学校生活withスイ④
スイは二時間目の授業の途中で、早くも飽きてしまったらしい。
「ちょっと散策してくる」と言い残し、ふらりと姿を消した。
昼休みが終わり、五時間目は体育だ。
いつものように佐々木、山本、吉川と連れ立って体育館に向かうが、どうしても目がスイを探してしまう。
「昼飯後の体育ってまじでだりーよなぁ。眠ぃ」
山本が吉川の頭にあごを乗せながらぼやいた。
「ちょっと、重いってば。……お前は体育に限らずでしょ。そーいえば、佐々木バスケめっちゃ上手いよね。前の学校でバスケ部だったんだっけ」
「ああ。中学からずっと」
「マジか!お前ほんと少女漫画に出てきそうなキャラしてんな、ウケる」
「バスケ部イコール少女漫画って、安直すぎ」
吉川が呆れたように返す。
そんな会話を聞きながらも、心ここにあらずのままだったらしい。
「……早川、どうかしたのか?」
隣から佐々木に尋ねられてはっとする。
「いや、なんでもないよ」
「そうか」
それ以上は何も言ってこなかったけれど、もしかしたら何か気づかれているかもしれない。けれどスイのことは、言えなかった。説明が難しいし、心配もかけたくない。
体育の準備運動が終わり、チーム分けが始まったそのとき――突然、スイが現れた。
「へー、バスケか。いいなぁ」
和也のすぐ近くに立って、独り言のようにつぶやく。
「なんかやりたくなってきた。ねえ、和也くん。今だけ入れ替わっちゃだめ?」
周囲は騒がしく、誰もこちらを気にしていない。念の為、ジャージの袖で口元を隠しながら、小声で応じる。
「スイさん、バスケできるんですか?」
「うん。なんか、ルールは結構ちゃんと覚えてるみたい」
――記憶がないはずなのに、知識だけは残っている。そのことを改めて思い出す。
それに、もしかしたら……身体を動かす中で、何か記憶が戻る手がかりが見つかるかもしれない。
「分かりました。でも、試合が終わったらすぐ戻ってください」
「うん。約束する」
スイの右手が左胸のあたりに伸びてきて、思わず目を瞑る。その手が心臓に触れた瞬間、ふっと意識が浮いて次に目を開けるともう入れ替わっていた。まだ慣れない。
スイは手をグーパーしたり、その場で軽く飛び跳ねたりして、和也の体の感覚を掴もうとしているようだった。
「やっぱ、この体すごいな。すっごい軽くて、でも必要な筋肉はちゃんとある感じ。なんかスポーツしてた?」
「うーん……中学までは水泳と剣道を。今はたまに市民プールに行くくらいで……ってスイさん!俺に話しかけないでください!側から見たら独り言言ってる人ですから今」
「そっか。あ、次だ。行ってくる」
スイは軽やかにコートに走っていく。そして試合が始まった。
最初のボールは相手チームのセンターに渡ったが、スイは即座に反応して前に出る。
ぬるりと空気を裂くような身のこなしで、まるでタイミングを読み切っていたかのように、スティール。
そのままドリブルで駆け上がり、軽々とレイアップを決めた。
「え……?」
味方チームの誰もが動きを止めた。和也の体が、別人のように動いている。
――ヤバい、思った以上に目立ってしまっている。
あんな動き、自分じゃ絶対にできない。体が別物みたいだ。
その後もスイは、正確なパス回し、絶妙な位置取り、柔らかい身のこなしでチームを引っ張った。
とくに佐々木との連携は異様なほどスムーズだ。
「ナイスパス。お前上手いね」
ああぁ……!やめてくれ。佐々木に対してそんな上から目線な話し方、絶対に変に思われる。
バスケ部の村田のスリーポイントも、スイの鋭いカットで潰された。
「うわっ、早川今日どうした?」
「やべぇなんか別人みたい」
相手チームの焦りやギャラリーの驚きが、だんだん本気の声に変わっていった。
けれどスイはどこまでも軽やかだった。ドリブルで佐々木に近づいていく。
「パスいくよ」
「……ああ」
試合が終わる頃には、スイのチームが圧倒的な差で勝っていた。
「早川ヤベェ……」
「マジでどーしたんだろ」
「ていうか、ほんとに早川……?」
周囲が口々にざわめく中、スイは汗をぬぐって、ゆっくりと深呼吸している。




