表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/41

#01 交差する運命線【クロスレンジ】

久々の新作です!

宜しくお願い致します。

『魔学』

 それは万物の根幹を成す『魔力』というエネルギーを媒介に、森羅万象《世界のルール》を捻じ曲げる秘術たる『魔術』を発動させる技術の総称であり、2030年今世の人々の生活には科学と同じくらい切り離すことのできない密接な存在だ。

 ここ地上四階の窓外に映るのは、天を覆う薄霞のような無形壁。天から降り注ぐ不純物を遮断することで気候を調節する天候操作ウェザーコントロールから、ビル群の隙間を縫うように漂っていく魔学式投影型広告オルタナティブビジョン、最近では次世代エネルギーとしてコンロや水道といったライフラインにまで波及している素晴らしい技術、というのが世間一般的あたりまえの考え方だろう。

 現に生徒一人一人に用意されているこの机にも魔学技術が組み込まれ、教壇で講義を振るう教師の板書がリアルタイムに投影されており、その有り難い魔術の公式やら解説やらをクラス中の皆は何不自由なく勉学に勤しんでいる。

 ただ一人を除いて。


「……すー……すー」


 その恩恵に預ろうともせず、気分良さげに一番後ろの席で安らかな吐息を立てる青年。

 およそ数十万は下らない()()()()()な技術を詰め合わせた投影技術それよりも、副産物として生じているこの人肌のような微熱の方がよっぽど重要だ。

 正午過ぎの斜陽かけぶとんと合わさって、転寝うたたねの質を格段に上げてくれる。今日は最高の昼寝陽気だった。

 俺こと『狛戌(こまい)一縷(いちる)』は『東京クロノス魔学学院』一-三組に置ける何気ない日常を謳歌していた。

 いや、正確には謳歌せざる得なかった。


 ────隣に腰掛けるきまぐれ猫のせいで。


「い……ッ!?」


 堕ちかけていた意識を半強制的に覚醒させる鋭痛。

 思わず席を立ち上がりかけて右往左往する俺のことを見て、隣席で頬杖を付いていた少女は鈴が鳴るような声音で嗤う。


「相変わらず居眠りとは、関心しないわね……イチル」


 銀灰のロングヘアがロシアンブルーの子猫を彷彿させる小柄な総身と、ゴシック調に近い学院の制服姿がよく似合うお人形のように整った容姿。

 学年一位の実力と頭脳を持ち合わせる、文武両道の天才少女『ミーア・獅子峰(ししみね)・ラグナージ』その人物だ。

 先の激痛も、彼女が保有する()を自在に操る魔学によるもので、立体化した彼女の()が横腹を(つね)ったのだ。

 俺はそんな狂暴な隣人に向けて渋い表情を浮かべる。


「いやお前も大概だろミーア。先日俺が大変だったことは()()ミーアも知っていることだろ?だから少しくらいこうして授業をサボってもバチは当たらないと思うけど……」


「あら、それは(わたくし)にとっても同じことだと思ったけど?」


「いや、だけどなぁ」


「それ以上口答えするようなら、貴方のことを皆にバラしてもいいけど?」


「うぐ……」


 完全に論破されて押し黙るしかない不甲斐なき俺。

 ()()を共有せざる得なくなったミーアを前にして、何一つとして逆らうことを赦されないその姿に、彼女は関心するように鼻を鳴らした。


「いいわ、素直でよろしい。流石は(わたくし)下僕犬(げぼくけん)


 まるで聞き分けの良い犬でも愛でるような、ミーアの微笑み。

 思わず魅入ってしまう、淑女の蠱惑的な表情なそれに騙されかけ、ぶるぶると顔を振るう。

 畜生、一体どうしてこうなてしまったのか……

 悔恨に浸るには惜しい春昼の最中、この状況を作りだしてしまったあの事件が脳裏に浮かび上がる。

 どうして狛犬一縷がミーア・獅子峰・ラグナージの下僕犬(げぼくけん)となったのか。

 そして、この眉目麗しい天才腹黒幼女と、命と同格の秘密を握り合うこととなったのか。

 始まりはそう、ちょうど二週間ほど前に遡る────

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ