39 文化祭当日
その後も、朝のホームルームが始まる前と昼休みの時間はピアノの練習をして、放課後は文化祭の準備という生活が続いた。
そして、文化祭当日。
和也たちのクラスの「レトロ喫茶」は大盛況となっていた。
「いらっしゃいませー」
メイド服姿の吉川と真理子が、笑顔で客を迎える。と言っても、吉川の顔は若干引き攣っていた。そんな二人の姿に、クラス内外から歓声が上がっている。
確かに、正直自分で自分に引いてしまうレベルで似合っていると思う。清水の手による完璧なメイクで、真理子はまるで雑誌の中から出てきたかのような美人に仕上がっている。真理子の仕草が所々女性らしいのも一つの要因ではあると思うが。
「早川、マジで誰か分かんねぇ……めっちゃ美人じゃん……」
クラスの男子がざわつき、他クラスの生徒や来場者までもが真理子に目を奪われていた。でも、なんだか複雑だ。それに中身は真理子で……ていうか、もはや誰だよあれは……。
一方吉川も、小柄で可愛い系の顔立ちがメイド服にぴったりハマり、写真を撮りたいと行列ができるほどの人気ぶりだった。
「あの、連絡先教えてください」
「ごめんなさい、そういうのはちょっと……」
吉川が申し訳なさそうに断っている。
「……大丈夫?」
真理子が小声で聞くと、吉川は「恥ずかしい……」と顔を真っ赤にして俯いた。それにしても、真理子は真理子で堂々としすぎじゃないだろうか。
調理場では、佐々木が黙々とクレープを焼いている。彼の手際は驚くほど良く、客が途切れない忙しさの中でも、常に完璧な焼き加減を保っていた。無表情のまま、次々と生地を焼き、具材を包んでいく。
「佐々木、めっちゃ上手くない?」
「これがギャップ萌えってやつね……」
女子生徒たちがひそひそと囁く。
その隣では、山本がせっせと焼き上がったクレープを紙に包み、テキパキと提供していた。
「はいはい、次ツナチーズね!お待たせー!」
時折、「やべえ俺、包むだけで肩こりそう!」と冗談を飛ばしつつも、しっかりと仕事をこなしている。
店内は終始、笑い声と歓声が絶えなかった。真理子と吉川がナンパされるたびに、クラスメイトたちは「写真OK!」と盛り上がり、カメラのシャッター音が響く。
「マジで、この喫茶店だけ異様に盛り上がってない?」
通りがかった生徒が呆れたように言うと、別の生徒が「でも確かに、メイド姿の早川と吉川、めっちゃ可愛かった」と納得顔で頷いた。
文化祭はまだ始まったばかりだというのに、すでに「レトロ喫茶」は学校内で話題となっていた。




