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第3話 始まりの朝-1

 僕が暮らす小さな町から星輪高校のある茜川まで片道ほぼ一時間。彼女が現れたのは目的地までの道のりを半ば以上越えたところだった。

 その駅には見事な桜が立ち並んでいて、横並びの座席に座っていた僕は対面の窓から、その風景をぼんやりと眺めていた。

 こんな田舎でも朝の駅には、それなりに人が並んでいる。その大半は通勤と通学の客で彼女はその中のひとりだった。

 あきらかに新入生と判る真新しい制服にスクールバッグを提げ、輝くような髪をふわりと風に膨らませていた。窓の外に居ても、一目でそうと判るほどの美人だ。

 彼女が他の乗客とともに車内に乗り込んできたとき、目を奪われたのは僕だけではないだろう。

 座席はすでに満杯だったため、彼女は何気ない足取りで僕の前まで来ると、そこで吊革に手を伸ばした。その間、もちろん彼女は僕のことなど気にしていない。

 それをいいことに僕はさりげなさを装って彼女を観察してみた。

 化粧っ気はないが肌は見るからにきめ細かい。高校一年生とは思えないほどスタイルがよく、その女性らしいフォルムは制服の上からも見て取れる。決して派手なタイプではないが、その逆からはもっと遠い。少なくとも彼女が美人であることを否定する奴なんて居ないだろう。

 そんなことを考えていた僕は、はたと我に返って愕然とした。

 色恋なんかにまったく興味がなかったこの僕が女子に目を奪われたばかりか、節操のない若者のように彼女のボディラインまで眺めていたのだ。

 心の中で自分を叱責し、なんとかペースを取り戻そうとした矢先、僕の隣で居眠りしていた客が、唐突に飛び起きた。どうやら、ここで降りるつもりが乗り過ごしかけたらしい。彼が慌てて列車の外へと飛び出していくと、ちょうど僕の目の前に立っていた彼女は、ごく自然に僕の隣へと腰を下ろした。

 いい香りが鼻孔を刺激し、心音が信じられないくらいに高鳴ったのを覚えている。

 もう自分を誤魔化すことも否定することもできなかった。それが恋だということは、こんな僕でさえ理解できたのだ。

 こんな話はもちろん誰にもできないけど、その日以来、彼女と同乗できる茜川までの30分足らずが、僕にとって至福の一時となった。

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