ボツ集その5
「はい、ここが冒険者ギルド!」
「酒場の間違いじゃないのか?」
「いやいや、ここで合ってるよ。ねぇ、お姉さん!」
「はい、冒険者ギルドへようこそ。新しく来られた異界人の方ですね?」
どう見てもカウンターの向こう側にあるのは酒棚なんだが……
「まぁ、そうだな。ついさっきこっちに来たばかりだ」
「それでは説明させていただきますね。まず新しく来られた異界人の方は全員もれなく冒険者ギルドに登録していただきまして、証明書の発行をいたします。こちらがなければ街に入ることはもちろん、他のギルドを使用することもできませんのでご了承ください」
「いっぱい異界人が来てた頃は時々登録しないで街に入ろうとしたおバカさんがいたんだよねぇ。こっちまで迷惑かかるから辞めて欲しいよ、まったく!」
ぷりぷりと怒るクランを横目に、カウンター越しに差し出してきたのは
「銅板……?」
「いわゆる駆け出し冒険者と言うやつですね。このフリヘイトの世界にはあちらこちらに冒険者ギルドがあります。冒険者ギルドで依頼を受けて報告することでポイントが貯まります。一定数貯まりましたら、次のランク、中級になります。更に貯めることで、上級、伝説級となります。ポイントは王都にあります冒険者ギルド本部で様々な素材や武器などと交換できますので、頑張って依頼をこなしてくださいね」
フリヘイト。
それがこのVSWにおける世界名称。
フリヘイトの世界自体は非常に広く、サービス開始から5年が経った今尚、果てが見えないとのことだ。
「それでですね。まずはこの銅板に手を当てて頂いてよろしいですか?」
「こうか?」
右手を銅板の上に載せる。
特に何も起きないが……
「はい、それで結構です。そちらの銅板はもうあなたのモノになりましたので、しまって頂いて結構ですよ」
「随分とアッサリしているんだな。魔力を込めるだとかそういうのがあると思っていたが」
「種族によっては魔力がない方もいらっしゃいますから。もしそういった歴史をお知りになりたいのでしたら、王都の方へ行ってみては如何でしょう? あそこの資料室はそれこそ冒険者ギルド創立からの歴史書が沢山ホコリを被ってますから」
ホコリを被ってちゃ意味がないと思うが……
「それでこれからどうすればいい?」
「んー、そうだねぇ。何か依頼でもある?」
「今のところは特に……見ての通りここも閑古鳥ですし……村も平和そのものですし……」
だろうな。
精々農作業を手伝うくらいしかなさそうな村だ。
「じゃあさ、次の街でも目指しちゃう?」
「街か。近くの街はどんな街なんだ?」
「ここよりは大きな街ですよ。名前をリニダーと言いまして、この村が5つは入るほどの大きさですね」
「かなり大きいな。近いのか?」
「村の出口に森があるのですが、その森を超えた所にあります」
「ならそこを目指すか。この銅板があれば、入れるんだな?」
「もちろんです。ただ無くしてしまった場合、再発行にお時間と罰金が取られますのでご了承ください」
「いくらなんだ、その罰金は」
多分ランクによって変わるんだろうとは思うし、無くさないつもりでもいるが……
「一律100万セーリになります」
「……随分と……あー、高いんだな?」
「無くされる方が沢山いらっしゃいまして……異界人の方々が来られてからは更に増えましたので。結果としてこのような大金に……これに関しては初級も中級も上級も関係ありませんので」
「初級もか? 他はわかるが、初級には厳しいんじゃないか?」
「だからこそです。常に意識して無くさないように心掛ける、それも冒険者としての教えですから」
1番やらかす可能性があるからこそ、常に気を引き締めさせるのは……まぁ、理にかなっているのか?
「あとですね、無くしてしまって、罰金を払えない場合は一定の期間特別依頼を強制受注していただきます」
「特別依頼?」
「街の清掃や下働き、街中でギルド間の配達、書類整理、上げればキリがありませんが、街に行けば仕事は沢山ありますので」
「あー……なるほど、な?」
ようは雑用というわけだ。
「ちなみにそれ、初回限定だからね」
「……次からは更に跳ね上がるのか……」
「いえーす」
カウンターに突っ伏したまま答えるクラン。
何かあったんだろうな……
「ようは無くさなければいい話だ。必要な時以外はしまっておこう」
「その方がよろしいかと」
「色々助かった。次の街に行こうと思う」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
なんかこっちの方がちょっといいと思う......いや、最初がアレすぎたか




