ボツ集その22
一対の翼を持つソレは自由に大空を駆け巡る。
その巨大な身体を軽やかに、時にその長い尾を操り、時にその口から火を吐き出す。
冒険者ならその姿を見ることを目標にし、いずれは討伐を夢見る存在。
人はソレを
「竜だと!? アレは住処からそう簡単には出てこないはずだぞ!」
「アレを見てまだそんなこと言えるの!? それ以前に色が問題でしょうよ! 白金って! ヤベーのを出してるんじゃないよ、おバカお兄さん!!」
「……なぁ、竜ってどれくらいヤバい?」
「そうだな……冒険者が束になってようやく撃退できるレベルだな」
「……アレは?」
「私やクランが束になってようやく討伐できるレベルだな」
「ヤバいじゃん」
「絶体絶命の大ピンチだな」
「落ち着いてる場合かー! とにかくアレをどうにかするんだよ!!」
「来るぞ! 全員構えろ!」
ナイフを、トランプを、大鎌を、拳を、竜に対して構える。
だが、それでも、竜には遠く及ばない。
そんなものがなんの役に立つのか、と言わんばかりに竜は地に向けて流れ堕ちる。
大地を抉り、竜は再び蒼空へと舞い戻る。
勝鬨を上げるかのように咆哮をあげるその様はまさに、
「滑稽、というものだ」
一閃。
竜の首に一筋の黒い稲妻が走る。
「敵を前にして咆哮をあげるとはな。竜もここまで堕ちたか」
「だが相手は竜。侮るわけにはいきません、トリム殿」
「分かっている、決して侮ってはいない。先の一撃も下手をすれば全滅していたからな」
竜の前に小さなヒトが浮かび上がっていく。
1人は宙を浮きあがり、もう1人は常に足元でナイフを蹴り砕きながら。
竜は頭を軽く振ると小さなヒトを睨みつける。
「ククク、そうだ。今の攻撃は私だ。悔しいのであれば噛み砕いてみるのだな。最も」
クルクルと大鎌を振り回し、その刃を竜へと向ける。
「できるのであれば、の話だがな」
竜が再び咆哮をあげ、空を走る。
「……で? お兄さんはアレをどうするつもり?」
「どうしようかねー……」
「呑気か! どう考えてもあの試練が原因でしょう!!」
「巻き込んだのは悪かった……でも俺一人じゃどうしようもできない。だから俺に力を貸してくれ、クラン」
「グヌヌ……はぁ、分かったよ……」
地上で空を走る竜を眺めながら、2人はそんな会話をしていた。
「本当はこんなことで渡したくなかったんだけど、渡したくなかったんだけど! 特別に! リベットお兄さんにはこれをあげる」
「トランプ……?」
「トリムちゃんの時と一緒。これでボクと同じ力か似たような力が使える。トリムちゃんと違うのは、あの子は貸しただけ。ボクはお兄さんに力をあげるということ」
クランから渡されたトランプを眺め、クランをじっと見つめるリベット。
「そ、そんなに見つめないでよ……照れちゃう」
「……いいのか、そんなのを俺に渡して」
「いいに決まってるじゃん。なんたってお兄さんは」
ふざけた態度から一転、真面目な表情を作ったトリムは
「私が唯一気に入ったヒトなんだから」
「クラン……」
「さぁさぁ! そのトランプを使って起死回生の大逆転をしちゃおう!」
トランプを顔の前にかざし、目を瞑るリベット。
「お兄さんが持っているスキルはボク達みたいな強者の力を使うことが出来るスキルなんだ。条件はたった1つ。ボク達が許可するかどうか。さぁ、ということで! ショーの幕開けだ!」
トランプが光り輝き、リベットの身体を包み込む。
初期装備の服は燕尾服へと代わり、シルクハットを被り、片手には儀仗を持ち、そして仮面舞踏会マスクを装着。
「お前みたいにテンションが高くなる訳じゃないが……」
「ムムム?」
「今ならなんでも出来そうな気分になるな」
リベットは宙を縦横無尽に走り回る竜へと儀仗を構え、シルクハットのつばに手をかけ
「さぁ、ショータイムと洒落込むとするか!」
空中へと投げる。
「クラン!」
「あいあいさー!」
シルクハットの後を追うようにトランプの束を投げるクラン。
「いわゆる合体技だ、とくとご覧じろ」
「初めての……共同作業……やん、照れちゃう」
「真面目にやれ……」
シルクハットの中へトランプが入り込む。
シルクハットがウゾウゾと右へ左へ上へ下へ蠢き出し、ポンッ、と軽快な音とともに現れたのは、リベットと同じ格好をしたナニかだった。
しかし、異なる点として、その顔は真っ黒に塗りつぶされており、口元と思わしき場所でニヤリと赤い半月を描いていた。
「さぁてと、俺達もトリム達の元へ行くぞ」
「行くのはいいけど……お兄さん跳べるの?」
「ようはやり方次第だろ?」
そう言ってトランプを空中にばら撒き、
「初めての魔法がこれとはな。道化魔法:イマジネーションクリエイト!」
ばら撒かれたトランプは数を増やしながら空中に階段を形成する。
「なーるほどね? 確かにこれなら空を飛ぶ必要もないね」
「さっさとトリム達の元へ行くぞ。全員で殴れば何とかなるだろ」
「そうだといいねぇ」
トランプでできた階段を駆け上がる2人。
途中ヒト型のナニかを回収しつつ、竜の元へ。
「随分と洒落た格好になったでは無いか、リベット」
「そういうトリムも見たことの無い姿をしているな」
竜と交差しながら大鎌を振るうトリムは軽快な口調でリベットに話しかける。
その姿は以前テイシオと決闘した際に変身したリベットの姿とどこか似通ってはいるものの、汚れを知らない白いローブであることと、仮面を付けていないことが違う点であった。
「テイシオはどこに?」
「ヤツなら竜の背中だ。なんとか背中に張り付いたはいいが、このように! 飛び回るものでな!」
「で、リベットお兄さん、どうするの?」
「そうだな……」
時折宙を走る竜を避けながら会話をする3人。
そんな時だった。
リベットの肩をツンツンとつつく、ナニか。
「ん? 自分に任せろって?」
リベットの言葉に親指を立てながら頷く。
「どうする?」
「どうするって……任せるしかないんじゃないかな?」
「何やら奇妙なモノを創り出したようだな。それがアレへの対抗策になるであれば」
パンッ。
1度手を叩き、
パパンッ
2度響き渡り、
手を叩く度に音は増え更に響き渡る。
気づいた時には数え切れないほどの群体となって、竜に飛びかかっていた。
「グォォォォォ!!」
「なるほど、あれほどの数であれば流石の竜も翼を動かすことすら儘ならんか」
「地面に堕ちるぞ!」
「それじゃ、フィナーレといこうじゃないか!」
リルナとレルナの原型はこれだったりします。




