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和也くんの不思議な日常  作者: ポアロ
真理子編
8/52

8 病気の告白


 帰りのホームルームが終わると、佐々木の席へと一目散に向かった。

 「帰ろう」

 「……ん」

 佐々木はいまだに、教室内で話しかけると居心地が悪そうにする。周りのクラスメイトたちは、もうその光景にも慣れたのか、特に驚いた様子はない。

 「俺の家でいいか?」

 「え、家?図書館とかは?」

 「図書館だとあまり話せない」

 「ファミレスとか」

 「騒がしいし、店員さんに気を遣う」

 「……わかった」

 渋々といった様子で佐々木が折れる。案外、推しに弱いのかもしれない。


 家の最寄り駅の改札を出たところで、ふと足を止めた。

 帰り道がわからないことを忘れていた。今も工事が続いているため、ここ最近は家族の誰かが電車で帰ってくるまで、駅の真横の図書館やカフェで本を読んだりゲームをしたりしながら暇を潰していたのだ。

 「どうした?」

 佐々木が訝しげに聞いてくる。いつまでも歩き出そうとしないのだから当然だ。

 「えーっと、どっちに行ったらいいんだっけ?」

 「は?ふざけてんのか?」

 「いや、うん、こっちかな」

 当てずっぽうで右手に見える横断歩道へと足を向ける。しかし、その途端に佐々木に腕を掴まれ、引き戻された。

 「いや真逆だろ」

 佐々木は何の迷いもなく正しい方向に歩き始めた。

 ――二択すら外した。

 心の中でため息をつきながら、佐々木の背中を追った。ふと、佐々木が黙ったまま何か考え込んでいる様子に気づく。そのまま少し歩いた後、佐々木がぽつりと呟いた。

 「……お前って、やっぱおかしいよな」

 「え?」

 「朝一緒に歩いてる時も、分かれ道で毎回不安そうな顔してるし。最初に会った時も、ずっとうろうろしてたよな。あれって、迷ってたのか?」

 佐々木は和也を横目で見やり、静かに続けた。

 「……それ、なんかの障害とかじゃねえの?」

 障害――その一言に、心臓が強く跳ねた。顔がこわばり、口元が引きつる。沈黙が二人の間に重くのしかかった。

 「……悪い」

 佐々木が少し気まずそうに謝る。しかし、その言葉を否定するように首を振った。

 「……事実だよ」

 家族以外に打ち明けるのは初めてだ。でも、佐々木になら話してもいいかもしれない。なぜだか分からないが、そんな気がした。

 「地誌的失認っていう障害なんだ。道が覚えられなくなるやつ。風景とか建物とかを見ても、どこにいるのかわからない。地図も苦手で、頭の中で位置関係が作れないんだ」

 言い終わると、ちらりと佐々木の顔を伺った。今、どんな顔をしているのだろうか。佐々木はしばらく考え込むようにしてから短く尋ねた。

 「いつから?」

 「小五の時、交通事故に遭ってさ。頭を打ったせいでこうなった。それからずっと、こんな感じ」

 かすかに笑い、顔を逸らす。

 「だから、電車に乗って一人で移動するのはいつも怖い。地元でも、少し景色が変わると、もう訳が分からなくなる」

 ふいに、佐々木が足を止めた。

 「でも、なんとかやれてんだろ?」

 その言葉に一瞬きょとんとしてしまった。佐々木の声に込められたのは、驚きでも憐れみでもなく、ただの事実確認のような響きだった。

 「……うん、まあ、そうだね」

 「じゃあ、それでいいんじゃないか」

 佐々木はそれだけ言うと、また歩き出した。

 「なんだよそれ。でも、そうかも」

 自分でも意外なくらい、自然に笑みがこぼれる。こんなに軽い反応をされるとは思っていなかった。佐々木の背中を追いながら、胸の奥に新しい感覚が生まれるのを感じていた。「お前はお前でいい」と言われたような、そんな気持ちだった。

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