第二章 謎の組織 4 Life in the Another World
更新がまたもや遅れてすみません。
本来なら昨日投稿するはずが、パソコンが動作異常を起こし、なんやかんやで投稿できませんでした。
なんか文章力低下してる気がするけど、本編をどうぞ!
4
「ウィリアム王国に行かないか?」
ゲルヒルトさんがそう言ったのは、数か月後とかではなく普通に宴会の翌日だった。
「ゲルヒルトさん、昨日ここに落ち着いたばかりの人にそういうこと言うのはちょっとよくないと思いますよ」
ローザが言い返す。
「ああ、悪い悪い。だけどまあ、話だけでも聞いてよ。
ウィリアム王国は大陸の北にある島国で、まああたしたちのスポンサーってとこかな。いちおう『連合』には属しているんだけど、他の国とはちょっと距離をおいてる感じ。だからあたしたちみたいな同盟、連合のどちらにも属してないような組織を援助してたりもする。
で、今回はあっちの方からやってほしいことがあるって言われてさ、一回王国まで出向いて説明を受けてこいとさ」
確かに「第三極」を貫くのは理想だが、資金の提供元もいなければならないというわけか。まあ現実はそういうものなんだろうな。
転移してから三日目。向こうの世界のことを考えていると「もう三日か」と言いようもない懐かしさのようなものが込み上げてくる。
しかし転移してから色々なことをしたから、どちらかというと「まだ三日か」という感覚の方が強い。これから俺はどんな仕事をするのか興味もあるし、向こうが懐かしくはあっても、今は帰りたいとは思わない。
そして新たな大地への招待状!!
受けないという手はない!!
「そ、それっていつですか」
「うーん、だいたい二週間後になるね」
「分かりました。なら俺は全然構いません」
「そうかい。じゃ、エイトも参加するってことで用意しとくね!」
ゲルヒルトさんの語尾に破砕音が重なった。
「ふ、ふ、ふあーい……」
大して高くはなさそうな壺のかけらと一緒に床に転がっているのはなんとプリシラさんだ。
「プリシラさん!?」
「ん……ふう……ふあ……おふぁようございま……」
プリシラさんはふらふらと立ち上がろうとしたが、すぐにバランスを崩して床に転がった。
「……すぅ……」
「こ、こりゃ大変だな。あ、あたしはプリシラをベッドまで運んでくるよ」
「こんなことになったのもゲルヒルトさんが昨日ビールを勧めすぎたからですよ」
ローザラインの追及から逃げるように、ゲルヒルトさんはすたこらさっさとプリシラさんを寝室へ運んでいった。
「っていうか、プリシラさん元々寝起き悪いからね」
ローザラインがため息をついた。
「ささ、朝御飯作るわよ。今日はあんたも手伝いなさい」
「……お前は料理大丈夫なのか?」
「う、うるっさいわね! あたしは野菜洗うのと後片付けの担当にしてもらってるわ」
「してもらってるというか、そうしないと朝食がヤバいことになるからだろ」
「うっさい黙れ! あたしが苦手なのは野菜の皮むきと包丁の扱いと加熱だけよ!」
いやほぼ料理できないじゃん。
ふふっ、ならここは俺の料理スキルを存分に発揮するところだな。ついに俺の出番が到来したのさ。
朝食後。
「今日は休日だし、ゆっくりすっか」
ゲルヒルトさんが言う。今日は確か五月十一日に当たるはず。ちなみにもとの世界と日付も曜日も同じなので、向こうでも今日は十一日、休日ということになっているはずだ。
「でも今日は買い物にいかなければね」
男性幹部が言った。
「なー……分かってるよ。今週の当番はローザだっけ?」
「そうです。町まで言って食料を買わなくちゃ」
「僕は昼前に家を出ることになるね」
家を出る?
「ゲオルクさんはここに住んでるわけじゃないんですか?」
「うん、僕はもっと南の方にある町に住んでるよ」
なあるほど。まあ確かに、このメンバーが一つの家に住んでるのはちょっと珍しいな。
「うぅん……ちょっと頭が痛いから部屋で休みますね」
プリシラさんは自分の使った食器をキッチンに運び、そのまま二階の自分の部屋へ去っていった。
日は昇り始めたばかりだ。俺は紅茶を飲み干すと、この休日をどう過ごそうか脳内計画表を埋め始めた。
といったところでアニメもなければゲームもなく、文字がわからないからラノベも、というか本全般が読めない。
「暇だ……」
そう呟きながら廊下を歩いていると、物置の隅にローザがいた。膝の一点を見つめながらなにやらリミッターが溶解したかのような顔をしている。
「デュヘ……デュヘへ……」
「何やってんだ?」
途端、ローザは電気でも走ったかのように飛び上がった。
「なななななななななななんでもないわよ」
「怪しいな」
「ほほほほほほほんとになんでもないって」
ローザは顔を真っ赤にしながら手をバタバタさせる。何をしていたのか物凄く気になるが、まあ、いいか。
俺が物置の入り口から去ると、背後でローザの安堵のため息が聞こえた。
部屋から五メートル離れて聞こえるため息って何なんだ?
「そうだ、俺に文字教えてくれませんか」
「えぇ……ってそうか。こっちに来てまだ三日か」
リビングで座っていたゲルヒルトさんは、手に持っていたコップの中身を不味そうに飲み干した。
「いいよ。文字が分からなかったらさぞ不便だろ」
そしてゲルヒルトさんはテーブルの隅にあったメモ帳とペンを引き寄せて、五つの記号を書いた。ひらがなのようにも、ローマ字のようにも見える。
「はい、まずこれ。これが母音を表していて、全部で五文字。右からa、e、i、o、uの音だ」
それから幾種類もの文字を見せられた。とりあえずそれらの読みを表にまとめてもらう。言語自体は全く日本語と同じのようだが、異世界にしてはすごい偶然だな。エンターテイメントの異世界ものでは、主人公を召喚した女神が都合よく言語が通じるようにしてくれるのだが。
すると、ゲルヒルトさんが薄い本を手渡してきた。
「はい、じゃあ実践といこうか。簡単な読み物だからこれを読んで……」
表紙には、古典的なタッチで扇情的な格好をした少女の絵が描いてあった。すかさずゲルヒルトさんが引ったくる。
「ま、まちがえたあ。あは、あははははは……す、すぐに本物持ってくるね……」
そう言ってゲルヒルトさんはリビングを出ると、すぐに大きめの絵本を持ってきた。
「これだよ。『ラナナの魔術師』っていうやつ。内容は単純で、勇者が魔術師をやっつける話さ。会話に支障はないようだからこの本もすぐ読めるだろうけど、ま、常識として内容は知っといた方がいいんじゃないかな」
表紙を開くと古めかしい絵が現れた。その中央に文字が書いてあり、ゲルヒルトさんが書いてくれた表を参照して『ラナナの魔術師』と読めた。
「ま、これから毎日この表を使って読み書きの練習をすることさ」
それから俺は絵本を読み始めた。言語自体が同じであるだけあって、表があれば読み進めることができた。
内容はゲルヒルトさんが紹介してくれたもので全てと言ってよく、勇者アシレウスが三びきの動物を仲間につけて魔術師と戦う話だった。
「じゃ、これで失礼するよ」
リビングの入り口にゲオルクさんが立っていた。家に帰るところなのか。
「どうせならこっちで昼飯食べてかないか?」
「いや、僕は仕事があるものだからね」
ゲルヒルトさんの誘いを断って、ゲオルクさんは俺の方を向く。
「会ってすぐ出ることになったけど、次に会うときまでさよなら」
そう言って、ゲオルクさんは古めかしい革のリュックを背負い、玄関の方へ歩いていった。
それからしばらく経って。
「ささ、昼飯の時間だぜ」
ゲルヒルトさんがエプロンを着てリビングに立っていた。