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 第9章 短すぎる婚約期間


 国王主催のパーティーから戻ったハーディン侯爵は、早速親友のカーティエ伯爵にこう言った。

 

「もしかしたらレイラは第二王子殿下の目に留まったかもしれない。

 まあ、三年前と比べると見違えるほど綺麗になったし、成績も優秀だ。

 同じ侯爵家の令嬢なら、うちの娘の方が妃に相応しいに決まっている。

 殿下は婚約しているだけでまだ結婚なさっているわけじゃない。レイラにもまだ可能性があるかもしれない。

 だからレイラに変な噂が立つと困る。今後は君の息子に娘に近付いたり親しい素振りをしないようにと言っておいてくれ」

 

 こう言われたカーティエ伯爵の方は、侯爵とは違っていたって真っ当な人間だった。

 

「婚約者がいる男に娘を宛てがおうと考えるなんて、なんて非常識で倫理観の無い男なんだ。

 実の娘に対する態度にはずっと疑問を持っていたのだが、まさかここまで人非人だとは思っていなかった。

 つい最近までうちの息子と縁を結びたいと宣っていたくせに、人を見下すのもいい加減にしろ。

 金輪際あんな男を親友だとは思わないし、付き合うのもごめんだ」

 

 そう決断した伯爵は、翌日一人息子のノーマンに向かってこう言ったのだ。

 

「ハーディン侯爵家ではうちよりも格上の家のご子息との縁を結びたがっているようだから、レイラ嬢のことは諦めるように」

 

 と。

 

 その言葉にノーマンは酷いショックを受けた。ノーマンは奥手だったので、それまで自分の結婚のことなんて考えたことがなかった。

 しかし、レイラとはずっと一緒にいるものだと無意識に思い込んでいたのだ。

 

 それなのに、レイラに縁談があるから、自分はもう彼女と親しくしてはいけないだなんて。

 彼女を守るのは自分の役目だとずっと思っていたのに、それをもうしてはいけないだなんて。

 

 そんな馬鹿なとノーランは思った。

 しかし父親は酷く不機嫌そうにこう言い放った。

 

「いくら今後はもう付き合うつもりがないとはいっても、あっちは格上の侯爵家だ。逆らうと後々面倒なことになる。

 だから、決してハーディン家には関わるな」

 

 父親にこう命じられてノーランは混乱し、その日からノーランの様子がおかしくなっていったのだった。

 そしてそれから間もなくして、彼らにとって初めての学園祭の日がやってきたのだった。

 

 ✽✽✽

 

 ここ暫くノーランの態度が変であることに気付いていたレイラは、自分が何か彼の気に障ることをして嫌われてしまったのではないか、不安に駆られていた。

 だからこそレイラは少しでもノーランの好みの女性に近付きたいと思った。

 

 だからこそあの学園祭の日、以前から彼が好みだと言っていたピンク色のフワフワドレスを着て、かわいらしいアクセサリーを身に着け、今流行りのヘアスタイルにセットしてレイラは出かけて行ったのだ。

 

 ところがノーランはレイラを一目見るなり大笑いして、

 

「なんだいその格好は。全然似合ってないよ。本当に滑稽だ。センスが悪いね」

 

 と彼女を散々けなしたのだ。

 

 ずっと楽しみにしていた初めての学園祭だったのに、レイラは泣きながら家に帰ってしまった。

 何故あんな酷いことを言ったのだと、ノーランは当然ながらローザやバートランドに責められた。

 しかし、彼は一切何も言い訳をしなかった。

 

 いや、しなかったというより、何故あんな酷い言葉を口にしたのか、ノーラン自身よくわからなかったのだ。

 普段とは全く違う装いのレイラを見た瞬間に、ノーランはカッとして激しい怒りが湧いてきたのだ。

 なんだその格好は! 縁談相手の好みに合わせてきたのか! 

 彼はそう思ってしまったのだ。何故なら普段彼が口にしていた好きな女の子のタイプなんて、ただ適当に言っていただけだったのだから。

 

 ✽✽✽

 

 ノーランとレイラは、バートランドからクライス王子に関する話を色々と聞かされた。

 何故そんなに彼がクライス王子のことを知っているのかといえば、彼の婚約者であるローザが王妃付きの官吏で、妃殿下のお気に入りだったためだ。

 しかもクライス王子の側近候補であるハインツは、バートランドの母方の従弟だったのだ。

 

 

 王妃殿下はとても理知的で俯瞰的に物事を見ることのできる賢夫人であった。

 たとえ自分に似てようが、国王とは違って愛情を持ちながらも、冷静に息子と接してきた。

 彼女は早過ぎる婚約には反対をしたが、それでもいざ決定すればたとえそれが己の意に反することでも協力は惜しまなかった。

 王妃殿はマーガレットのお妃教育にも愛情をもって熱心に行っていたのだった。

 それ故に、近頃のクライス王子のエリザベスへの態度には大層腹を立てているそうだ。

 


 たとえ高位貴族でも滅多に知り得なそうな王家の話(思惑)を聞かされた後で、ノーランとレイラはようやくこれまでの思いを互いに打ち明けあった。

 そしてその後、レイラがため息をつきながら呟いた。

 

「諸悪の根源はクライス殿下と私の父だったんですね」

 

 と。そしてノーランに向かってごめんなさいと謝った。自分ばかり悲劇のヒロインを気取ってしまったと。

 しかしノーランは首を横に振った。

 

「レイラは何にも悪くないよ。俺が子供過ぎたんだ。自分の気持ちにもっと早く気付けていたら、見知らぬ男に嫉妬する前に、君に告白できていたのに」

 

「だけどまだ遅くはないだろう?」

 

 バートランドがいつもの爽やかスマイルを浮かべると、ノーランは頷いた。

 

「バート、何から何まで本当にありがとう。君の友情に感謝する。

 それと情報を色々と提供してくれた君の素晴らしい婚約者のローザ嬢にも。

 ・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

 レイラ、俺と婚約、いや結婚してください」

 

「はい。喜んで。

 末永くよろしくお願いします」

 

 レイラは幸せそうにこう返事をした後、ピンク色に蒸気させた頬に嬉し涙を流した。

 するとせっかく感動の場面だというのに、バートランドが無粋なことを言った。

 

「誓いのキスはしないの?」

 

「いくら武骨者の俺だって、理科準備室でファーストキスをするのは嫌だ」

 

 ノーランが真顔でこう答えると、まだキスもしていなかったのかと呆れながらも、バートランドは爽やかスマイルでこう言ったのだった。

 

「僕としてはこの想い出深い理科準備室も悪くはないと思うんだけどね」

 

 と……

 

  ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

 

 ノーランがプロポーズをした翌日、レイラは、彼から半年遅れで十八歳の誕生日を迎えた。

 二人とも成人になったのだ。

 そこで早速授業を終えた後、彼らはすぐに友人達と共に教会へ向かった。そしてそこで簡素な儀式を行ってから婚姻の届けを提出し、ノーランとレイラは正式な夫婦になった。

 

 もちろん、そこでの誓いのキスが二人にとってのファーストキスで、付添人として同行してくれたバートランドとローザに思い切り見せつけてやったローマンだった。


読んでくださってありごとうございました。

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