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和也くんの不思議な日常  作者: ポアロ
真理子編
3/52

3 山本と吉川

 佐々木と一緒に学校へ登校するようになってから、二週間が過ぎようとしていた。

 待ち合わせ場所は、もともと一つ目の目印として使っていた郵便ポストを選んだ。和也と佐々木の家は驚くほど近く、そのポストは互いの家のちょうど中間場所にあるのだ。和也の家からは、家を出て右に向かって真っ直ぐ歩き、三つ目の角を曲がると着く。

 待ち合わせて、学校の最寄り駅で降りるまでの間は一緒に歩く。しかし改札を出ると、佐々木は毎回、和也から離れていく。それがなぜなのかは分からないが、正直自分にとって佐々木は道案内人のような存在であり、それ以上でも以下でもない。だから、最寄り駅に着いて離れて行こうが、なんの問題もなかった。


 「早川ー、購買行こうぜー」

 四限終了のチャイムが鳴り終わると同時に、いつものように山本と吉川が和也の席にやってくる。

 吉川は和也や山本に比べると小柄で、身長は百六十五センチメートルくらいだ。去年告白した女子に、「自分より細くて可愛い人と付き合うとか絶対ムリ!公開処刑じゃん!横に立ちたくない!」と笑いながら振られて以降、毎日筋トレをしているらしいが、成果は不明である。少なくとも和也の目には、今のところ変化は現れてないように見える。

 和也にとって、吉川は男子の割に小柄で髪の毛がサラサラしているため、他との見分けがつきやすい。問題は山本だ。外見の特徴が驚くほどに見当たらない。この学校の男子の五人に一人は山本と誤認識してしまいそうなくらいだ。実際に、山本だと勘違いして会話を続けてしまったケースが過去に何度もある。声も普通で、ゲーマーという以外は本当に没個性な奴である。しかし何故か、女子にはそこそこモテている。隣の席の女子曰く、山本は塩顔系というらしい。和也にはそれがどのような顔を指すのか、皆目見当がつかないのだが。ちなみにその女子によると、和也は醤油顔、吉川は砂糖顔だという。さらに分からない。

 「次の時間体育だよなー。今日から卓球らしいぞ」

 「げ……卓球か……」

 山本の言葉に、和也の手が止まる。

 「え、嫌なの?前に三人で温泉卓球したとき楽しそうだったじゃん。あ、でも結構下手っぴだったよね。意外だった。早川って足とかは早いのに」

 吉川がくすくす笑う。

 「いや、嫌というか……」

 卓球。広い体育館に、いくつもの台と大勢の生徒がひしめき合う。ボールが飛んでいったら拾いに行き、それを拾ってまた、元いた台に戻らなければならない。方向音痴な上に、ペアの相手の顔も識別できない和也にとって、これほどきつい種目はない。しかも体育の授業では、全員が同じジャージを身につけるのだ……。

 「……やばい。胃が痛くなってきた」

 「おー、どした?うんこ?」

 「胃だって言ってるだろバカが」

 「わー!和也くん短気!」

 こいつ……人の気も知らないで……。ん……?ペア?

 山本を恨めしく思いながら睨んでいたが、ふと気がつく。

 「ああっ!」

 思わず立ち上がってしまった。

 「うお!なんだよいきなり。まさか漏らしたんか?」

 「お前は一旦黙れ」

 山本に冷やかな視線を浴びせつつも、口元が緩むのを堪えられなかった。

 ――そうだよ。そうじゃないか。

 佐々木がペアになれば、全てが解決だ。心の中でガッツポーズをした。


 しかし、甘かった。

 体育の授業が始まるというのに、佐々木が一向に現れないのだ。

 「おい山本!なんで佐々木がいないんだよ!」

 八つ当たりだとわかりつつも、山本に詰め寄る。

 「はぁ?佐々木ぃ?なんでいきなりあいつの話が出てくんだ?てかあいつ、普段から体育の授業いないっしょ」

 「え、そーなのか?」

 言われてみれば確かにそうかもしれない。しかし普段から、自分に話しかけてくる相手に全意識を向けがちなので、周囲に誰がいて誰がいない、などの把握は苦手なのだ。

 「先生達も基本放任主義だから、佐々木にも何も言わないよねー」

 吉川の言うことはもっともだ。そもそもこの学校には真面目な生徒が多く、授業をサボるような生徒はほとんどいない。そしてもし仮にいたとしても、教師もいちいち注意しないのだ。生徒の自主性を重んじている……と言う建前だが、要はいちいち注意するのが面倒なのだろう。

 「つーか体育に限らず、割といねーよ。山本調べによると、第二音楽室で女子と何やらいかがわしいことをしてるとかしてないとか……ムフフ」

 山本がニヤニヤしながら腰でしなりを作る。最高にきもい。

 「それは本当なのか?」

 「いやごめん、ほんとはただあいつが放課後に第二音楽室で寝てるのを見たことあるだけっすね」

 ――はぁ……。そんなことだろうと思った。

 「っていうか、第二音楽室って確か三階の奥の方にあるよな?周りの教室も物置部屋ばっかりだし。お前はなんでそんなとこ行ったんだ?」

 「いやー、あいつがどこに行くのか気になって。こっそりあと付けてみた」

 「ストーカーかよ。引くわ」

 「だって気になるじゃん。あんな不良みたいな奴がわざわざ放課後に、ひと気の無い方に向かってたらさ。まあ結局寝てただけだったけど」

 好奇心が強すぎるのも考えものだ。

 「まあいいや。俺、あいつ引っ張ってくる。……先生!うちのクラスの佐々木くんの様子が見えず心配なので探してきます」

 「は!?え、お前それはまずいって。ボコられても知らねえぞ!?」

 「そーだよ!やめときなよ!」

 2人が慌てた口調で止める。

 「ボコる……?誰が?誰を?」

 「「佐々木が!お前を!」」

 冗談を言っているのかと思ったが、二人の声音は真剣なものだった。

 「まさか。そんなことしそうな奴には全然見えないよ」

 「いや、え?ザ・不良じゃん。よく顔とか腕に怪我して学校くるし。この間の青タンとかめちゃくちゃ痛そうだったわ。シンプルにいつも無表情で怖いってのもある」

 「……とにかく殴られるとかは絶対ないから。行ってくるわ」

 「嘘、本当に行くの?」

 吉川が不安そうに顔を覗き込んでくる。

 「大丈夫だって。すぐ戻るから」

 和也は体育教師に断って、二人が心配そうに見送る中、足早に第二音楽室へと向かったのだった。


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