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うっかりで国を滅ぼした。
言い訳くらいはさせてほしい。
そもそも人間が悪い。
冶金術は石小人の不出だ。
それを人間が盗み出したのが悪い。
更に、大々的にやられると色々まずい。
森を切り開いたり、山を崩したり、川を汚したり。
あれはそういう外法なのだ。
自然が壊れたら我々も生きてはいけない。
人間にはその辺の配慮がなかった。
当事者の石小人が表に立てば角も立つ。
森妖精は例によって静観。
結局我々魔族が警告しに行くこととなった。
ずいぶんしばらく交流はなかったが、言葉くらいは通じる。
そのときは本気でそう考えていたのだ。
今おもえば石小人か森妖精が行けば良かったのに。
我々より自然に依存しているのだから。
他族との交渉となると、長が出向くのが道理だ。
つまり、私だ。
当然、失礼のないように念入りな準備をしていった。
このために誂えた鎧には全身びっしりと父祖たちの骨を飾っている。
父よ祖父よ曾祖父よ照覧あれ。
長として王として、他族との交渉である。
不幸な行き違いがふたつ。
ひとつは概念の相違である。
「このままでは世界が滅びるだろう」
もちろん私は天地万象すべてを指して世界と言ったのだ。
しかし人間は世界を『人間の生活圏』として受け取った。
なるほど、狭量な種族である。
もうひとつは文化の違いというか。
『魔族の王』という意味で発した『魔王』という言葉。
まさか『世界を滅ぼすもの』という認識だったとは。
つまり、人間から見ると。
『世界を滅ぼすもの』が現れて「お前らは滅びる」と言い出したわけだ。
そしてこれを「お前らを滅ぼす」と受け取ってしまった。
ここまでの流れはわからなくもない。
共感はできなくても理解はできる。
人間の戦士たちはその場で抜剣したのだ。
他族の王との交渉の場で、刃を向けたのだ。
宣戦布告もなしに、だ!
こうして戦争ははじまったのだが。
負けるの早かったな。