幽霊の個体差?
気がつくと、またベッドの上だった。
さっきまで和也の体を占拠していたスイは、今度はベッドの端でポカンとこちらを見ていた。
「あら。戻っちゃった。どうやったの?」
「……心臓、ですね。さっきあなたが俺の胸に触れてきたときも、今も、たぶんそれがトリガーなんだと思います」
「へぇ……心臓タッチで入れ替わりかぁ……」
そういえば――と思い返す。
真理子のときは、心臓に触れるなんて発想すらなかった。……まあ、相手は女性だったし、そもそもそんな物理的な方法、試す気にならなかったというか。
「ていうかさ、なんか漫画みたいだねこーいうの。あったよね?体が入れ替わるやつ」
スイがぱっと顔を上げて、パチンと指を鳴らす。
「……あ、“君の名は。”だ」
「……それも知ってるんですね」
「いや〜、貴重な体験だったわ。ちょっとテンション上がっちゃったねぇ」
「二度とやらないでください」
「え〜、でも、入れ替わりってやばくない? これ、悪用したら最強じゃん……いや、でも君以外には触れられないし意味ないか」
深いため息が溢れる。スイがどこまで本気で言っているのか、全然つかめない。
「ねえ、これってさぁ、やっぱり俺に未練があるからこうなってるのかなぁ。未練って……何だろうねぇ」
ポツリと漏らしたその言葉だけ、さっきまでとは少しだけ温度が違った。
「わかんないや。酒も飲みたいし、遊びたいし、旅行とかも行きたいな……。でも、それって未練になるのかな。だとしたら世の中幽霊だらけじゃない?」
――やっぱり、なんか変だ。
真理子に身体を貸したときは、入れ替わったあと、自分の魂はほとんど風のように軽くなって、ふわふわと宙を漂っていた。
物理的な感触なんて皆無だったし、外から見ているだけのような、現実味のない感覚だった。
でもスイの体に入ったときは、地に足がついていた。
腕を動かせば重みがあって、足の裏にはちゃんと床の硬さを感じた。まるで、体温のない“実体”を持っていたような感触。
幽霊とは思えないくらい――人間に近い。
……本当に、この人は“幽霊”なんだろうか。
もちろん、そうとしか説明がつかないことばかりではある。でも、なぜかどこか腑に落ちない。
体の重み、触感、あと、記憶がないと言いながら妙に最近の情報に詳しいところ――どれもが、ちょっとずつ変だ。
「……スイさんって、本当に幽霊なんですよね?」
「俺にもわかんないよ」
スイは霊体のまま和也の横にずり寄ってくる。
「でも、君以外の人だと、触れても手がすり抜けていくんだよ。あと、鏡に映らないし、影もないし」
「……じゃあやっぱり幽霊?」
――けど、“それだけじゃない”気がしてならない。
「ま、いいや。今日はもう寝ようよ。明日、学校なんでしょ。俺、床でいいし」
「ベッド、使わないんですか?」
「なに、俺と一緒に寝たくなった?」
「……もういいです」
「冗談だって。まあでもやめとくよ。君の体にまた入っちゃいそうだし、それに……」
「それに……?」
「今度こそ悪戯しちゃいそうだから」
そう言ってスイはにやっと笑った。




