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第4章 告白の是非


 ノーランがレイラとの関係を完全に断ち切るつもりなら、バートランドだって彼のするままにさせていただろう。

 何も二人は正式に婚約していたわけではないのだから、嫌なら無理に付き合わなくてもいいのだ。

 しかし口に出さなくてもノーランがレイラを気にしていること、いや好きだってことは一目瞭然だった。

 それならたとえどんな結果になろうとも、きちんと彼は自分の気持ちに決着をつけるべきだとバートランドは思った。そうしないといつまでも未練が残る。

 

 実のところバートランドは、マントン先生とその元婚約者の話を以前から知っていた。

 というのも彼の姉がその元婚約者ケイト嬢の親友だったからだ。そしてケイト嬢はよく家にも遊びに来ていたので、彼女のことはよく知っていたのだ。

 

 ケイト嬢は非常に頭のいい人だと聞いていたので、バートランドは鼻っ柱が強い女性を想像していた。

 しかし彼女は寧ろ控えめでおっとりした人だった。ただ、瞳がキラキラしていて、いつも希望に満ちた笑顔をしたとても魅力的な人だった。

 

 ところが卒業式の前日に、姉と共に家にやって来た彼女は酷く憔悴していた。我が家の侍女に支えられるようにして姉の部屋へ入って行った。

 そしてそれから暫くして姉が怒り心頭な表情で部屋から出て来ると、侍女達に色々と指示をして与えていた。

 するとその夕方には大事な卒業式の前日だというのに、十数名の同級生達がやって来て、何かヒソヒソと秘密会議を開いていた。

 

 その会議で何を話し合っていたのかは、暫くしてバートランドもそれを知ることになった。

 なんと姉は、四つ下でまだ学園に入学する前の弟に包み隠さず、今回のケイト嬢とマントン伯爵令息とのの経緯を全て話して聞かせたのだ。

 

 何故そんなことをしたのかというと、丁度その頃弟バートランドが一つ年上の伯爵令嬢ローザと婚約したところだったからだ。

 弟に同じような失敗をさせたくなかったのかもしれない。つまり、婚約者を大事にしないと大変なことになるかもしれないと。

 

 まあ、姉に命じられなくてもバートランドは婚約者のローザに夢中になっていたので、ある意味不要な情報だった。

 しかしそれが、まさか友人の役には立つようになるとは彼も思ってはいなかった。

 

 それにしてあの時話題だったマントンが、四年経った今、ケイト嬢のストーカーをするほど堕ちていたとは想定外だった。

 少々荒療治過ぎるかもしれないが、ノーランにはいい薬になるだろうとバートランドは思った。

 

 実際ノーラン本人はまだ気付いてはいないが、彼にはあまり時間がないのだ。だから、彼にはさっさと行動を起こしてもらわないといけないのだ。

 内心ずっとイライラしながら、バートランドはこの日を待っていたのだ。ノーランが自分にその心の内を明かしてくれるのを……

 

 

「それで、結局のところノーランはこれからどうするの? 

 どうしたいんだい?」

 

 バートランドの問いに、ノーランは今度は躊躇わずにこう言った。

 

「もう、レイラ以外のご令嬢とお昼をご一緒するのは止めたいと、ハッキリ彼女に言うよ」

 

「何故って聞かれたら?」

 

「自分には想い人がいるから、別の女性を紹介されても困るし、相手の女性にも迷惑をかけたくないと言うよ」

 

「その想い人は誰かと尋ねられたら?」

 

「まさかそこまでは聞いてこないだろう?」

 

 ノーランは少し驚いたように言った。いくら幼い頃から言いたいことを言い合ってきた仲とは言え、そんなデリケートな質問はしないだろうと思ったのだ。

 ところがバートランドは平然とこう言い放った。

 

「何馬鹿なことを言っているんだ。何故レイラ嬢が君に素晴らしいご令嬢ばかりを紹介してきたと思うんだ。

 彼女は君に幸せになってもらいたくてあんなに必死になっていたんだぞ。自分のことなんて顧みずに。

 あれほど君に酷い目に遭わされてきたというのに、一体君のどこがそんなにいいのかなぁ。僕にはさっぱりわからないんだけどね」

 

「うーっ……」

 

「とにかく、彼女は君の幸せを見届けてから自分の身の振り方を考えるつもりみたいなんだよね。

 だから、君に好きな人がいるというのなら、その人と結び付けたいと思うはずだ。

 まあ、卒業前に君に婚約者を見つけようとしているのは彼女の都合で、君にとってはいい迷惑かもしれないけどね」

 

「でも、今更レイラを好きだなんて言えない。俺はどうすればいいんた!」

 

 ノーランが悲痛な顔でバートランドの胸ぐらをつかんで揺さぶったので、さすがにこれにはバートランドも面食らった様子を見せた。

 

「お、落ちつけ! ノーラン!

 何故好きだって言えないんだ! 今更何を躊躇う。正直な気持ちを伝えろよ。彼女を、レイラ嬢を好きなんだろう?」

 

 バートランドの言葉にノーランは激しく頭を振った。

 

「そんなことを言えるわけないだろう! 俺は、いや俺だってレイラの幸せを一番に考えてるんだ!

 あの学園祭でレイラを泣かせた時、ようやく俺はレイラが好きだって気が付いたんだ。馬鹿だろう?

 

 すぐにレイラのうちに謝りに行ったけど、レイラの父親に殴られて二度来るな、そして学園でもレイラに近づくな、自分から話しかけるなって怒鳴られた。

 うちの両親からもめちゃくちゃ叱られて、レイラのことは諦めろって言われた。

 

 いくら父親が親友同士だといっても、格上の侯爵家の命令に俺が逆らったら、両家の関係がどうなるかわからない。

 あの頃俺はレイラとどう接していいのかわからなくて悩んでいたんだ。

 だから、ローザ嬢と君のおかげでその後もレイラとランチを続けることができたことは、俺にとっては僥倖だった。

 だって彼女と話をしても、レイラや俺の両親に言い訳ができるだろう?

 

 だけど、二人きりで話すことはやっぱり禁じられていたから、結局彼女に直接に謝ることはできなかった。それでもこっそり謝罪文だけは手渡せた。本当に君達には感謝しかない。たとえ返事を返してもらえなかったとしても。

 

 それから俺は、自分の気持ちを封印した。レイラは駄目な俺のことなんて吹っ切って、勉強や生徒会活動に励んでいる。そんな彼女の邪魔だけはしたくなかったんだ。

 それにレイラには色々な良家から婚約を打診されていると親から聞いていたから、俺との仲を邪推されたら悪いと思って。

 

 だからローザ嬢が卒業したら一緒にランチをするのをやめようと思っていた。それなのに今度は、レイラの方が見知らぬご令嬢を連れて教室にまで俺達を迎えに来るようになっただろう? 彼女の行動が理解不能で俺はパニックになりかけたよ。

 

 最初は俺との仲を疑われないようにと友達を連れてきたのかと思ったけど、そのうちに鈍い俺でも気が付いたよ。俺とご令嬢との仲を取り持とうとしているんだなって。

 俺凄いショックだった。好きな子から別の子を紹介されるだなんて。

 俺がレイラを好きだってことを知っていながらそんなことをするのは、内心では俺のことを嫌っていて復讐しようとしているんじゃないかって。

 まあ、一方的に俺が謝罪して勝手に好きだと告白しただけだったから、彼女がそれを許してくれていなかったとしても、それは当然で仕方のないことだとは思った。

 だけど俺は本当に駄目な奴だ。レイラには逢いたいくせに、ランチからは逃げ出したくてたまらなかったんだ。

 

 でも、レイラは復讐のためにあのランチをしていたんじゃない、俺のためだったと知って、本当に嬉しいんだけど、それと同時に辛いんだ。

 だってそれは恋愛感情ではなくて友愛のためだろう? レイラにはもう心に決めた人がいるんだから。

 でもそれなら、俺の告白はレイラにとって迷惑でしかない。

 俺はレイラの幸せだけを願っているんだ。だからやっぱり告白はしない」

 

 バートランドに輪をかけて普段無口なノーランが、長々とこう話し終えると、最初の激しさはすっかり影を潜めて、穏やかな悟りを開いたような顔をして親友の顔を見た。

 しかし、バートランドの方は再びその美しい顔の眉間にシワを寄せた。何故ならここまでの彼の発言には、色々と疑問に思うところがあったからだ。

 

読んで下さってありがとうございました!

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