ボツ集その15
「ハッ! 逃げずに立ち向かうとはただの軟派男じゃあないようだな!」
「いや、逃げられなかっただけというか……」
決闘フィールド。
それはこのVSWにおいて街中限定で決闘システムを発動した際に拡がるフィールドのこと。
中には決闘相手しか入れず、中の攻撃が外へ拡がることは決してない。
また中の様子を外から観戦することもできるため、時々お祭り騒ぎになる。
「おい! 誰か決闘するみたいだぞ!」
「急げ急げ!」
「掲示板にも書き込んでやろ」
「俺の名はテイシオ! 暗殺者ギルド所属、次期頭領のテイシオだ!」
「あー……名乗りいるの?」
「当たり前だ! 暗殺者が殺す相手のコトを知るのは当然のことだ!」
「……リベット。駆け出し冒険者のリベット」
「リベット!! その名しかと覚えたぞ!」
決闘フィールドの中で2人は対峙する。
殺意を隠そうとしないテイシオ。
面倒なことに巻き込まれたという顔をするリベット。
「駆け出し冒険者相手ならば手加減をするのが普通……だが! お前は俺の大事な人を誑かした!」
「いや、誤解なんだが……」
「問答無用! だが、武器を構える間は待ってやる。さぁ、武器を構えろ!」
テイシオは両の手にナイフを構え、対峙するリベットは
「えーと……トリムが言ってたのは……これか」
鎌を手に持つ。
芝を刈るための鎌ではなく、それは
「そ、それは……死を刈り取る鎌……」
「知ってるのか? いつの間にか持っていてな」
「……なるほど。頭領を誑かした腕は確かということか……ならば!」
納得するように1つ頷くとその場からテイシオの姿が消え、
「クッ!」
「その命、この俺が刈り取り、その鎌ごと戴いていくぞ!」
偶然にも鎌とナイフが交差する。
金属音が鳴り響き、小さく火花が飛び散る。
「お前ごときが持っていい代物ではない!」
テイシオがもう片方の手に持っているナイフを振りかざし、
「ここで死ねぇ!!」
心臓目掛けて振り下ろす。
「そうは……いかねぇんだ、よ!」
リベットが力いっぱいに鎌を振り回したことで、両者の距離は再び離れることになった。
「お前がアイツとどんな関係なのかは知らねぇ。暗殺者がどうのだとか頭領がどうのだとか、そんなこと俺には一切関係のない事だ」
「貴様ァ……!」
「熱くなるなよ。暗殺者なら暗殺者らしく」
その時リベットの腕に装備していた腕輪が光だし、
「もっと冷静に対処しろよ」
彼の見た目を変えていく。
VSWの初期装備から一転、ズタボロのローブを全身にまとい、フードを深く被ってはいるが、その顔には真っ白で何も描かれていない仮面を付けていた。
「さっきの礼だ、しっかりと受け取れよ」
鎌をテイシオに対して突き刺すように構えると、自然と鎌の刃が開き、赤黒い棘で覆われている刃が現れた。
「な、なんだ……その姿は……なんだよ……」
「さぁな。あとでお前の頭領とやらにでも」
瞬間、リベットの姿は消え
「聞くんだな!」
テイシオの後ろに突然現れ、鎌を振りかざす。
が、例え動揺していようともテイシオはなんとかナイフを構えることで鎌を受け止める。
「へぇ。あっさりやられるかと思ったけど、随分とやるじゃないか」
「その姿はなんだァ! 答えろぉ!」
「さぁ? 俺も初めてなんでな、何もわからんさ」
リベットがスキルを使うでもなくただただひたすらに振り回す鎌をテイシオは防ぐ一方であった。
「クッ! 所詮は駆け出し冒険者風情……貴様如きに遅れをとるわけには行かんのだァ!」
「だろうな。でも勝手に突っかかってきたのはお前の方だぜ?」
「うるさいうるさいうるさい! うるさァい!! これでも喰らうがいい!」
リベットが振るう鎌にタイミングを合わせてナイフを振るうことで、大きく距離を離すテイシオ。
『外法の理 其は死を導く者なり 我ここに死を訪れさせん』
ナイフを1本、また1本と上へ投げていく。
その隙に近づこうとするリベットだったが
「グッ!」
片手であしらわれてしまう。
『死に怯えるな いずれは訪れる終わりの時 今この時をもって満ち溢れ 幕は落とされん』
バッと顔を上げたリベットの前には決闘フィールド全てを覆い尽くす程のナイフが1部の隙間なく宙に浮いていた。
「これぞ、魔導の最奥 『外法の理:終幕』」
テイシオが自身の掌をリベットに向けるとナイフが一斉に襲いかかる。
「これで貴様も終わりだァ!!!」
あいたたたたた......




