妊婦を助けて死んだはず? の私が転生した先はお姫様! 愛されモテモテセカンドライフが始まる!?
「……おい!おい、サクラ……大丈夫か……サク……」
私を呼ぶ声が聞こえる。誰? 誰なの? 樹? 私はまだ寝ていたいのに……
目を開けると、知らない場所に居た。ベッド? ふかふかしている。
(……? ここは何処?)
「ライティア、良かった……」
心配そうに、皆が少女の顔を見ている。
そこで、我に返った。
(そうか、ここは……○○国。そして、ここは私の……城)
*
私には前世の記憶がある。断片的だが、覚えている。最後の記憶……それは……
私は、仕事の帰り電車に乗ろうと、幼馴染みの樹と一緒に階段を上っていた。樹は小さい頃から隣に住んでいる。カレカノという間柄ではないが、良く会うので、たまに2人で食事に行ったり遊んだりもしている。今日は駅前で会って、一緒に帰っていた。
(私が好きなの気付いてないよな……)
と、思いながらも一緒に過ごす時間は心地よかった。気持ちを伝えると、この関係も終わるかも……と、思うとなかなか言えずにいた。
今は特に話す事もないので、考え事をしていた。
(早く帰って、琉依くんに会わなきゃ)
琉依というのは、所謂乙女ゲーに出てくる男の子。私の推しメンだ。仲の良い男友達(幼馴染み)はいるが、彼氏は24年間居なかった。彼氏いない歴=年齢ということになる。
「はぁ……琉依くんみたいな格好良い彼氏が本当に居たら良いのになぁ~」
思わず、口に出た言葉に樹は呆れ顔。
「いつまでもそんなんだから、彼氏も出来ないんだよっ。それ、乙女ゲーだろ? まったく」
「うるさい! 樹だって彼女いたことないじゃん」
なんて言い合いしていた時だった。すれ違った妊婦が駆け上がっていく男性に当たり、階段から落ちそうになっていた。
「危ない!」
咄嗟に手を出し、妊婦を助けた。
……までは良かったが、階段の一番下まで転げ落ちてしまった。救急車で運ばれたまでは覚えているが……きっとあのまま死んでしまったのだろう。何度も名前を呼ばれていた気がするが、目は覚めなかったのだと思う……。
私の名前は、山川 咲春。
ーー享年25歳、早すぎる死だった。
(あの妊婦、赤ちゃんは助かったのかな……樹、あれからどうしたんだろ……きっと、凄く心配かけただろうな……)
そこから、ふわふわと暫く彷徨っていた気がする。
*
次に気がついた時には、優しそうな母に抱かれていた。それが、1歳の時の……覚えている一番古い記憶……
今、私(愛称ライティ)は5歳。
皆が心配そうにしていたのは、魔法の練習中に力が暴走して爆発し、巻き込まれて倒れていたからである。
「ライティ、痛いところは無いか? 大丈夫か?」
兄のヘルメが心配そうにしている。
「だぁ~いじょうぶ。おにいたま、ライティ元気!」
ニッコリと、兄に笑いかける。
「ライティ、心配したぞ? しかし……お前、可愛い過ぎ」
お兄にぎゅっと抱き締められ、頬をスリスリされる。
「おにいたま……苦しいよぉ」
そう言いながら、心の中でニヤニヤ。それはもう、本当に……
何故なら、あの『琉依』くんに瓜二つだったから。
毎日が幸せで堪らない……前世で早く死んでしまったのは残念だったが、こうやって転生出来たわけで、前世では出来なかった贅沢を満喫……『おにいたま』呼びもわざと。一回呼んでみたら、受けが良く止められなくなってしまった。
「ラ~イティ~。ヘル兄、ずりぃよ。代われ」
そう言いながらヘルメを押し退け、笑顔でメルクは私を抱き締め、ナデナデする。
(はぁ……ヘル兄も良いんだけど、このメルクもまた……)
イケメン過ぎる兄達。
「ぼ、僕も……ライティアのとこ行きたい」
ボソッと声がしたから振り向くと、遠慮しがちに来ているアルが居た。
(アルも可愛いんだよねぇ)
5歳のライティア、中身は腐女子である。
「はい、散りなさい。ライティアの事は私に任せるのよ? 分かってるわよね?」
最後に来たのはアスティアお姉様。強気な姉だが、ライティアをこの中で一番溺愛しているのは、きっと彼女だ。
そんなアスティアに、メルクはむぅ~といった表情をし、近付く。
「アス姉、いっつもずりぃ。いっつもライティを独り占めじゃんかぁ」
「メルク、諦めろ。アス姉には誰も勝てない。それに今日はアス姉に譲ってやれ」
そう言いながら、ヘルメはメルクを連れていった。
私は5兄妹、一番上の姉アスティアは18歳、彼女には婚約者がいる。次がヘルメ17、メルク15、アルが7歳、一番下が私の5歳で、全員から溺愛されている。
アスティアが横に座る。アス姉は長いストレートの髪で、背が高くスラッとしている。それでいて女性らしい体型。国中の男性を虜にしていた。
「ライティア、もう大丈夫なの? お兄ちゃん達に囲まれて疲れたでしょう?」
「はい、おねえたま。ライティ元気になったよ」
アス姉にもニッコリと笑いかける。
「本当にもう、なんでこんなに可愛いのかしら……明日には離れちゃうから寂しいけど、また会いに来ますからね。本当、目が覚めて良かったわ。このまま別れるのは辛すぎるもの」
ぎゅーっと、私を抱き締めてくる。目が少し潤んでいた。アスティアは明日、お嫁に行くのだ。
「おねえたま……」
何だかこっちまで泣けてくる。目に涙を溜めると、アス姉は更に泣き、ボロボロ涙が溢れていた。
*
アスティアの結婚式当日。
私は一緒に控え室に居た。アス姉はウエディングドレスに身を包み、更に美しくなっていた。
(素敵すぎますお姉様、ライティアはずっとお姉様を推し続けます……ハア……旦那様も美しいし、まさに美男美女……)
考えを悟られないように、平静を装う。5歳のライティアがこんな事を考えているなんて誰も思いはしないだろう……
「ライティ、こちらに来て」
アス姉に呼ばれ、隣に行く。
「何ですか? おねえたま。今日のおねえたまとっても綺麗……」
「ライティもとっても可愛いわ。ライティにこれを渡したかったの」
アス姉は小箱を取り出し、私に見せる。
箱を開けると、中には紅い宝石が付いた指輪が入っていた。アス姉がいつも着けていたものだ。
「これは、おねえたまの宝物……?」
「この指輪はね、お母様から受け継いだものなの。これを身に付けていると、願い事が叶うといわれているわ。悪い気を追い払うとも」
アス姉は箱から指輪を取り出し、私の指に嵌めてくれた。アス姉がしていたものだから、もっと大きく感じたが、指輪はピッタリだった。
指輪が嵌められた手をじっと見詰める。
(不思議……なんでピッタリなんだろう……)
その行動で気持ちが伝わったのか、アス姉が、
「ふふ。なんでピッタリなのか不思議なんでしょう?」
と優しく笑った。
「おねえたま、何で分かったの? ライティ、何でか知りたいっ」
「これはねぇ、魔法の指輪なの。着ける人に合わせて大きさが変化するのよ。今日からはあなたの指輪よ。大事にしてね」
アス姉はふんわりと微笑み、私を優しく抱き締めてくれた。
*
ーー10年後。
私は15歳になっていた。来月は16歳の誕生日。誕生日に魔法を披露するため練習に励んでいる。16歳からは一人前の大人として扱われるため、レディとしての作法も習う。
「ええと、魔法は無駄な動きをしないように静かに詠唱して解き放つ。……₮₯₳₹∀≌∞∧∫£¢¢!!」
呪文を唱えると、辺り一面氷に覆われた。
それ見ていた、アル兄様。前は頼りなかったが、今は兄達同様、魔法の力は凄い。国で3本指に入るくらいの実力を持っている。私は、一年前から毎日、アルに本格的な魔法を教わっていた。
「ライティア、凄いじゃないか! ここまで出来るなんて、なかなかいないぞ。じゃあ、これを元に戻してみようか? その後、辺り一面花畑にしてごらん」
「はい、アル兄様! ……₩£¢*₩£∇∆≌**!」
唱えると、凍っていた草原は元に戻り、更に今度は一面花畑になった。
「ライティア、良くやったな! これで来月の御披露目も、きっと上手く行くさ! 皆が認めてくれる筈だよ。それにしても……力を暴走させてばかりのライティアが、ここまで成長するなんてな」
アル兄様はニヤッと笑いながら言う。
「兄様、ありがとう……! けど、一言余計~っ」
アル兄様に向かってぷぅと顔を膨らませる。そんなライティアに対し、アルは頭をポンポンと撫でながら、寂しそうな顔をしながらも優しく笑う。
「ははっ。可愛いライティア。もう、一人前なんだな。何だか寂しいよ。けれど、よく頑張ったな」
「うう……ナデナデしないで~っ。来月からは大人なんだから!」
顔を真っ赤にして怒る。
(まだ、子供扱いするんだから……)
その言葉にアル兄様はふんわりと笑い、
「そうだな。レディ、失礼致しました」
と、頭を下げた。
*
ーー1ヶ月後。
16歳の朝が来た。窓を開けると、天気は快晴、空は青く澄んでいる。
「よしっ! 今日は頑張ろ~!」
背伸びをして意気込んだ。
コンコンと部屋のドアを叩く音がする。
「ライティア様、御召し物をお持ちしました」
「入って」
ライティアが返事をすると、『失礼致します』と、侍女達が入ってきた。
侍女が持って来たドレスに着替える。
髪もセットしてもらい、鏡を見る。ドレスは今まで着ていたふんわりとしたピンク色のドレスではなく、スカイブルーの大人っぽいドレス。ドレスには特別な糸も使われており、光に当たるとキラキラとしている。
(素敵……ドレスで大人っぽく見える)
「ドレスはアスティア様からの贈り物でございます」
「お姉様が!? 嬉しいっ」
結婚してからはなかなか会えずにいたので、大好きなお姉様から貰えたことが嬉しかった。ドレスに着替えて部屋を出る。廊下に人影が見えた。
(あれは……? えっ? 誰? まさか……)
その人影をじっと見つめる。
「アス姉様??」
「ライティア、久しぶり。驚いた? 目が点になってるわよ? 皆と居たんだけれど、待ちきれなくて来ちゃったわ。すっかりもうレディになったわね」
アスティアはニッコリと微笑む。私は嬉しさのあまり、思わずアスティアに抱き付いた。アスティアは、そんなライティアが可愛くてたまらず頭をナデナデする。
「あらあら、困った娘ねぇ」
「アス姉様、私、会いたかったの! ドレス、ありがとう! とっても素敵」
私はアス姉に見てもらおうと、くるくると回ってみせた。
ーー誕生日、お披露目会。
皆の前で、魔法を披露する。
「……₩£¢*₩£∇∆≌**!」
呪文を唱えると、カラカラに渇いた土地は
一瞬にして、花畑になった。『わぁ~』皆から歓声が上がったところでもう一度唱える。
「……**¢*₩£∇∆≌**!」
すると、花びらが舞い上がり、それはやがて形になり、来ていた国民の上へ舞い降りた。
「花の冠だわ!」
人々は歓喜の声を上げた。
「ライティア、こちらへ」
守護と愛の女神が呼ぶ。
女神の前へ行くと、女神は私に手を翳す。その瞬間! ライティアは光りに包まれ、その後、手首には女神様に認められた証となる『花の刻印』が現れた。
「これで、晴れてライティアも大人の仲間入りじゃ!」
女神の声と共に、更にまた歓声が上がった。
*
ーー夜。
お城では、ダンスパーティが開かれていた。
そして国中の権力を持った男達が、ライティアの周りに集まる。今日は、16歳になったライティアの花婿候補を決める為の日でもあった。
「ライティア姫、私と踊っていただけませんか?」
「いやいや、私と。」
「姫に相応しいのはこの私です!」
次々に男達がダンスを申し込んでくる。国の中でもトップに入る人達ばかり。順番に一人一人丁寧に挨拶をし、踊っていく。夢のような時間だった。
(こんなに、申し込まれるなんて……夢みたい……! イケメンばかりだし……この中からなんて、とても選べないわ~)
成長したライティアだが、幼さも残って、可愛らしく、笑顔が素敵、その上、魔法の腕も立つ……と噂されていた。そこには女性ファンも多く……『ライティ姫様ファンクラブ』なるものも出来ていた。
*
誕生日のお披露目パーティを終え、部屋に戻ってきた。今日の事を振り返る。
「楽しかったなぁ……アスティア姉様にもお会いできたし……皆様にこんなに求婚されて……」
呟いたところで、急に前世の事を思い出す……
(前世でこんなにモテた事が果たしてあったであろうか……? いや、全く無く、好きな人にも気持ちを伝えられぬまま人生が終わってしまった。樹に会いたい……って、何考えてるんだろう……)
色んな想いが頭の中で駆け巡る。
その時だった。
「樹に会いたい?」
そう聞こえた気がした。
私は、
(会いたい! 樹に会いたい!)
と願った。
すると、もう一度声が聞こえた。
「願いは聞き届けたよ。君を元の世界へ返そう」
そう、聞こえた気がした。
『ライティアは気付いていなかったが、手に嵌めている指輪が紅く光っていた……』
*
ピッピッピッピッ……安定した機械音が聞こえる。
目を開けると、知らない天井がそこにあった。私は機械と繋がれているみたいだ……
「あれ?私……」
そう呟くと、私の顔を、目を丸くしてもの凄く驚いた表情で見ている男の人が居た。
「……ん? ……サ、咲春!? 大変だ! 早く知らせないと!!」
その男の人は慌てて部屋から出ていってしまった。
私は、疑問でいっぱいだった。ベッドに座ろうとするが、身体が重く、思うように動かない。
(あれ? あの男性は、もしかして樹……? 何故ここに……? それに、ここは一体……? 私は16歳のライティアで、さっき誕生日を終えた筈じゃ……ここは私の部屋とは違う様だし……身体も全然動かない……)
色々と考えていると、バタバタバタと数人の足音がする。ガラッと戸が開き、さっきの男性と医者らしき人が部屋に入ってきた。
「先生、ほら、咲春を見て下さい。さっき目が開いたんです」
そう言っているのはさっきの男性。髪型は違うが樹に見える。心なしか、目が潤んでいる様に見える。先生と言われている人は
「奇跡だ……あの、状態から良く……! 延命治療を諦めずにしていて良かったですね」
と、話していた。
男性に話しかけてみようと試みる。
「あ……の、もしかして、た……つき?」
「咲良、俺が分かるのか?? よ……かった。本当に良かった」
*
ーー数ヵ月後。
私が居たところは病院だと分かり、話を聞くと、あの日妊婦を助け、階段から転がり落ちた後、一命は取り留めたが、ずっと……5年間も昏睡状態だった。
樹は暫く自分を攻め続けていたそう……
(樹、ごめんね……)
脳死判定をするか、延命治療を続けるか悩んでいたが、両親と樹の強い希望も有り、延命治療を続けていた。
(この判断には本当に感謝してる)
あの妊婦と子供は助かっていた。目を覚ました知らせを受けると、飛んできてくれた。驚いたのは、5歳になった、あの時のお腹に居た子(男の子)はアルに似ていて、母親(あの時の妊婦)は、アスティアに似ていた。
病院で昏睡状態のまま、私は30歳になろうとしていたらしい。が、29歳で目が覚めた。そして明日、30歳の誕生日に退院する。
それから、樹に告白された。
「ずっと好きだった。目が覚めたらプロポーズしようってずっと思ってたんだ。」
と……。
どうやら、両思いだったらしい。
ーーそこで気になるのが、
ライティアとして過ごしてきた16年間。昏睡状態の中でで見ていた夢? かと思ったら……腕にはあの『花の刻印』があった。ライティアとしても、確かに生きていたということだ。
その後のライティアが、どうなったかは分からない。けれども、確かにそこに居たのだ。
来月、私は結婚する。最愛の相手、樹と……
この幸せを大事にしたい、いつまでもずっと……
最後までご覧いただきありがとうございます。
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