ボツ集その32
「……ヒト族の悪あがき……ねぇ。無駄だった訳だが、まぁお前の最後はこのオレが覚えておこう」
まさかヒト族が自爆するとは思わなかったが……魔法を使えるならそれもそうか。
「で、だ。小娘、老いぼれの最後はちゃんと見たな? 」
手元にいる小娘からの返事はなし……と。
つぅーか泣いてねぇか?
まぁ、構いやしねぇけども。
「アニキィ! 大変だァ!」
「ん? よぉ、随分と久しぶりじゃねぇの」
正直覚えてねぇが……封印されて随分経ってるみてぇだし、それも仕方ねぇってことで。
つぅーか、あの山知らねぇし。
「王が! あっしらの封印が解けたの感じたらしく、こっちに向かってるらしんでさぁ!」
「……あ?」
王。
我らが王。
あの城の奥でどっしりと構えてる王が。
「何だってヒト族の街まで……」
「わ、分からねぇでさぁ! と、とにかくあっしらがここらで、暴れてたのがバレちまったら……」
「うろたえるんじゃねぇ! この近くにヒト族はこの小娘以外に気配はねぇ。つぅことは、だ」
手元の小娘を離して、空中で掴み直す。
おうおう、こっちを一丁前に睨んでやがる。
たった一つしかない目で。
恨みのこもったいい目だ。
「……目は惜しい、か。おい、口を開けさせろ。やぶくんじゃあねぇぞ?」
「へ、へい!」
恐る恐る口をこじ開ける子分らしいヤツ。
さて、と。
「本当はよぉ、もう少し遊ぶつもりだったんだが……そうもいかなくなった。だから、お前の言葉とその腕、貰っていくぜ?」
六本腕のうちの一つ。
代価にするにはちと惜しいが……嫌な気配が近づいてきやがる。
少し急ぐか。
「ソレはな、呪いだ。お前の言葉と腕、そしてオレの腕を犠牲にして」
小娘の口と片腕にそれぞれナイフを突き立てる。
本当は両腕にしたかったが……それだと面白くない。
あぁ……この先の楽しみがなくなっちまうよなぁ?
「お前に呪いをかける。いつか、この先、必ず、オレの元へ来い。オレがどこにいようと必ず来い。そういう呪いをお前にかけてやる。安心しろ、呪いが解けることはない。必ずオレの元へ来ることになる。その時までにこのオレを少しは楽しませられるように努力しておけよ」
小娘を手放す。
地面にへたりこんだ小娘は放っておくとして、だ。
「とりあえず逃げるぞ。誰だか知らねぇが、封印される前とどうやら変わってるらしいからな」
「へい!」
「……無事なのは……この娘と……あの家の下か……」
「この気配、この魔法。まさか勇者が……?」
「何十年何百年と経っているのだ。ただのヒト族がそんなに長生きしているとは思わん。それよりもこの娘はどうだ?」
「腕と口に呪いの跡、解呪不可能な呪い、無理」
「そうか。ならばあの家の下の子どもとこの娘をできる範囲で治療して、近くのアレに運んでやれ」
「そりゃいいが……いいのか? 俺たちが近づいたら不味いだろ」
「……少し離れた所にするか。それよりも、この村の惨状を王へ報告するぞ。どうやら想像よりもマズイ状況になっているらしいからな」




