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和也くんの不思議な日常  作者: ポアロ
真理子編
45/58

45 第二の幽霊現る

 「めちゃくちゃ怖かった……特にお爺さんがいきなり発狂するシーン」

 「あの時お前、ちょっと叫んでたよな」

 「あ、やっぱ聞こえてたか。恥ずかしい……」

 「多分俺しか気づいてない」

 ファミレスのボックス席に向かい合って座り、佐々木とさっきまで観ていた映画の話で盛り上がっていた。

 佐々木と映画を観に行くのは、これが三度目だ。今回はクライムサスペンスとホラーが融合したような作品で、正直かなり怖かった。心臓が何度跳ねたか数え切れない。

 店内には小さなスピーカーから、クリスマスソングが流れている。鈴の音が軽やかに響き、どこか浮ついた気持ちにさせる。天井には金と赤のオーナメント、テーブルにはサンタ帽をかぶったミニチュアのトナカイ。ファミレスらしい、手作り感のある飾りつけだ。

 あの日から、もう二ヶ月――真理子がいなくなってから、季節はすっかり変わってしまった。

 少しずつ寒さが増していく街は、すっかり年末の色に染まっている。

 「音もすごかったな。さすが轟音上映」

 「俺も初めてだったけど……あれ、心臓に悪いな」

 「あと隣のカップル、女の子が終始しがみついててさ、あれちょっと羨ましかった」

 「……お前、そういうの興味あったのか」

 「え、どういう意味だよ」

 「いや、なんか意外だっただけ」

 佐々木はそう言って、ストローでアイスココアをかき混ぜた。カラン、と氷がグラスの内側を打つ音が小さく響いた。

 レジを済ませ、ファミレスを出るころには、外はすっかり夜の帳に包まれていた。吐く息は白く、空気は肌を刺すように冷たい。肩をすくめながら、アーケード街へと歩を進める。頭上では、色とりどりのイルミネーションがまばゆく瞬いていた。赤や金のリボンが吊るされ、ツリーのオーナメントが風に揺れる。店先には「クリスマスセール」の看板が並び、ネオンライトが鮮やかにそれを照らしている。BGMで流れる陽気なクリスマスソングが、どこか現実味を削いでいた。

 「もう来週か、クリスマス」

 吐息まじりに呟く。

 「その後すぐに正月で、春にはもう受験生……。あっという間だったな、二学期」

 「そーだな」

 アーケードの外れに差しかかった時だった。

 「……ん?」

 「どうした?」

 「なあ、あそこ……人が倒れてる!」

 柱の影――イルミネーションの光が届かない、ひっそりとした一角に、人影が横たわっていた。

 「おい、待てよ!」

 佐々木が制止する声も聞かず、駆け寄る。

 近づくにつれて、その男がただの酔っ払いでも、ホームレスでもないことは一目でわかった。艶のある黒のシャツに、深いボルドーのベスト。スラックスは皺ひとつなく、革靴の先まで磨かれている。まるでどこかのクラシックバーから抜け出してきたような装い。だが、その身なりの整い方が、逆に異質だった。この寒空に、こんな場所で横たわっていることが不自然すぎる。

 「お兄さん!大丈夫ですか?」

 声をかけると、男がゆっくりと顔を上げる。

 その瞬間――。

 「……!」

 脳の奥に、ビリビリとした電流のような感覚が走った。輪郭がはっきりしている。目も鼻も、口元も。ぼやけていない。

 顔が、わかる。相手の顔を“識別できる”。

 背筋に、冷たいものが這い上がっていく。

 「……まさか」

 無意識に一歩、後ずさる。

 「おい!」

 すぐ後ろから、追いついた佐々木の声。

 「お前……何に話しかけてんだよ?」

 視線を戻すと、男はすでに身を起こしてこちらを見つめていた。その目に、先ほどまでなかったはずの生気が宿っている。

 「……見えるの?俺のこと……」

 ゆっくりと、男の手が伸びてくる。

 次の瞬間、ふわりとその腕が和也を包み込んだ。とっさに避けようとするが、体がすくんで動かない。

 ひんやりとした温度。

 それなのに――触れている。確かに。

 「触れる……。他の人は無理だったのに。ねえ、見えてるんでしょ?」

 ぞわり、と背筋を撫でる感覚。あの時と同じ。真理子と初めて出会った、あの夜と――。

 ――またか……。

 消えた真理子。あれからようやく落ち着いたと思っていた日常。それは、やはり束の間のものに過ぎなかったのかもしれない。

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