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第6章 高貴な理系女子達


「あのう、お取り込み中申し訳ないのですが、ちょっとよろしいでしょうか」

 

 三年女子Aクラスのとユリアという名の女生徒が、ひょっこりと顔を出してこう確認をしてきたので、バートランドが頷いた。すると彼女はこう口を開いた。

 

「ノーラン様に少しお尋ねしたいのですが、もしかしてその手紙の書き直しは図書室でやっていらしたのではないですか?」

 

「ええ。でも何故それを?」

 

 ノーランが驚いて尋ねると、ユリアが言った。

 

「私はずっと図書委員をしていたのですが、二年ほど前に図書室に落ちていた便箋を拾ったのです。

 人の手紙を読むのは憚られたのですが、持ち主を確認しないとお返しできませんので、思い切ってたたまれていたその便箋を開いてみたんです。

 そうしたら宛名も差出し人の名前も書かれてはいませんでした。

 ただし、その手紙は内容からレイラ様宛で男性が書いたものだということが推測できました。

 といっても確証のない手紙をレイラ様にお渡しするわけにもいかなかったので、図書室の室長先生にお預けしておりました。

 先程までのお話では、その手紙が届かなかったことでお二人に色々と齟齬が起こっているようでしたので、今急いで取ってまいりました」

 

 ノーラン、レイラ、バートランドが瞠目した。そしてノーランがユリアの方へ手を伸ばした。

 しかし、ユリアはその手紙を胸の前でしっかり両手で押さえたまま首を横に振った。

 

「まだノーラン様のお手紙だと確証されていませんのでお渡しはできませんわ。

 ですので、今からこの手紙を私がお読みしますので、それを聞いてからあなたが書かれたものかどうかを確認して下さい」

 

「はあ?」

 

 ノーランはユリアから手紙を奪い取ろうとしたが、バートランドに後ろから羽交い締めにされてそれを阻止されてしまった。

 しかも、『うるさい』とレイラに一喝された上に、彼女の両手で口を塞がれてしまった。

 

 こうしてノーランがどうにか静かになったところで、ユリアがその手紙を朗読し始めた。

 それを手紙の受取人になるはずだったと思われるレイラと、差出人かもしれないノーランが、彼の親友であるバートランド、そして何故か三年女子Aクラスの五人の女子生徒と聞くこととなった。


 

『君はいつも、銀の燭台のように厳かな雰囲気を漂わせ、あまりにも清純で誇り高く輝き、近づくことさえ畏れ多い存在である。

 あなたが第二王子妃候補になってからというもの、愚かな私はあなたとの不釣り合いな自分の存在に悩み、君を遠ざけようと酷い態度をずっと取り続けてしまった。どうせ結ばれないのなら、せめて友人でいようと。

 しかし結局君が王族になってしまえば、その友人としての立場も怪しくなってしまう。

 それならば、同性のように付き合っていく方が諦めがつく。無意識にそう考えたのだと思う。

 そんな私の態度が女性である君をどれほど苦しませることになるか考えもせずに。本当に愚かだった。

 私が皆に語っていた理想の女性像は全て偽りであった。寧ろ正反対を態と語った言っても差し支えない。

 どうせ叶わぬ恋ならば、理想を求めても無駄だと思っていたからだ。

 私が望んでいる女性は君だけです。

 神々しく輝く銀色の髪に、透き通る青い瞳、ほっそりした白い頬、意志の強そうな唇……

 

 愚かにも君と自由に逢うことも語り合うこともできなくなって、ようやく私は自分の気持ちと向き合うことになった。時既に遅しだというのに。

 そしてそれをわかってもなお、友人に与えられた至福の時をこうやって有難がっている愚か者である。

 許して欲しいとは言えない。しかしそれが無理でもせめて幼馴染みとして君を見守らせてもらえないだろうか。

 もしそれすら許されないとしても、私は君の幼馴染みとして相応しい人間になれるように精進することを、勝手に誓わせて欲しい』

 

 

 その手紙に書かれている君とは誰がどう考えてもレイラのことだろう。

 神々しく輝く銀色の髪に、透き通る青い瞳、ほっそりした白い頬、意志の強そうな唇……

 それに当てはまる少女なんて学園にはレイラしかいない。去年の卒業生を鑑みても。

 そして差出人もノーランであることはバレバレだ。

 しかしそれは今だからわかることだった。確かに二年前には誰が書いたものか、誰も気付けなかったかもしれない。

 

 手紙が読まれていくうちに、レイラの顔は次第に上気していき、アワアワと慌てふためき始めた。

 そしてそんな彼女とは正反対に、ノーランの顔はどんどん真っ青になっていった。

 そしてバートランドが腕を離すと、彼はズルズルとその場にへたりこんだのだった。

 

 

  ✽✽✽✽✽✽✽

 

 

 あの理科実験の準備室の出来事以降、ノーランとレイラの心はようやく通じ合えるようになった。

 

 ノーランは死ぬほど恥ずかしい思いをした。しかし、あんなことがなければレイラに思いを告げられなかったかもしれないと、その後は前向きに考えることにした。

 

 それにレイラの友人達の前で、彼女を生涯愛し守り抜くと誓えたことは、むしろ良かったのかもしれないとも思った。

 それくらいのプレッシャーを持ち続けなければ、大きな敵には立ち向かえないと、とある事情を知らされた後にノーランは思った。

 

 

 それにしてもこんな偶然があるだろうか。

 あの日理科室を使用していたのが三年女子Aクラスだったなんて。

 レイラ達が何故理科実験の準備室に現れたかというと、そもそもそこが理科教室の一部、隅っこの区切られた場所にすぎなかったからであった。

 準備室で少し大きな声で話をしていれば、理科教室にいる人間には丸聞こえの状態だったのだ。

 そしてそのメインの理科教室を使っていたのが、たまたま彼女達だったのだ。

 

 そして、どうしてレイラ達がそこで授業をしていたことにノーラン達が気付かなかったのかというと、彼女達が女子のトップであるAクラスの生徒であり、完璧な淑女だったからである。

 それ故無駄口を叩いたり、物音を立てる者が誰一人いなかったのだ。

 しかも突然の呼び出しで、担当教師が急遽職員室へ行ってしまい、彼女達しかいなかったにも関わらずだ。

 

 あの理科室を使っていたのが、三年女子Aクラスだったことは本当に幸いだった。

 何故なら彼女達のクラスで理数系の授業を選択していたのが、レイラを含めてたった五人だけだったからだ。

 そもそも女子で理数系の授業を選択する者は、毎年極端に少ないのだ。

 この理科準備室で秘事を話し合ってしまったことは失敗だったが、このことは不幸中の幸いでもあった。

 優秀でしかも社交的でない彼女達は、噂話にあまり関心を示さないからである。

 

 とはいえ、親友レイラのことは大切に思っていたので、彼女達はノーランに対しては厳しくもそれなりの対応をしてくれた。

 そして彼女達は珍しく、マントンに関しては普段とは違った反応を見せたのだった。

 

 というのも、彼女達の憧れの女性をかつて蔑ろにしたくせに、己の欲望のために今度はストーカーしていた男が、なんと自分達の教師だったと知ったからだ。

 その後の彼女達の行動はとにかく素早かった。

 

 その結果、マントンは他校への移動どころか教師の資格を剥奪されて職を失った。

 彼女達は優秀なだけではなく、そのほとんどが力のある高位貴族のご令嬢だったのだ。

 

 まあ、教師や官吏の道はもはや絶望的だが、マントンは高位貴族なのだから領地経営にでも励めばいいのだ。

 

 

 

 とにかく三年女子Aクラスのリケジョのご令嬢達は、その後ありがたいことに、ノーランをからかったり揶揄したりすることはなかった。

 ただし、レイラの将来を邪魔をしたり不幸にしたらただでは済まさないと、かなりの圧をかけられたのだが。

 いくら才女軍団と呼ばれているクールなご令嬢達でも、熱い友情というものは騎士科男子に負けないくらいに存在しているらしい。

 

読んで下さってありがとうございました!

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