7 電車にて
待ち合わせの郵便ポストに向かうと、珍しく佐々木が先に待っていた。
「おまたせ」
「おー」
「今日早いな」
「まぁ」
和気あいあい……とは程遠いが、いつものように駅までの道を歩く。今はそのくらいの方がありがたい。今朝の優也とのやり取りが頭に浮かんでくる。
あのバカ兄貴……人の気も知らないで、言うだけ言って呑気に寝やがって……。
「……なんかあった?」
「え?」
突然佐々木に話しかけられて、顔をあげる。
「いや、なんかずっと眉間に皺寄せてるから」
意識してなかった。
「兄ちゃんが今朝うざいこと言ってきただけ。ていうか俺、そんなに分かりやすかった?」
「まあ。つーか、お前ほど思ってること顔に出る奴あんまいないんじゃね」
「嘘だろ。俺って表情豊かなのか」
他人からそんなことを言われたのは初めてだった。そもそも和也は、事故で障害を患って以降だんだんと、表情というものをしっかりと意識しなくなってきていた。
「おはよー」
佐々木と並んで電車の吊革を持っていた和也に、同じ制服の女子が話しかけてきた。
「おはよう」
いつものように、とりあえず挨拶を返す。
「え、佐々木くんも一緒じゃん」
「ああ、最寄駅が一緒なんだ」
「なんか言ってたねーそんなこと。あ、ユミ乗ってきた。じゃあまた後でねー」
話しかけてきた女子は次の駅で乗ってきた子の元へと去っていった。
「なぁ、今のって誰?佐々木のことも知ってたよな」
「委員長だろ……?」
「ああ、後藤か」
確かにあんな髪型だったはずだ。
一人で納得するのを佐々木が訝しんだ目で見ていることに、和也は気がつかなかった。
「そーいえば、佐々木ってなんで転入してきたんだ?親の転勤とか?」
「……まあ、そんなとこ」
「でもうちの転入試験ってかなり難しいんだろ?」
「そーなのか?基礎的なことしか聞かれなかったけどな」
――こいつもしかして頭いいのか?
「そういえばもうすぐ中間だな。そろそろ勉強しないと。佐々木、授業全然出てないらしいけど、大丈夫なのか?うちの学校放任主義だけど、テストで赤点取ると普通に留年するぞ」
「……留年はしたくねえな」
「やばそうな科目あるのか?」
「世界史。あと現代文と古文」
「もしかして前の学校では社会一科目選択だった?」
「ああ。地理だけ」
「うわー、それかなりきついな」
高校によっては理系に進むと社会を一科目だけ履修するところもあるが、和也たちの学校では、二年生までは文理に関係なく社会科目を二つ選ぶことになっている。
「現代文とかは単に授業サボってるからだろ」
「それもあるけど、そもそも教科書を持ってない」
「え、もう転校してきてから一ヶ月半くらい経つよな?買えよ」
「でももう二学期だし、三年でどうせまた新しいの買うことになるだろ」
「うーん。確かに。あ、じゃあ俺と一緒に試験勉強しよう。数学とか物理は佐々木の方が出来そうだし。今日学校終わったあと暇か?」
和也の提案に、佐々木が一瞬固まった。
「え、今日?試験までまだ一週間以上あるよな?」
「早めに初めて損はないだろ。というか、一週間前って別に早くもないけどな」
「……わかった」