第七章 3 Beatrice and Roselein
こんばんは。碧海ラントです。
急いでいきますね。
本日の更新は第七章3話の途中までになります。明日更新して続きを掲載します。
ローザラインで検索してみても綴りが全く出てこないので、Roseleinという綴りは私の予測になります。
それでは、本編をどうぞ!
3
203号室は、番号は若いくせにかなり奥の方にあった。
「こちらですの」
部屋にはいる俺たち。
その中央には巨大なベッド。
そのさらに中央には、全身包帯でぐるぐる巻きになったローザの姿が。
もちろん顔は空気にさらされているが、そこにも所々ガーゼが貼られている。その表情は安らかで、睡眠中だった。
「ローザライン、見舞いに来ましたの」
ベアトリスが声をかける。
すると、ごく自然にローザの瞼が開いたのだ。ベアトリスはここに何回も通っており、ローザとも心を通わせるほどの仲になっている、ということか。
「……ああ、ベアトリスか……」
微睡みの中で視線が俺の方に移動。
「…………」
「ど、どうもこんにちは。サトウエイトただいま参上」
「…………」
おい無言で視線を戻すな!!
俺だけノーリアクション!? 悲しい……。
「ベアトリス、」
か細い声がベアトリスにかけられる。
「そこの類人猿、誰?」
おおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
「大志を抱く少年サトウ・エイトというらしいですの」
そしてお前も俺の恥ずかしい名乗りをそのまま告げるな!!
「ふうん、大志を抱く、って言ってる割には、ずいぶんショボい男じゃない……。チンパンジーの目の方が、まだそいつよりは、輝いてるわ……。見て、あの、腐った魚のような……」
「ちょ、ちょっとストップ!! 弱々しい顔で毒舌吐くのやめてくれない!?」
……ちょっと待て。
まさか、負傷の影響で記憶喪失になったとか、じゃないよな……?
「そんなわけ、ないじゃない。大志を抱く少年、サトウエイトくん……」
頼むからその名乗りで呼ばないで!?
「あんた、これまでどこいってたの?」
この質問はしっかり俺に向けられたものだった。この調子だと記憶は失くなっていないのか?
「あ、ああ、ちょっとガリアで行動を、な」
ローザは大して驚くことなく、ただ「そう」と返事をして、視線を再びベアトリスに向ける。
「ねえ、ベアトリス、あなた、どうして毎日、私なんかのところに……」
ベアトリスの表情が一瞬だけ翳る。そして、次の瞬間には何事もなかったかのような言葉が紡ぎ出されていた。
「それは、そうですね、何かの縁、でしょうか」
俺は、膝の上のベアトリスの手が握りしめられているのを見逃さなかった。
ローザラインはゆっくりと目を閉じた。目を閉じただけで眠っているのではないとすぐにわかった。
「傷が治ったら、一緒にお出掛けしません? 昨日、家族でルビーカーペット海岸に行ったんですが、そこの夕陽がもうそれはそれは綺麗でしたの。今度ローザも連れてってあげますわよ」
おいおい、死ぬフラグ立てんなよ?
ローザがおもむろに口を開く。
かすれた声で言う。
「……そう、二人、でね……」
ベアトリスの目がわずかに見開かれた。
俺とベアトリスは、病室を出て診療棟へ戻っていた。
「傷の具合は確実に良くなっているのでご安心を。
あなたも、ローザの知り合いなのでしたら時々お見舞いしては頂けない? それが、彼女にとっては何にも勝る良薬となるでしょう」
了解した。どうせここにいる間は暇になるだろうから、お見舞くらい何度だってしてやる。
俺はベアトリスに別れを告げ、宿に戻ろうと病院のエントランスから出る。
出ようとする。
俺が近寄るより先にドアが開き、男たちが数人入ってきた。
タキシード? を着用した剛健そうな男を先頭に、筋骨隆々としたボディガードが幾人も連なってくる。圧倒的な威圧感に思わずじりじり後退してしまった。さてはこれが貴族、相当なVIPだろう。
一体ここに何の用が……?
しかし、彼らはエントランスより奥には行かなかった。
エントランスで散開し、隅々へ目を光らせ始める。
まるで、誰かを探しているかのように。
先頭の貴族が声を張り上げた。
「ベアトリスを傷つけてはならんぞ!」
「おいお前、なんでこんなところにいる」
「別に構わないじゃないですの」
説明しよう。
場所は俺の宿の部屋。その椅子に、部屋の主たる俺も顔負けのドヤ顔でベアトリスが座り込んでいた。
「というか何で俺の宿を知ってる」
「病室に入る前、あなたがバッグを開けた時、この宿のパンフレットが見えましたのよ」
お前は完全記憶能力でも持ってんのか!?
とにかく一旦荷物を置き、ベアトリスと向き合う。
こいつが逃れてきた理由はおおよそ予測が付いていた。まあ分かるだろう。見舞いに来たことが父親に発覚し、その父親から逃れてきたと。しかし見舞いに行っただけでなぜ咎められねばならないのか。「あんな下賤な者の見舞いに行ってはならん!」はどうだろうか、ありそうな気もするが、時代設定的になさそうな気もする。
純粋に勝手に外出した娘を追っていた可能性もあるが、だとしても病院に行ったと分かったのならあそこまで物々しい探し方はするまい。なら、あと家庭の事情とか。
しかし、もし何か深い事情があるのなら、特に家庭の事情とかあれば、直接聞くのは差し控えたいところだ。
「病院の入り口でお父様と出くわしたでしょう? 事情があって、私がローザのお見舞いに行くことはお父様から快く思われていないのです。あまり詮索はしないでくださいまし」
本人からも言われた。
「で、気を悪くしないでほしいんだが、いつまでいるんだ?」
ここ重要。
「……そうですわね。家に帰らないとお父様の疑念もますます膨らんでいくものですし、夕方には帰りますわ」
口に出しては言わないが、そりゃよかった。ベッドで一緒に眠るとかのラブコメ的漫画的ラノベ的展開を想像しないでもなかったがさすがにそれはきつい。
「分かった。夕方までここで過ごしてもいいぞ」
「ありがとうございます」
きちんとお礼を言うと、ベアトリスは立ち上がって部屋を見渡した。
「本当に何もないんですね」
「悪かったか」
「いえ、文句を言うつもりはありませんけど」
「知っての通りここは宿で、俺は大陸から戻ってきたばかりだ。そんなに荷物はねえぞ」
「もとはどこに住んでいたのです?」
……と、ここでゲルマニアって答えたらダメなのか。ゲルマニアは同盟、それに対してウィリアム王国は連合。
「日本、だ」
……おい俺! 一番「?」な応答をしやがった!
「日本、ですか? 聞いたことのない地名ですわね」
「うんそうだよねまあまあその辺は深入りしないで」
「……わかりました。私もそんなことを言いましたよね。これ以上詮索はしません」
何とか乗り切った!
「でもお前、マジで貴族とか、そういう系の人だったんだな……」
「そういうことは詮索しないでって言ったでしょう? まあそうなんですけど」
「リアルで『ですの』とかいう人初めて見た」
「そうですの?」
おお……。
俺は貴族に萌えることはあまりない系の人間だが、いかにもな高貴さには圧倒される。そして俺たちのイメージの中にある「美しき令嬢」のイメージを決して裏切ることのないようなベアトリスの美貌。
うーん、ぎゅっと抱きしめたくなってきた。いやだめだ。そんなことをしたら俺への信頼が一気に震度七くらいで揺らぐどころか木っ端みじんに砕け散ってしまう。
こういう時は深呼吸だ。スーーーーー、ハーーーーー、スーハースーハースーハー。




