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エレベーターのドアが開くと、オフィスは暗転していて、パソコンの光が目立った。それは他でもない、桜井さんのデスクだった。
二人きりの真っ暗なオフィス。僕は桜井さんに声をかけるのに一瞬躊躇したが、早く同僚たちに合流しなければならなかった事を思い立ち、声をかける決心をした。熱心に仕事に取り組む彼女は美しかった。
一先ず、鞄に忘れ物をしまう。
「桜井さん」
僕が話しかけると桜井さんは驚いた様子でこちらを振り向く。
「水野君、呼びに来てくれたのね」
「はい」
「ありがとう。少し待っててね」
そう言って彼女は仕事道具を素早く片付けた。
「じゃあ行きましょうか。」
僕と桜井さんはエレベーターの中に乗り込んだ。
「あの、桜井さん」
緊張した。収まらぬ鼓動が鎮まるように願った。
止まれ、僕の鼓動。
ダメだ、こんな顔、桜井さんには見せられない。
あれ?何故だか暖かい。
「わぁ」
「少しだけだぞ。私だって常識は弁えているつもりだからね。」
そう言いながら、彼女の腕は僕を包んだ。
「桜井さん。」
「どうしたの?」
当たってます、当たってますー、胸部が。
「元気になった?」
「は、はい、ありがとうございます。」
「どういたしまして、水野君今日ずっと何かに悩んでいるみたいだったから。あ、ごめんね。突然びっくりしちゃったよね。弟の事、思い出しちゃって」
僕はこんなに優しい桜井さんの事を好きになってしまった。
「あ、あの、桜井さん。」
震える声で僕が名を呼ぶと、桜井さんはもう目の前にはいなかった。エレベーターのドアはもうとっくに開いていたのだ。
「ほら、水野君、行くわよ。みんなお店で待ってるんでしょ?」
「はい、今行きます。」
そうだ。僕は優しくてかっこいい、そんな彼女の事が好きなのだ。
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