06
ミメロの両手の下で水晶玉が淡く光っていた。
光はすぐに収まり、深呼吸をして席へ戻る。
やがて全員の祈りが終わると、水晶玉は女神像の左手へと戻された。
ほどなくして、両手にある聖典と水晶玉が同時に、パッ、パッと何度も明滅を繰り返す。
光が止むと、祭司がゆっくりと聖典を持ち上げ、講壇の中央に立った。
ページを開く所作ひとつにも厳かな間があり、その動きに会場全体の視線が自然と集まる。
「それでは、女神オーサリアの御名のもと、その導きを賜り、聖典を読み上げます。お一人ずつ、順に壇上へお立ちください」
最初の子が、こわばった様子で講壇へと歩み上がる。
「運命はここに記され、新たな才能が授けられる」
祭司の澄み切った声が高い天井に響く。
「ハンナ・バトレミー。女神の祝福とともに、汝が受けしタレントは――
【農作】――。豊穣神イナの加護が、その魂を導くでしょう」
会場のあちこちから温かな拍手が起こる。
子供たちが次々と前へ進み、祭司の声が粛々と流れていく。
「ナージャ・サリス。女神の祝福とともに、汝が受けしタレントは――
【商術】――。商業神エイビスの加護が、その魂を導くでしょう」
パチパチと手を叩く音、家族らしき人々の小さな歓声。
「ゴルダット・バトレミー。女神の祝福とともに、汝が受けしタレントは――
【鍛冶】――。鍛冶神ヴァルカノの加護が、その魂を導くでしょう」
ミメロの順番が近づく。
胸の奥がじわじわと熱くなる。
息を整えるが、思いのほか緊張してきたようだ。
「フレイ・ノルトノア。女神の祝福とともに、汝が受けしタレントは――
【火魔法】――。火神イフリートの加護が、その魂を導くでしょう」
「やったぁ! いえぇーい!」
嬉しさのあまり飛び跳ねる女の子。
その様子に、くすくすとした笑い声が上がり、場内が少しずつ賑やかになっていく。
だが、祭司が凛とした声で「ご静粛に」と告げると、場はすっと静まった。
あと二人。もうすぐだ。心臓がバクバク鳴り始めた。
祭司が目の前まで迫る。泣きぼくろがあるセクシー神官だ。
――てか、巨乳がエロ過ぎだっちゅーの!
いやいや、なんでそんなに色気全開なんだよ。
せっかくの神聖さが薄まってんじゃん。
そんなに露出させちゃってさ。
マジ最高かよ。
さては、その谷間は何かを象徴してんだな?
慈しみか、癒しか? 神秘?
深いな、もはやマリアナ海溝。
いや、……巨大に実った桃だ。
気づけば列の先頭、ついに自分の番だ。
邪念を追い払い、両手を胸の前で組み合わせる。
お願いしますっ! どうか、どうか女神様!
仏様、八百万の神様、手塚おさむ様、……どうかレアスキルをくださいっ!
「ミメロ・グラディーノ。女神の祝福とともに、汝が受けしタレントは――」
来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来ーーーーーーいっ!!
「【モノマネ】――。え~~と、あれ?……加護が記されていない?」
「え?……も、ものまね?」
「はい、モノマネです」
ドカーンと大笑いが巻き起こり、会場全体が爆笑に包まれる。
保護者たちは腹を抱え、笑い転げそうになっている者すらいる。
祭司が注意を促しても、騒ぎはすぐには収まらない。
「おい、大道芸人にでもなるのかっ!」
と野次が飛んできた。
かなりのショックだ。今にも泣きそうだよ。
あの威圧的で理屈が通じない父親に、どう申し開きすればいい?
罵詈雑言の嵐だろう。
いや、それだけで済むのか?
……だがっ、それでも――
「てめー、こんにゃろ、なめやがって!」
ミメロは勢いよく振り返り、腕まくりをしてズンズンと数歩踏み出した。
そして、両手の掌を顔の前にかざし、見えない壁にぶつかったようにピタリと止める。そこから左右へと手を滑らせ、透明な壁をなぞる。
前世で少しかじったパントマイムだ。
「ありゃ?」「おい!」と声を上げつつ、左右に動き、たまに何かにぶつかったように派手にズッコケる。
場内はさらに大爆笑。
すげぇー、前世でもこんなにウケたことなかったのに。
ちょーきもちいぃーー!
家なき子になるかもしれないってのに。
悲しきかな……これ、芸人のサガなのよね。




