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第8章 邪な想い


 互いに相手に相応しい人間になろうと努力し始めたそんな頃、ノーランとレイラは学園に入学した。

 

 男子と女子とでは教室は違っていたが、図書室や食堂などの施設は共有だったので、時々二人は顔を合わせていた。

 しかし、思春期に入っていた二人は、どう接していいのかわからなくて、軽い挨拶程度の言葉しか交わさなかった。それでもお互いのことは絶えず意識をしていたのだが。

 

 そんな二人が、入学してひと月経った頃から毎日食堂で一緒にランチを共にするようになった。

 それは侯爵家の令息バートランドがノーランをランチに誘ってくれたことがきっかけだった。

 二人で向かった先の学食で、何と彼はレイラに遭遇したのだ。

 しかも彼女はバートランドの婚約者のローザと共に居たのだ。

 そのため自然の流れで彼女達と同席することになり、それ以降四人で昼食を共にすることがいつの間にか当たり前になっていったのだった。

 

 新入生のレイラは、二年生のローザ同様に入学時の試験で女子の中でトップの成績を取った。それ故に半ば強制的に生徒会役員にされていた。

 彼女達二人は思考や価値観がよく似ていて相性が良かったため、すぐに意気投合して親しくなり、一緒にランチを取る仲になっていたのである。


 

「最初からローザ嬢とランチをとりたかったんだけど、いくら婚約者とはいえ、学園の赤薔薇と称される人気者の先輩と二人きりで食べるのは、かなりハードル高いだろう?

 先輩方にどんな嫌がらせをされるかわかったもんじゃないし。

 だから君達に同席してもらえて本当に助かるよ」


 そうバートランドは笑ったが、助かったのは自分の方だとノーランはその時思った。

 そして最初の学園祭でやらかした後、レイラと最低限接触できたのも、あのランチのおかげだったのだ。

 だから感謝していたのはノーランの方だった。

 

 

 それにしても……レイラは今になってようやくわかったのだ。何故ノーランが入学して半年過ぎた頃から少しずつ様子がおかしくなったのか。

 そしてあの学園祭の時に何故あんな酷いことを言ったのかを。

 全ては第二王子であるクライス殿下の邪な思いのせいだったのだ。

 

 ✽✽✽

 

 第二王子クライスは母親の王妃殿下と同じ金髪碧眼で、絵本の挿し絵に出てくるようなまさしくザ・王子という感じの美しい王子だった。

 その上頭もそこそこ優秀であった。

 しかししっかり者の兄の王太子とは年が離れている上に、愛妻の王妃に瓜二つのクライスは、父親である国王に溺愛されて甘やかされて育った。

 それは王子妃でさえ候補者の中からではあるが、息子に自由に選ばせたほどに。

 それ故に、彼にはわがままで自分本位なところがあった。

 

 

 クライス王子は候補者の中から自分で侯爵家のエリザベスを選んだ。それなのに学園に入学したその日に、何と一人の令嬢に目を奪われてしまった。

 

 神々しく輝く銀色の髪に、透き通る青い瞳、ほっそりした白い頬、意志の強そうな唇……

 

 彼の好みのタイプではないはずなのに、彼女から目が離せなかった。

 そして何と彼女とは同じ生徒会の役員になった。クライス王子は彼女こそが自分の運命の相手だと思った。

 

 ところが現実はやはりそう甘くはなかった。

 クライス王子がどんなにその令嬢にアプローチしても、彼女は事務的に返すだけで、全く親しくなれなかった。

 業を煮やした王子はとうとう側近候補のハインツに自分の気持ちを打ち明けて、彼に協力を求めた。

 しかしそれはあっさりと拒否されてしまった。

 

「確かに僕には婚約者がいるよ。だけど彼女には王子妃になる資質が足りないと思うんだよ。

 見栄えはするし社交もそれなりにできる。ダンスも上手い。だけど中身が足りないんだ。教養が。

 学園の成績は中の中だし、王子妃教育はあまり進んでいない」

 

「エリザベス様は殿下のために一所懸命に努力をなさっていますよ。

 しかもエリザベス様をお選びになったのは殿下ですよね。あの方は殿下の理想にピッタリだったのでしょう? 今さら何を仰っているのですか?

 そもそもお相手に瑕疵もないのに婚約解消などはできませんよ」

 

「確かにエリザベスは僕が選んだんだよ。だけどまだ十歳だったんだから、責任を持てなくても当然だとは思わないか?

 大体好みのタイプなんて年と共に変化するのが当たり前じゃないか」

 

「確かにお好みが変化するのは仕方の無いことかもしれません。しかし殿下は今後、ご自分の好みが変わる度に婚約者や奥さまを変えるおつもりなんですか?」

 

「まさかそんなつもりはないけど…」

 

「クライス殿下。たとえまだ成人前だったとしても、王族の決定責任とは重いものなのです。簡単になかったものにはできないのですよ。

 婚約者を変えれば、派閥の勢力図も変わって国内が混乱します」

 

「そうかもしれないけど…」

 

「それにレイラ嬢とは絶対に無理ですよ」

 

 いくらハインツが理路整然と説明しても、クライス王子は諦める様子がなかった。そこでハインツはとどめの一言を告げた。

 

「そもそもレイラ嬢は殿下の元婚約者候補だったではありませんか。

 三年前に殿下はエリザベス様をお選びになり、レイラ嬢には面と向かって君は王子妃として不適合だとはっきりおっしゃったのですよ。

 過去に大勢の人の中で不適任と言われたのに、今さら君こそが王子妃に相応しいと言われても、レイラ嬢がそれを受け入れるわけがないではないですか」 

 

 レイラが昔、自分の婚約者候補だっただと!

 

 二年間毎月顔を合わせてきた筈なのに、クライスはレイラの顔どころか名前すら覚えていなかった。その事実に王子は衝撃を受けた。

 僅か三年の間でそんなにレイラが変わったのか? いや、レイラ以外のご令嬢のことも覚えていないのだから、それほどまでに自分はエリザベスに夢中だった……ということなのだろう。

 その真実にクライスはガックリと肩を落としたのだった。

 

 そしてそれ以降クライス王子はレイラに言い寄ることを止めた。

 ところがだ。

 国王主催のパーティーで偶然にレイラの父親であるハーディン侯爵に会った時に、クライス王子は何気なくレイラの話をふってしまった。

 レイラがあまりにも美しく成長して驚いたとか、あんな優秀な女性を王子妃に迎えられずに残念だとか。

 

 普通の親なら今さら何を言ってるのだと腹をたてるか、お世辞だと聞き流すくらいの発言だったろう。

 しかしハーディン侯爵は普通の父親ではなかった。

 第二王子は娘のレイラに気があるみたいだ。そりゃあ、あのエリザベス嬢と比べたら、うちの娘の方が断然いいに決まっている。もしかしたら……

 と彼は思ってしまったのだった。

 読んで下さってありがとうございましました!

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