学校生活withスイ⑤
体育の授業が終わると、スイの周りに山本や吉川が寄ってきた。
「おいおい、お前どーしちゃったの?マジでビビったんだけど」
心底驚いたという顔で山本が問いかける。
「この体、すっごい軽くて動かしやすくてさ〜」
「この体って、今までもそうでしょ?」
吉川が不思議そうに首を傾げる。
――どうしよう。スイと入れ替わるタイミングがない。
更衣室に入る直前に、スイの腕を佐々木がぐいっと掴んだ。山本と吉川はそれに気が付かず更衣室へと入っていく。
幽体離脱状態だと相貌失認の症状が無くなるのは、スイと入れ替わっても同じのようだ。佐々木の表情も、今は“見える”。
今の佐々木の顔は、明らかに怒っていた。
「なあ」
「……なに?」
「お前、本当に……早川か?」
――まずい、バレた。
スイは一拍の沈黙の後、くくっと笑って、面倒くさそうに言った。
「……なに言ってるの、君。頭、大丈夫?」
どうしてこの人は、火に油を注ぐような言い方をするのだろうか。
案の定、佐々木の目が細くなった。
「早川は、そんなこと言わない。……言い方だけじゃない。立ち姿も、目の動きも、全部違う」
「へぇ。朝から思ってたけど、君さ、ずいぶん過保護だよねぇ。そんなに俺のことが好き?」
何言ってんだこの人。勘弁してくれ本当に。
「でも、残念。俺もこの子、気に入っちゃったから。返してあげないよ」
次の瞬間、佐々木の手がスイの体の胸ぐらを掴んでいた。
「……誰だよお前。ふざけんな。早川はどこにいる!?」
――あ、本当にまずい。
「ストップ!」
思わずスイの胸元に右手を突っ込む。心臓に触れ、目を開けると、至近距離に佐々木の顔のドアップがあった。体が戻ってしまったため、表情はもう、わからない。だが今はそれに感謝だ。
「……う、佐々木……苦しい……」
「……早川?」
「うん、本物。だから……その……首、離して……」
「……悪い」
佐々木は、すっと手を離した。
「ぷはっ、はぁ……スイさん!からかいすぎですってば!」
「えー、だってなんか可愛いんだもん。高校生。……それに、あながち嘘でもないしね」
悪びれた様子もなくスイさんの声が返ってくる。
「……お前、誰と喋ってるんだ?……まさか……また幽霊か……?」
「はぁ……ごめん佐々木……放課後、ちゃんと説明するから」
「……わかった」
短くそう返した佐々木の声は、苛立ちを抑え込んでいるかのように微かに震えていた。




