマホで昔の歌を流すと、

母は口を動かす。


音程は、

合ったり外れたりする。


でも外れている日のほうが、

母は楽しそうだった。


「あんた……」


それは、

僕の名前だった。


父は大学の名誉教授だった。

家にはいつも「正解」があった。


僕はスパルタ教育を受け、

結局、三流大学に進んだ。


母はよく言った。


「あなたは、お母さんに似たんよ」


それで話は終わっていた。


だから、

母が歌で変わっていくのを見て、

僕は少し混乱した。


新聞には、

別の記事も載っていた。


「最新半導体メモリーは

 AIデータセンター向けに

 優先供給されている」


僕のパソコンは遅い。

母の歌声は鮮明だ。


世界は、

別の優先順位で動いているらしかった。


---


★第三章


〜田んぼの町の尊厳


この町は、

もともと田んぼだらけだった。


水路があり、

風が水面を渡っていた。


平らで、

水が多く、

空が広い。


「何かを建てるには、

ちょうどいい土地」


そう言われる条件が、

すべてそろっていた。


田んぼは消えた。


代わりに、

巨大な四角い建物が並んだ。


夜になると、

そこだけが昼のように明るい。


役所の掲示板に、

こんな説明が貼られていた。


「最新施設では

 冷却用として

 1日あたり数万トン規模の水を使用」


数万トン?


それがどれほどの量か、

説明はなかった。


ただ、

この町の水路が

静かになった理由は、

少しだけ分かった気がした。


---


★第四章


〜四十九歳の金融マンの「理想」


施設のロビーで、

四十九歳の男と話をした。


金融関係の仕事をしていると言った。


「この辺り、

 これから一気に来ますよ」


彼はタブレットを見せた。


そこには、

四角い区画がいくつも並んでいた。


「一拠点で、

 小さな都市一つ分の電力です」


彼は笑った。


「でも大丈夫です。

 国が後押ししてますから」


24時間。

1秒も止められない。


止めるのは、

人の生活のほうだと、

彼は冗談みたいに言った。


---


★第五章


〜考えないことに慣れた人たち


テレビは言う。


「電力需給が逼迫しています」

「節電にご協力ください」


理由は、

詳しく説明されない。


動画が止まれば電波のせい。

スマホが固まれば端末のせい。


「2030年には

 データセンターだけで

 日本全体に近い電力消費」


そんな数字も流れる。


でも誰も立ち止まらない。


考えないほうが、

楽だからだ。


---


★第六章


〜停電が日常になる


停電は、

音もなくやって来た。


冷蔵庫が止まり、

炊飯器が沈黙する。


一度きりではなかった。


いつの間にか、

「計画停電」という言葉が

普通になった。


「データセンターは

 社会インフラとして

 優先供給されます」


その意味を、

誰も説明しなかった。


僕の家は暗い。

あの建物だけが明るい。


---


★第七章


〜それでも止まっていく


計画停電をしても、

うまくいかない日がある。


「想定外」

「外部要因」


空のニュースでは、

太陽フレアの話をしている。


電気が止まると、

人は弱くなる。


短気になり、

疑い深くなる。


それでも人は、

AIに聞こうとする。


でも停電の夜、

AIは黙る。


画面は、

黒い鏡になる。


---


★最終章


〜来年のことを、少しだけ本気で考える


母は歌う。


歌っているあいだ、

母はここにいる。


僕は

モバイルバッテリーを買い、

小さなソーラー電源を調べ、

水と缶詰を少しだけ備えた。


新聞には、

こんな数字が載っていた。


「1施設あたり

 年間数千万立方メートルの水」


来年、

何が起きるかは分からない。


でも、

電気が止まったら

生活は簡単にほどける。


それだけは、

もう想像できる。


AIを捨てる気はない。

母を戻しかけているのは、

スマホの中の歌だからだ。


ただ、

前みたいには笑わなくなった。


笑わなくなった代わりに、

考える時間が増えた。


それは、

人としての尊厳に近い。


---


★【作者より】


この物語は、

不安を煽るための話ではありません。


ただ、

「もし電気が止まったら?」

と、

一度だけ考えてもらえたら

それで十分です。


来年のことは、

誰にも分かりません。


でも、

考えることだけは、

今からでもできます。

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