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6 裏ダンジョン

 裏ダンジョンに踏み込むと、明らかに空気が変わった。真っ黒なのに光を発している不気味な魔石がびっしりと岩壁に張り付いている。奥からはモンスターの獰猛な唸り声が聞こえてきた。


 ゴブリンには何の脅威も抱かなかったが、この先に生息しているのは最強クラスのモンスターだ。油断すれば足元を掬われる。私は魔王の力を覚醒させて使えるようになった感知魔法を展開しながら先へと進んだ。


 私が裏ダンジョンに来たのは自分の力を確かめることだけが目的ではない。ここには本編クリア後にしか入手できない主人公たちの最強の武器防具が眠っている。何かの間違いで主人公たちの手に渡れば私の生存率が大幅に下がってしまう。後顧の憂いを断つためにも早めに回収しておくに越したことはない。


 などと考え事をしていたときだった。感知魔法に反応があった。


 剣を片手に待ち構えていると、奥からボスミノタウロスが現われた。裏ダンジョンでしかエンカウントしない強敵だ。


「グラビティバレット」


 私は重力の弾丸をミノタウロスの頭に撃ち込んだが、分厚い表皮に阻まれた。さすがは裏ダンジョンのモンスターだ。一筋縄ではいかない。


 ボスミノタウロスは唸り声を上げながら斧を振り下ろしてきた。横に飛んで回避すると、斧が地面を粉々に打ち砕いた。覚醒済みの私なら即死することないけど、こんなのが当たったら絶対に痛い。


(外皮が硬いならこうすれば……!)


 私は剣でボスミノタウロスの目玉を一突きし、刃先にヘルフレイムを流し込んだ。体内から焼かれたミボスノタウロスは断末魔の声を上げて倒れた。


 考えるより早く体が動く。これなら裏ダンジョンでも通用しそうだ。


 私はさらに奥へと進んだ。ボスミノタウロスの他にトロールエンペラー、オーガキング、ブラックマンティコア、エルダーリッチなど、ゲーム本編で見覚えのあるモンスターが次々と現れた。動物園で檻越しにライオンを見るだけで怯える私が平然と戦えるのは魔王の記憶があってのことだろう。さすがは真なる魔王の力と言うべきか、単体が相手なら余裕を持って倒すことができた。


(よしよし。順調順調)


 私は行く先々で主人公たちの最強の武器防具を回収し、収納魔法の中に仕舞い込んだ。目的の一つは達成できたわけだ。どれも私では装備できないのが残念だけど、大量生産品の剣と持ち前の魔法だけで裏ダンジョンに挑めるとか魔王の力ヤバすぎる。こんな力を持っていたら考え方が変わってしまいそうで恐い。しっかり自分を諫めていかないと。一時の気の迷いで悪事を働いてそれが主人公たちにバレたら対立が確実になるだろうしね。


(何か一つでも私が装備できる物はないのかな)


 例えば主人公が装備できるこの光属性の杖。魔力量の消費を半分に魔法を撃ち出せる効果だけでなく、一回分の魔力消費で魔法を二連発放つことができる。これの闇属性バージョンとかあればもっと強くなれるのに。ゲーム本編の魔王は素手で主人公たちと戦うことになるけど、そんな状態で渡り合うのだからすごい。


 いざというときに備えて私でも装備できる強力な武器防具を手に入れておくべきだけど、果たしてそんな物がこの世界にあるのだろうか。敵として登場する魔王が武器防具を装備するなんて仕様がゲームに組み込まれていたとは思えないし。


 私も何か強い武器が欲しい。なんて思っていたときだった。黒馬に騎乗している骸骨騎士が目の前に立ち塞がった。


 ゲーム本編で見覚えがある。裏ダンジョンで稀にエンカウントするレアエネミー・ジェネラルデュラハンだ。野良でエンカウントするモンスターだとナメてかかって全滅したことがある。


 ジェネラルデュラハンが猛然と駆け寄ってきた。私は剣と魔法を駆使して応戦した。乱れ舞う剣技と黒馬の突進を捌くのに苦労したが、焦らず慎重に戦い、どうにか倒すことができた。


(あっ、これって確か)


 私はジェネラルデュラハンが残していった剣を拾った。ジェネラルデュラハンが低確率でドロップする最強クラスの武器、魔剣デュランダルだ。作中最強の攻撃力に加え、体力を魔力に還元して魔法の威力を増幅させる効果がある。ただし呪いがかけられており、戦闘中に時々装備者を麻痺状態にすることがある。ゲーム本編では攻略対象の一人、ディランだけが呪いの効果を受けずに使えるので彼に使わせるのが一般的だ。


(それにしてもおどろおどろしいなー。この剣)


 光を反射しない二枚刃の黒い刀身。柄に埋め込まれた目玉のような真紅の宝玉。施されている意匠は悪魔のように禍々しい。こんなのを腰に提げて歩いていたら絶対に目立つ。


(普段は収納魔法で持ち歩いて、戦うときだけ使う、みたいな感じで使えたらいいのにって、あれ……?)


 魔眼で詳細を確かめてみると、私でも装備できると記載があった。しかも呪いの効果無効? 私が魔王だからかな? 時と場合に応じて運用すれば役に立つこと間違いなしだ。これは幸先が良い。


 飛んで火にいる夏の虫状態で襲い掛かってきたオルトロスを試しに魔剣で斬ってみると、すんなりと真っ二つにすることができた。


 裏ダンジョンのモンスターを瞬殺? これもう私誰にも負けないんじゃないかな。というかこんなに強いなら主人公たちが強くなる前にさっさと始末すれば……いやいやダメダメ。そんなことしたら完全に魔王そのものだ。私は平穏で自由な暮らしがしたいのだ。そのためにも唯一主人公たちと魔王が和解するトゥルーエンドに辿り着くのが最善なのだ。


 果たして、魔剣を装備した私は余力を残して最深部に辿り着くことができた。

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