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04

このバトレミアの街には、今年十歳になった子供がおよそ九百人近くいる。

人数が多いため、地区ごとに日程をずらし、時間帯ごとに少人数ずつに分けて順に神託を執り行う。


すでに教会の中には、これから神託を受ける三十人ほどの子供たちと、その瞬間を見届けようと保護者たちが集まっていた。

ミメロも席に着き、胸を高鳴らせながら周囲を見渡す。




この世界の人間は、十歳を過ぎると女神オーサリアから『タレント』と呼ばれる才能の()()を受ける。

そう、正確には「授与」されるのではなく、「告知」されるのだ。

教会や世間が便宜上“授かる“という言い回しを使っているだけだが、いまや勘違いしている者も多い。

才能や適性なんてのは、生まれた時からすでに備わっている。

中には、運良くそれに気付き伸ばす者もいるだろうが、ほとんどの人間は神託を待つ。

才能がないことをやってしまうのは無駄な努力、ってことだろう。


とはいえ、この「知らされる」という行為を軽んじてはいけない。

人の一言が自信を生み、その自信が目的を持ち、その目的が行動を促す。

そして、その行動の積み重ねが才能を育てるのだ。

ましてや、その言葉をくれたのが神であれば、その自信は確固たるものとなる。


実際、神託によって才能の伸びは異常なほど加速する。

十年かけて積み上げた努力をタレント持ちが一年で追い抜くってのは、この世界のあるあるらしい。

ここで人生が決定される、あながち間違ってはないかも知れない。




講壇の中央には、高さ三メートルはあろうかという女神像が鎮座している。

その右手には聖典、左手には水晶玉が据えられている。


像の左側には祭司役の神官が控えている。

神官は美しくグラマラスな女性で、胸元が開いた無駄にセクシーな衣装を着ている。

……なんでだよっ、とツッコまざるを得ない。




女神オーサリアは、人間にタレントを与えた“調和と慈悲”の象徴として信仰されている。

そもそもタレントとは、人間という弱い種族が、他種族に対する劣位を補うために女神が与えた「慈悲」だと言われている。

事実、肉体面では獣人族が優れ、魔力では妖精族(エルフ・ドワーフ・ブラウニーなど)が優っている。

人間にとって、タレントは人生を合理的に生きるための指標であり、社会構成の規範なのだ。

ゆえに、その信仰力は凄まじく、女神オーサリアを至高神とした《女神教会》は世界最大の組織である。




女神像の顔は、非の打ちどころがないほど整っている。

だが、どこか冷ややかな印象を受ける。


「ん?あの顔、どこかで……なんか見覚えが……」


「まぁー、有名だし、そりゃあるでしょ」


「絵本や刺繍でもよく見るしね」


「う~ん、そうじゃなくて……」


ミメロは、ふと胸をよぎった既視感を、すぐに気のせいだと片付けた。




儀式は、まず聖水で手を清めるところから始まる。

次に水晶玉が女神像前の台座に据えられ、対象者がそれに手を触れながら祈る。

水晶玉が光れば、後は席に戻って啓示を待つだけだ。


ミメロの番がきた。


水晶玉に手を当てる……が、「祈れ」と言われても何を思えばいいのやら。

目を瞑っていたら、なんとなく昔を思い出した。




それは、三歳の頃の記憶。


孤児院からグラディーノ家に引き取られて間もないころだった。

ミメロは部屋で、絵本を見ていた。

字は読めないから、絵だけを眺めていたのだろう。

すると、不意に眩暈と頭痛が襲ってきたのだ。

三歳ともなれば脳も発達し、情報処理力も高まってくる。

タイミングは必然だったのだろう。

いろんな記憶が洪水のように押し寄せ、光景や感情が一気に流れ込んできた。


いや、正しくは思い出したのだ――――


瞳の中でパチパチと火花が散り、頭が割れるように痛い。

ミメロは鼻血を出しながら、気を失っていた。




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