ホワイトデーの朝
この話は全てフィクションであり、他の全ての事物とは一切関係ありません。
少し肌寒い朝の街中で、幸太郎は母へのバレンタインデーのお返しのお菓子を
買うために、歩いてコンビニに向かっていた。
彼の母が一番好きなそのお菓子は、コンビニにしか売っていなかった。
もう少しで目的地のコンビニに着く頃だった
「あれ?潰れてる…?」
彼が行こうとしたコンビニはなくなっていた。彼は違うコンビニに行ってそこで
お目当てのお菓子を買うと決めた。
歩道の道路と反対側を歩く。電柱は波打つようにくねり、時々道路の端に4つ車輪が
ついた大きな玉ねぎが停めてある。歩道に沿って設置されている土のスペースはやたら長いトウモロコシの実の部分がたくさん生えていて、長さは個体によって様々だった。
その土のスペースのそれらが生えてない部分には円盤形の時計がたくさん刺さっていた。
横断歩道を渡って少し歩いたらコンビニ、というところまできた。信号が赤だったので
少し待つと、青になったので、横断歩道を渡ろうとするとそのコンビニが
「ブオーンブブブブブブブブブブブブ」
と音を立てて建物の列からゆっくり道路に出始めた。完全に道路に出たそのコンビニには
ここに来る途中で見た玉ねぎのようにタイヤがついていて、西に向かって走り始めた。
「どうしようかな…」
とりあえず自分も西に向かって進むことにした。しばらく西に向かって歩道を歩くと
建物と舗装された道路がなくなり、砂砂漠が広がり始め、たわしの群れが
彼の上空を通って西へ飛んで行った。
遠くを見やると、止まっているさっきのコンビニも見えた。
しばらくコンビニに向かって歩いていくと、10分くらいで着いた。すると上半身裸でジーパンをはいた上半身のいたるところにサルノコシカケが生えた太った男性がコンビニから出てきて、言った。
「あーあどうしようかなー、やべーよ…」
幸太郎は彼に話しかけた
「どうしたんですか?」
彼は答えた
「たまにこんなことがあるんだが…このコンビニの動力のガソリンがオレンジ色
のカエルになって逃げちまったんだよ。ちょっと寝てる間によぉ。いったん店閉めて捕まえに
行かなきゃいけねぇけど、俺今ヒザ痛めてるからなぁ…捜しまわるのは…」
幸太郎は言った
「僕、捕まえに行きましょうか?」
彼は言った
「お前みたいなボウズには無理だ。デカいし。あっ、」
彼はポケットからプラスチックの青くて小さい袋を
取り出して言った
「ボウズ、オレンジ色のカエルを探し出してこの袋の中のエサで餌付けしてくれねぇか?
そしたらそいつ、その場にしばらくとどまるからよぉ。そしたら俺をそこまで連れてきてくれ。
そしたら膝の痛みを最小限にしてそいつを捕まえられる。
協力してくれたらこのコンビニの好きなもん自腹で何でも買ってやるぞ」
幸太郎は言った
「お金はあるけど…うーん、…やります」
彼は言った
「ありがとう。袋の中のエサは全部やるんだぞ。いいな?そいつは西に向かったからな。」
「どうしても見つからなかったら帰ってきていいぞ。」
そして彼はその青い袋を僕に手渡し、オレンジ色のカエルが通った跡を指さした。
幸太郎は手を振って言った。
「行ってきまーす」
彼は言った。
「おぅ、がんばれよー」
砂砂漠の中をカエルが通った道に沿って歩いて進む。今いるあたりには高さ1メートルほどの鶏卵が、まばらにまっすぐ立っていた。空を見上げると雲一つない青空で、
CDの群れが日光を反射しながら空を飛んでいた。鶏卵が立っている地帯を抜け、
ひれを波打たせながらエビのようなたくさんの足で砂の上を歩くエイを横目に歩いていると、
遠くにオレンジ色の大きなカエルがいた。カエルが通った跡をたどるのをやめ、
そのカエルがいる方向へ歩く。
すると、だんだん石と岩が増えてきて、
やがて黒っぽい岩で覆われた地面の岩石砂漠となった。
「あっ…」
岩しかないのでカエルの足跡がつかない。したがって早く捕まえなければならない。
幸太郎は小走りでカエルを追いかけたが、
岩に時々隠れるので苦戦した。
ある程度近づけばエサを投げて足止めできそうだが、
まだまだそこまで近づけない。
「あれ…?」
しばらく追いかけていたが、また見失った。周りを見回しながら、辺りに点在する
巨大なピーマンとパプリカをよけながら走った。が、見つからない。
「ああ…」
1匹のシジミチョウが彼を横切り、岩のくぼみにめり込んだ5つのスイカを横目に、
彼はまた走った。走っても走ってもカエルが現れないので彼は泣きそうになった。
そして、完全にカエルを見失った。
「どうしよう」
気づいたら彼は岩ばっかりの泉にいた。岩場に出来た大きな穴にきれいな水が
溜まっている
「きれいだな…」
彼は思わずつぶやいた。すると、
「バシャッ!」
と音がすると同時に泉から透明な鳥が飛び立った。
「バシャシャシャシャシャ!!!」
と音が鳴り、先ほどと同じ透明な鳥がたくさん泉から飛び立ってそれと同時に
どんどん泉の水が減っていった。泉の水が鳥となって逃げて行ったようだった。
泉があった大きな穴を見下ろすと、穴の下部に岩にめり込んだスイカが密集していた。
深いところであればあるほどスイカの密度が高くなっていて、特にその穴の底ではめり込んだおびただしいほどの数のスイカがその半分側を見せている。
ちょっと気持ち悪いな、と彼は思った。すると、
「パキパキ…パン!」
と音がした。スイカが1つ破裂していた。
「パキ…バババーーーーーーン!!!!!」
ほとんどのスイカが破裂して、果汁が少し彼の顔に散った。彼は顔をハンカチ
で拭いた。カエルを探さなければならないので、彼は穴をのぞくのをやめ、
周りを見回した。すると、
「パキパキパキ……」
音がしたので、彼は穴から少し離れたところで、穴がある方向を見た。すると、
「ドバーーーーーーーン!!!!!!!」
と、すごい音が鳴って穴から大量のスイカの果汁が勢いよく噴き出始めた。急
いでスイカの果汁の噴水から離れるが、スイカの果汁が体にかかってしまった。
大人の握りこぶしくらいの大きさのスイカの種もいくつか落ちた。すぐに噴水は止んだ。
「あー、濡れちゃった…」
彼はつぶやいた。
「坊や、大丈夫かい?」
高齢女性と思われる声が聞こえた。
すると、岩の陰からはっきりした顔立ちの高齢女性が現れてハンカチを差し出しながら近づいてきた。
「あっありがとうございます」
彼はそう言ってその高齢女性に体を拭いてもらいながら自分も自分のハンカチで体を拭いた。
彼女は言った。
「あ、私の家でシャワー浴びんか?」
彼は言った。
「じゃあ、お言葉に甘えさせて…頂きます…」
彼女は言った。
「じゃあ行こうか」
彼は言った
「あの…僕大きなオレンジ色のカエルを探してるんですけど…」
彼女は言った
「ああ、それならうちで保護してるよ。ガソリンが化けたのかい?
災難だったねぇボウヤ」
「ボウヤのだったら、シャワー浴びた後に台車貸してあげるから持って帰りなさい」
彼は言った
「ありがとうございます」
彼女は言った
「いいのいいの!」
しばらく一緒に歩くと大きな岩の陰にログハウスがあるのが見えた。入口まで
来ると、小さな庭でカモの顔をしたゴリラたちがタコ焼きパーティーをしているのが見えたが、オレンジ色のカエルはどこにいるのだろうかと、幸太郎はふと思った。
彼女がそのログハウスの扉を開けると、
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」
と大勢のひよこの鳴き声が聞こえた。
家の玄関には「ひよこの塊」ともいうべき、高さ30センチほどの黄色いモフモフの塊があり、その上部にはたくさんのひよこの顔が密集していた。
靴箱の上の花瓶にはソーセージのような形の青い風船がすっぽり入っていた。二人してひよこの塊をよけて廊下へ足を踏み入れた。
*********
シャワーを浴び、衣服を借りた幸太郎は言った。
「今日は何から何まで… ありがとうございます」
彼女は言った。
「いいの!私みたいな年寄りがこんな礼儀正しい子の役に立てて、私もうれしいよ!」
いい人だなぁ、と彼は思った。台車の上に縛ったオレンジ色のカエルがいる。それを縄で固定し、あとは出発するだけだ。彼女は言った。
「縄で縛って台車に固定しようか」
彼は言った。
「僕がやります」
彼女は唐突に言った。
「ごめんね…」
すると、
「ブーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
とオレンジ色のカエルは、大量のガソリンを吐き出し始め、彼はガソリン流れの直撃を受け転んでしまった。
「おばあさんっ」
彼はそう呼びかけたが、彼女は胴体がものすごい勢いで伸びていって応答はなかった。
「ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!」
ガソリンの勢いは更に強くなり、彼は気を失った。
*********
目を覚ますと幸太郎は小さなヨモギが点在する芝生の上で倒れていた。体がガソリンまみれになっていた気がするが、あの高齢女性から借りた服は乾いてるし、ガソリンのにおいもしなかった。
陽の光が上から彼の顔に当たり、青空が広がっている。彼は起き上がった。
遠くを見やるとイチョウの木のそばの芝生の上で、白い半ズボンをはき青色のTシャツを着た5人の男の全員が白菜をドリブルしており、その木の向こう側には一面に茶色っぽい岩場が
広がっていて、その岩場にだけ、大小さまざまな、茶色っぽい徐々に高くなっている岩の柱の列がそこら中にあった。辺りを見回すと、どうやらこのあたりは
茶色っぽい岩場の中にポツンとある、長さが25メートルぐらいのトラックの形の芝生のスペースのようだった。
幸太郎はとりあえず、交番か何かを探すことにした。ここがどこなのか全く見当がつかないためだ。
岩と柱の列の間を縫うように歩いていると、3匹の温州みかんにカニの手足がついた生き物(この生き物をミカンガニと呼ぼう)が横歩きで巣穴に入っていった。
「わあ」
彼は思わず足を止めて言った。ミカンガニの群れに近づいてしまい、たくさんのミカンガニが一斉にそれぞれの巣穴に入っていったのだ。
最後の一匹が巣穴に入ると、そこはただの温州ミカンほどの丸い穴がたくさん開いているだけの岩場になった。
彼はまた歩き始めた。歩いていると車が通れるような広い道に出たので、その道に沿って歩き始めた。だんだん植物が増えてきて、少し遠くに建物も見え始めた。
道の端には若草色の高さ1メートルほどのいがぐりのようなものが頻繁にみられた。それは中心が縦にぱっくりと割れていて、その隙間からは稲穂の実の部分を大豆で置き換えたかのようなものがたくさん顔を出している。
彼はそろそろ歩くのがしんどくなってきた。遠くにベンチが見える。
青空に頭を向けて尾から地面に刺さっているカタクチイワシの群れを眺めながら、彼はベンチまで歩くことに決めた。
やっとの思いでベンチのところまで到着すると、彼はそれに座って一息ついた。ゾウの頭を切ってその断面にもう一つゾウの頭をくっつけたような姿の生き物が、
彼が来た道を逆行して二つの鼻でてくてく歩いているのが見えた。
しばらく休むと、彼は出発することにした。進行方向に歩き始めると、青いミカンガニが彼を横切った。
歩いていると道のわきに大きな池があるのが見えた。池の水は透き通っていて、たくさんの小島には一つ一つに何本かの松の木が生えており、とげしかない大きな
灰色のウニのような形のオブジェを、それらの松の木が下から支えていた。三日月形のオオオニバスも池の上に点在していた。
しばらく歩いていると建物のところまで着いた。二階以上はある、洋風の豪邸のようだった。ガチャ、と音が鳴り玄関から大人のサイズのコーギーが現れた。
そのコーギーは少年のような声で言った。
「待ってたよ」
「さあ入って」
いまいち状況が呑み込めないが彼は従うことにした。
そのコーギーについていくと大きいもの、小さいもの、中くらいのものの3つの円盤状のガラスがタイヤのように転がって壁を反射し続けている大きな部屋に入った。一番大きいガラスの円盤は直径がその部屋の高さに近かった。
その部屋を抜けるとリビングについた。するとそのコーギーは
「タンスの上のそれ、食べなよ。疲れたでしょ」
と言った。タンスの上には丸くて小さいナスがたくさん入ったかごがあった。そのナスを一つ手に取ってみるとヘタに近いところが青くてサバのような模様がついていて、
その反対側が銀色で、横から見てヘタを上にして床に垂直なヘタを通る直線を軸に回転させても色と模様が変わらないような対称性があった。
「冗談だよ。生では硬くて食べられないからね」
「サバのやつとアジのやつとカサゴのやつがあるよ」
「カウンターの上のそれ、食べなよ。 ウォーターサーバーも自由に使っていいよ」
そのコーギーが言った。
「ありがとうございます」
幸太郎はとりあえずそう言って、カウンターの上の料理の前に座った。料理は先ほどのナスの煮つけのようだ。
状況に戸惑いながらも、幸太郎は尋ねた。
「あの、あなたは一体、何者なんでしょうか…?」
「待ってたって、どういうことですか…?」
そのコーギーは言った。
「大丈夫、心配ないよ。」
「もうカエルは探さなくていいからね。」
そういうと、そのコーギーはどこかへ走り去ってしまった。
「どうしよう」
幸太郎はつぶやいた。
彼はとりあえず、喉が渇いていたのでウォーターサーバーで水をたくさん飲んだ。煮つけも食べることに決め、彼は言った。
「いただきます」
「サバのやつ」を箸で持ち上げてかぶりついてみる。すると、魚の身がたくさん口の中に入り、
煮つけの味が広がる。味は完全にサバの煮つけだった。全部食べ終わると短い背骨のようなもの
がくっついたヘタだけが残った。彼は言った。
「ごちそうさまでした」
すると奥の扉からあのコーギーの声が聞こえた。
「こっちだよ」
その扉の所まで行って開けると、正面が大きな水槽になっている薄暗い部屋があった。その水槽の中には、高さ1メートルくらいの玉ねぎ型の体の下部に
たくさんのフジツボとザトウムシのような4つの足がついていて、玉ねぎの芽に当たる部分に煙突のように穴が開いている灰色の生き物がうじゃうじゃいた。
その生き物のうち、いくつかの個体はてっぺんの穴から蛸を大量に噴き出していて、逆に大量の蛸が体のてっぺんの穴に入っていってる個体もいくつかいた。
「こっちだよ」
またあのコーギーの声がした。右側の階段からだ。幸太郎は水槽の部屋に入り、右側の階段へ向かった。
するとアーケード商店街に出て、上からひらひらとマスクが降ってきて彼の頭の上に乗った。
「そのマスクをして」
「こっちこっち」
左の方からあのコーギーの声がした。確かにここは少し灰が舞っているので指示に従って、左へ歩を進めた。
ここの道にはこぶしを握り締めた玉虫色の人の腕がいっぱい生えていて、特に呉服店らしき建物の前ではやたら縦に長いカボチャが散乱していた。
首から上(首を含む)がアオブダイになっている全身青色のマッチョの男達が、段ボールの箱を両手で運んでいた。その箱の中には金色のジャガイモがたくさん入っていた。
しばらく歩くとアーケードはなくなって二車線の車道と歩道がある広い道に出た。
「こっちだよ」
左側からあのコーギーの声が聞こえたので、左の歩道を歩く。こちら側の車道にはタイヤと三角のおにぎりが列をなしてゴロゴロと転がっていて、その対向車線では水色の半透明の馬が走っていた。
歩道と車道の間の土のスペースにはキリンの模様がついた葉のない街路樹が並び、余ったスペースではコバルトブルーのネコジャラシが群生していた。
歩いていると歩道にドクロを後頭部からくわえた蛇がいたのでよけようとしたが、その蛇の方が先にこちらの気配に気づいて逃げて行った。
その蛇が十分離れたのを確認した後、特に気になっていたので、幸太郎は姿を見せないあのコーギーに向かって聞いてみた。
「カエルを探さなくていいってどういうことなんですかーっ!?」
返事の代わりに、ガサガサッという小鳥が草陰から飛び立つ音が聞こえた。すると草陰からカナヘビの大群が出てきてピョンピョンはねながら歩道を横切った。
「こっちこっち」
すぐそこの横断歩道を挟んで、あのコーギーがお座りをしていた。ドンドン音がすると思ったら遠くでショッピングモールが踊っていた。信号が青だったので
その横断歩道を渡ると、途中でバコンと大きな音が鳴って横断歩道の右側に大きな穴が開いた。そしてその穴から大量のハムスターが噴き出して
瞬く間に辺り一帯は幸太郎もろともハムスターで埋もれてしまい、幸太郎は意識を失った。
*********
幸太郎は、自宅のベッドの上で目を覚ました。夢か…と彼はほっとした。
彼はコーヒーを飲むことに決め、冷蔵庫がある台所へ向かった。