表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

02

ミメロが自宅の屋敷に到着する。


グラディーノ家は貴族といっても下級の男爵。財産は乏しく、裕福とはとても言い難い。

それでもこの一家は、実情を覆い隠すように見栄を張り続けている。

玄関の金具は磨かれているが、絨毯の端はほつれ、壁の絵は額がゆがんでいた。




リビングに入ると、ちょうど母セリーナがだるそうに起きてきた。

酒臭い。昨夜も夜遊びしていたのだろう。

「おはようございます」と挨拶したが、返ってくるのはいつも通りの一瞥のみ。


壁には大きなガラス瓶が置かれている。

ミメロは朝にもらった銅貨を、からりと音を立てて瓶に落とし入れた。

流し目で見ていたセリーナが、「ちっ、相変わらずしけてるわね」と言い舌打ち。

これまたいつものことだ。




ダイニングへ向かうと、使用人が皿を並べており、父と兄がすでに席に着いていた。

仏頂面の父ガルノスに冷ややかな目つきの長男リオネルド。

ミメロは挨拶し、席についた。


ガルノスがミメロを鋭く睨みつけ、威圧的な表情で口を開いた。


「今日がどんな日か分かっているな?」


「もちろんです父上。今日の神託で、僕は必ずレアタレントを授かるでしょう。そして、兄上たちと協力し、再びこのグラディーノ家を上級貴族の地位へと取り戻します」


ガルノスは険しい表情を崩さぬまま、ゆっくりと頷く。


なんとも無駄なプレッシャー。

誰がどんなタレントを授かるかなんて誰にも分からない。

だが、こうして啖呵でも切らなければ、長々とした感情任せの非論理的な説教が始まってしまう。


リオネルドが口の端をわずかに吊り上げた。


「随分と大口をたたくじゃないか、ミメロ」


「いえ、僕は感謝に答えたいだけです。僕が三歳の頃、父上が孤児院から養子として迎え入れてくれました。学校に行けて、上等教育まで受けれた。全てに恩返ししたいのです」


「ふんっ、そう事が上手く運べばいいがな。三男のユリウスは、幼少のころから明らかに剣筋が違った。だからあいつはレアタレントを得た。得るべくして得た。だが、お前はどうだ? 凡才の極み! その見透かしたような生意気な態度くらいなものか、お前の長所は。ふんっ」


自分のことは棚に上げて、よくそこまで言えるものだと心の中で呆れ返る。


四兄弟のうち、レアタレント持ちは三男ユリウスだけ。父も祖父も違ったらしい。

けれど、レアタレント持ちがいないこと自体が凋落の原因ではない。

その一点に固執し、それ以外の道や努力を探そうともしない

――短絡的で自己中心的な姿勢。

その結果、彼らは執拗に憧れ、焦り、心の余裕を失ったのだ。


「ミメロ、お前は大丈夫だ。お前を信じているぞ」


父がこんな台詞を言うのは珍しい。

いつもと違う温度に、ミメロは少し驚く。

リオネルドも父の顔をちらと見て、違和感を覚えたのか眉をわずかに動かした。

だが、すぐにいつもの冷淡な表情へ戻った。




グラディーノ家には四人の子がいる。

長男リオネルド、十九歳の見習い騎士。

次男ドレイク、十七歳の騎士候補生。

三男ユリウス、十四歳の学徒。

そして末弟ミメロ、十歳の学徒。


その中でもミメロだけが働かされている。

両親は容赦なく、「働かざるもの喰うべからず」と六歳の頃から彼だけを叱責してきた。とはいえ、子どもが働ける場所は限られており、労力としても大して役に立たない。

それでも使用人などのつてを頼り、軽作業で駄賃程度から始めた。

少しずつ信用を重ね、今では大人の半分ほどの時給を得られるようになった。


どれほど状況が酷くても、ミメロに文句を言う選択肢はなかった。

もし家に逆らって追い出されれば、死の危険が一気に跳ね上がるからだ。

街に残れば、盗賊やチンピラに囲われ、使い潰され、最後は捕らえられて死刑。

そうでなくても縄張り争いに巻き込まれ、いずれ命を落とすだろう。

街を出たとしても、外には魔物がいる。

熊すら瞬殺できるようなモンスターも珍しくない。

運悪くエンカウントすれば、これまた即死亡だ。


ここが一番安全なのだ。……少なくとも、子どものうちは。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ