ボツ集その18
「で? 納得のいく説明をして貰えるんだろうな?」
「もちろん。だがまずは」
書店近くの裏路地に入った俺とトリム、そしてテイシオとお互いに対峙するが
「済まなかった」
テイシオが深く頭を下げた。
「……は?」
「許しを貰えるとは思っていない。駆け出し冒険者のお前に、喧嘩を吹っ掛けたのはこちらだ。お前の気が済むまで俺を好きなようにしてもらって構わない」
「いや、そういう事じゃなくてな……」
トリムの方へ助けを求めるように顔を向けると、そこには少し複雑そうな顔をしているトリムがいた。
「コヤツな、どうにも正気を失わされていたらしい」
「正気を?」
「……リベット、ここから先は話を聞いたら最後、後戻りはできない。私はアンタの行く先に着いていくし、全力でサポートもする。だが、こればかりはどうも……な」
「……聞かない方がいいのと、あとはそっちでなんとかするんだな、テイシオ?」
「無論。こちらの全力を持ってヤツらを絶滅させようぞ」
オーケーオーケー。
「分かった。なら聞かないし、あとはそっちで何とかしてくれ」
「承知した」
「で? 暗殺者ギルドの次期頭領? だっけか。こんな所でなにをしているわけ?」
「結論を言うとそこにおられるお方……いや、トリム殿を追いかけてきたのだ。偶然にも指示書を頂いたものだからな。そこから足取りを辿ってきたということだ」
「私のミスだよ、リベット。まさかここまでするとは思わなかったんだよ」
やれやれと首を振るトリム。
まぁ色々あるんだろ、きっと。
「まぁそりゃいいが……これからどうするつもりだ?」
「一先ずはお前達の旅路に付き合おうと思っている。これの練習を見ることも兼ねてな」
スキルの書をヒラヒラとさせながらそういうテイシオ。
「もちろんリベット、お前が嫌でなければの話だ。その場合は外で軽く練習を見ることになるが……」
「いや、そりゃありがたい話だが……いいのか? 暗殺者ギルドの人間が暗殺者でもない俺に教えを説いても」
「ナイフの使い方を教えるだけだ。そこから先どう伸ばすかはお前次第ということだ、リベット」
スキルは進化し、枝分かれもする……だったか。
「それじゃ……よろしく?」
「あぁ、こちらこそ」
おずおずと手を差し出すと、しっかりとした握手が返ってきた。
実は良い奴だったりするのか?
「それでだ、リベット。トリム殿とはどういう関係なのだ?」
「どういう関係って……ただのパートナー、相棒だよ」
「ほう、パートナーで相棒か……それはそれは随分と羨ましい限りだなぁ……!」
……訂正。
コイツやっぱりまだ正気を失っているに違いない。
現に俺の手がミシリって嫌な音を立てたからな。
「テイシオ」
トリムの声に渋々と手を離すテイシオ。
「……失礼。少し頭を冷やしてこよう。街の外で待っているぞ」
そう言ってテイシオは消えた。
残ったのは俺の手の痛みだけ。
「あの野郎……」
「次は私があの首を落とすから安心しろ」
「そこに何一つ安心要素がないのが怖いんだが?」
「フッ、冗談だ」
冗談に聞こえなかったぞ?
「それよりも街の噴水はもう見たか?」
「噴水?」
「どの街にもモノリスが置いてあるんだが、そのモノリスから別の街へとワープが可能なのだ」
「ほー。そりゃ便利だな」
「最もワープ機能を使うには少しばかりのセーリが掛かるんだがな」
便利なものには対価を、かね?
「まずは噴水を見に行ってからにするか」
その後のことは……その後で考えればいいか。
テイシオさんは王都まで着いてくる予定でした。
自由か、コイツ?




