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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第一部 異世界転移
7/40

第二章 謎の組織 2 House

久しぶりの投稿になります(何回目かな?)。碧海ラントです。

……。


……。


書くことない。

いつも通り評価等していただけると嬉しいです。それでは本編をどうぞ!

   2

 クッキーの色の、こぢんまりとした家。小さな窓が並ぶ壁の上には、クリーム色の下地に明るい茶色のストライプが走る。脇にはベランダもついている。

 焦茶色の屋根には傾斜があり、その上に洒落たレンガの煙突がのっている。

 全体として「欧州の田舎~」という感じの家だ。これが俺の今いる家だ。

 そして、「組織」の一拠点でもあるのだ。

 幹部の若い女性が一人で住む家で、見かけだけでなく家のなかを隅々まで探しても「組織」との繋がりが全く見つけられない。そこまで徹底した安全性である。

「前にね、私が独り暮らしだってことを嗅ぎ付けて、家の前で襲ってきた男がいたんです。返り討ちにしましたけどね」

 見かけはほわほわしていてとっても可愛い幹部の人だ。満面の笑顔で返り討ちとか言われるとなんか怖い。

「そ、それって危ないんじゃないですか?」

「大丈夫。彼は敵とは全く関係ない、ただの酔っぱらいでしたので」

 その男がどんな目に遭ったかは恐ろしいので聞かないでおいた。

 俺たちは秘密の地下室へ――かと思いきや、通されたのは普通の居間だった。家の主の女性、男勝りな女性、穏やかな男性、ローザラインと、そして俺がテーブルを囲むようにソファーに座る。

「ゆっくりしてってね」

 そう時間をおかずに家の主人がお茶をいれてくれた。何やら甘い香りのする、透き通っているが真っ赤なお茶だ。

「ところで、あなたが襲われた経緯を説明してほしいんですよ」

 説明するも何も、俺はいきなり襲われたんだ。

「しかし、国から追い出されたのでしょう?そこも含めて、これまでの経歴を話していただければいいんです」

 お茶をすすってから、さらに付け足した。


「この世界に来てからの、ね」


 な、彼女は俺の転移を知っている?

「なあ、確証もないのに聞いていいのか?」

「いいでしょう。間違っていれば謝って終わり」

 何のことかは分からないが、話そう。


「俺は、こことは別の世界の、日本という国から来ました」


 俺はローザラインに笑われるのも覚悟で、異世界転移とその後の誘拐、そして突然の追放について話した。

 誰も笑わなかった。それどころか、

「よかったわ。やっぱりあんたであってたのね」

 と喜んだりもした。

「ど、どうして転移のことを?」

「ああ、ええと……どこから話した方がいいかな」

 言葉に詰まってしまった女性の代わりに、この家の主人の女性が話した。

「ええとですね、あなたはナイルという企業の技術でこちらへやって来たのですね。そのナイル社は一年ほど前に偶然見つけた空間の歪みからこの世界を発見したんです。

 ナイル社は何回かのテスト転移を重ねました。また、歪みを研究して、それのあった地点に補助的な機械を取り付けることで、安定してこちらの世界へ来ることができるようになったのです――」

「ちょちょちょっとタンマ。ナイル社はそんな高度な技術を持ってたんですか? そんな素振りは全くなかったし、そういうのはSFのんかだけだと思ってましたけど……」

 まさに驚きだ。「空間の歪み」を分析できるほどの能力があっただなんて。なぜそれを公開しなかった?

 それにはもう一人の方の女幹部が答えた。

「あんたは別に科学に詳しいわけじゃなかったんだろ?」

悔しいがその通りだ。科学分野の成績はあまり芳しくない。数学とかマジでヤバかったし。


「なら、専門的な内容は知らないだろうし、それがどう発展してるかなんて正直完全には把握してなかったんじゃないか?」


「で、でもこれほどの技術ならニュースとかでも報じたりは……」


「技術自体は報じられない。難しすぎて受けないからだ。また、通常は報道される[成果]はこの場合機密だ。だから結局知られない」


 俺は押し黙った。

 その時、男性が立ち上がって言った。

「ああ、俺はちょっとお茶菓子を取ってくるよ」

 そう言って奥の方へ去っていく。

 これって危ないんじゃないか? 彼がスパイだったりしたら……。しかし、他のメンバーたちは平然としている。

 再び沈黙。

 すると、その沈黙を埋めるかのように主人が話し出す。

「――そしてある時、ナイル社は数十人でこちらへ渡って、この世界の有力者たちに自分達の存在を伝えました。

 もちろん最初は相手にされなかったみたいだけど、よく分からない武器を使って強引に会談に引き込んだわけです」

 ソファーに座っていたのは、幹部の女性が二人ーーこの家の主人と男勝りな印象の一人ーー、幹部とおぼしき男性が一人、そして俺とローザラインだ。

 そのうち幹部らしき三人は平静を保っているが、ローザラインは興味津々といった様子だ。彼女は事態を知らされていなかったらしい。

 そして俺も、世界の裏側を聞いて平然としてはいられなかった。

「そしてそれがきっかけで、この世界では対立が表面化しました。これまでも派閥同士のいがみ合いはあったんですが、平和主義の建前があるので表面まで浮き上がることはありませんでした」

 すると、男勝りな幹部の女性が立ち上がる。

「ちょっとトイレ行ってもいいかな。急に腹が痛くなって」

 その女性も腹を押さえながら奥の方へ行く。

 あれ?

 さらに、ほわほわした幹部の女性も立ち上がる。

「お茶を入れ直してきますね」

 そう言って台所の方に行く。そう言えばテーブルの上にポットがない。

 こうして、居間には俺とローザラインだけになった。

「…………」

 ローザラインはむすっとした顔で押し黙っている。

「やいツンツン娘」

 ローザラインの額に怒りマークが付いた。

「あんたねえ……人がじっとしてるかと思えばむしゃくしゃするようなことをシャアシャアと……おらぁ!」

 ローザラインの拳が鉄槌と化して俺の頭にたんこぶを作る寸前。

「おーい、きてくんれー。面白いもん見つけたぞー」

 女性幹部が大声を出してきた。

 俺とローザラインは同時にそっちを振り向く。そして、ひとまず休戦ということで声のした方へ向かった。

 そして俺たちは「基地」に入った。

 それは家の奥、トイレの一隅にあった。いや、一隅に出来たと言うべきか。

 俺たちが呼ばれたのは、トイレ内に幹部の人が作った異空間だった。

 いやなんでトイレの中? という問いが浮かんだが、そっちの方が見つかりにくいからなのかもしれない。

 清潔なトイレの中には、薄い布が落ちていた。よく見るとそれはパンツの形をしていてーー

「あわわわわわわわわ、あ、あんまり見ないで下さい! ただの、ただの布です!」

 幹部の女性が全身でそれを隠す。

「――なんでパンツがあるんです?」

「ひあーーーー!」

「ほら、若い警察が踏み込んだりしたら、この部屋のパンツを見て、慌てて扉を閉める。それでこの部屋の異空間は気付かれないかもしれない。だろ?」

 幹部はなぜか満面の笑顔。

 いや、だろ? じゃないだろ! 思考回路どーなってんだ!

 横を見ると、男性幹部はきちんと目をおおっている。紳士だなーと思ったが、よく見ると目をおおう指に微妙に隙間があったのは見なかったことにしておこう。

 そして女性幹部の一人は半泣きに、もう一人はなぜかにやにや笑顔で、男性幹部は目をおおって、ローザラインは興味なさそうなツンツン顔で、異空間に入った。もちろん最後に俺も。

 

 その空間には、なんと言うか、趣向というものがかけていた。

 床は物質ですらなさそうな茶色の平板だし、座るものも椅子ですらない円筒形の物体がいくつかあるだけだ。

 風景に至っては存在せず、半径五メートルほどの円を描く白でしかない壁ならぬ「限界」が存在するだけ。天井は光そのものでできているかのようで、そこから必要な光が確保されている。

「悪いな、殺風景で。これが限度なんだ。高精細な空間は空間力を食うから見つかりやすいんだ」

「えっと……空間力ってなんです?」

 ちょっとタイムラグが生まれた。

「あー! そっか、あんた、異世界人だったね。空間力っていうのは、そのまま。空間に満ちている力だよ。術を発動させるには、空間力を消費しなきゃならないんだ。そっちの世界にはこういう技術ってないの?」


「え、ええ。魔法なんてありません」


 その言葉を発した瞬間、相手の固く結んだ拳が視界に飛び込んできた。拳は顔の寸前でストップする。


「……え、えっと、そっちでは式術のことを魔法って呼ぶの?」


 女性幹部が申し訳なさそうな顔で聞く。にもかかわらず拳は俺の顔の前のままだ。

「え、ええ。そうです。さっきみたいな術は式術って言うんですか」

「ああ。――良かった。こっちの世界だと、魔法っていうのは、すごく悪いことのために式術を使う人に対して使う言葉だから」

 俺は拳の威圧からやっと解放された。

 魔法は悪いニュアンス、か。確かに現代では「魔女」や「魔法」のイメージは良くなっているが、「魔物」「魔神」「悪魔」なんかは悪いイメージを伴う。そもそも「魔女」や「魔法」ももともとはキリスト教世界で異端扱いされた人々に対する言葉だ。

 ここまで来るとこの異世界の夢のなさが鼻につく。念入りな入国審査にしろ発達した交通網にしろ、何なんだ、ここは?

 円筒はちょうど人数分あった。俺たちは丸いテーブルを囲むように席につく。

「えっと、どこまで話してたっけ」

「対立が表面化するところまででした」

 家の主人が答え、一息おいて話し出した。


「先程も言った通り――」

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