ボツ集その24
「本当に行くんだな」
普段から鋭い目をしている彼はその目をさらに鋭くしながら聞いてくる。
それに対して頷きを返す。
「……後悔は」
死ぬほどしてきた。
あの時から今この瞬間、してこなかった時なんて一度もない。
もっと強ければ、もっと賢かったら、もっと
勇気があれば。
「……分かった。俺も一緒に行くからな?」
何度も話し合って何度も喧嘩してだした結論。
「そもそもお前一人で旅なんてできないだろうしな」
その言葉には脚に蹴りをお見舞いしておいたが、自分の脚が痛かっただけだった。
それに対して、痛くもなんともないという顔で目の前の男は、地面に置いてあった布袋を掴む。
「シスターには伝えてある。見送りは不要だともな」
その言葉にふと後ろを振り返る。
山中にある一軒家。
そこは身寄りのない子ども達と数人のシスターで生活する場所。
「……やっぱり戻るか? お前だけでもなんとか」
その言葉の続きを遮るように首を横に振る。
未練も後悔も昔に置いてきた。
今自分にあるのは
「聞いただけだ。そんな目をするな」
残っているたった一つだけの眼でどんな表情を映し出しているのだろうか。
聞こうにもこの口から声が出ることはなく、確認しようにも隻腕では物を持つのも大変だ。
それもかつてはよく使っていた利き腕では無い方なのだから。
慣れるのにどれだけ時間がかかったか.........
「行くか。あの日のケリを付けに」
木々を超え、
森林を超え、
山々を超え、
街道を超えたその先のさらに先、
荒れ果てた大地の上にただ一つだけそびえ立っている、そのおどろおどろしく不気味な塔の頂上に。
あの日から忘れることの出来ない敵が待っている。
復讐などという大義名分でも、敵討ちなどという生易しいものでも、なんでもない。
失ったモノに、喪った生命に、あの日亡った自分に対して
あの日交わした約束を果たすだけなのだから。
かつての日から世話になっていた場所が見えなくなる頃に、ふと立ち止まって空を見上げる。
幼馴染が立ち止まった自分に問いかけてくるが、その答えとして首を横に振った。
空は雲一つない青空で、自分の心とは違ってどこまでも澄んでいた。
「仮想現実の世界で、自由な旅を」のchapter1にでてきたミウロゥの昔話です。
これは完成させてもいいと思うんですけど、全体的に暗くて中々進まなかったんですよね......




