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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
ウィリアム王国での日々と
34/40

第七章 2 Hospital

こんばんは。碧海ラントです。

ついに米国の大統領が交代しましたね。トランプ氏はここで退場しますが加速した分断だけはそのまんま……。分断と言うとどうしても保守系の勢力に注目されがちですが、リベラルや左翼も含めて、「相容れない」みたいな空気が醸成されつつあるような気がします。

それでは、本編をどうぞ!

   2

 軍基地、正確にはその脇にある軍病院の入り口にたどり着いた。周囲に人はいない。民間人は使えない系の軍病院なのだろうか。

 自動扉。こういう細かいところでファンタジー感を削いでいくのだこの異世界は。

 病院だから、というのもあるのだろうが。

 待合室はごく平凡なものだった。受付でローザの見舞いだと告げる。予約自体は昨日済ませてあるのだ。

 他の見舞い人はおらず、ごく短時間で俺の名前が呼ばれる。

「サトウさーん、どうぞ、こちらです」

 俺はベンチから立ち上がり、美人ナースさんのところに駆け寄った。

「ヴェンツェルさんは203号室に入院中でございます。面会時間は三十分が上限となっておりますので、必ず守ってください」

 三十分。長いのか短いのかよくわからないが、三十分しか話せないと考えるとまだ傷はほとんど癒えていないようだ。

 俺は了解ですと返事をして、 エレベーター(ファンタジー感が20低下しました)に乗り込み、二階を指定した。扉が閉じ、数秒で再び開く。

 二階の廊下を通り抜ける。この病院では入院病棟が別の建物になっているのだ。診察室の前のベンチに、赤ちゃんを抱いた婦人が一人、不安げな顔で座っていた。

 その横を通りすぎ、奥へ奥へと向かう。この先には渡り廊下があり、それで入院病棟と繋がっているのだ。そのはずだが、奥へ行くにつれて陰鬱さが増している。何か幽霊でも出てきそうな雰囲気。

 いや、不思議と恐怖は感じない。恐怖は感じないのだが、何かこう、これから死を待つしかない患者の悲哀や、大手術に挑まねばならない患者の不安が蓄積されているような感じがする。

 まあここは歯科だけどね。手術室もないけどね。

 そして、唐突にガラス張りの壁が現れる。

 陽光が射し込むかどうか、それだけでこんなにも雰囲気は変わるんだなーという事実を噛み締めつつ。

 同じくガラス張りの渡り廊下を渡ろうとしたところで。

 気付いた。

 渡り廊下の先に、

 少女がいることに。


 もちろんローザラインではない。

 こいつは綺麗な髪をポニーテールにまとめているし、体型もいくぶんか幼い。

 普段なら道行く見知らぬ人に話しかけるなんてことはしない。そういうことする奴は現代社会だったもとの世界にはほとんどいなかった。少なくとも日本には。

 しかし俺はノリで公園の奥の立ち入り禁止区域に侵入し異世界転移まで果たした男だから調子がよければそんなの関係ねえ、はい、おっぱっぴー!!

「お前も見舞いか?」

 魔が差したというわけだ。まずかったかなと思ったときには既に遅し。

「どなたです?」

 静かに反問された。

「あー、俺はサトウ・エイト」

 で、何だっけ。

 名前+肩書の定型で名乗ろうとしたのだが肩書ねえな。「組織」メンバーなんて名乗れないだろうし。

「えー、あー、あーー、大志を抱く、少年」

 …………。

 何でこんなこと言っちゃった!?

 アホっぽい上にクラークがこの世界にいるはずもない。

「…………」

 見ろよ見ろよ。女の子引いてるぞ。落ち着け落ち着け。

 テンション乱高下。

「へえ、その割にはアホっぽいですね」

 じかに言われた。

「……お、おう……」

 気まずくなった。しかし立ち去ろうと思っても、進む先に相手がいるのであれば不自然だ。街中とかだったら誤魔化しようもあるが、ここは俺と相手しかいない。

「ま、いいですわ。私もお見舞いですの。これでいいですか?」

 ですのとか言う奴、リアルで初めて見たな。

「あ、ああ。俺も見舞いだ」

 すると、相手は何を思ったのかしばし考えるポーズ。急に眼光が本気になった。


「――あなた、もしかして203へ向かっておられるんですの?」


「何で分かった!?」

 俺が返事をすると相手は大きく目を見開いた。そんなに驚くようなことだったのか? 相手はいったん間を置き、落ち着いてから言う。

「それは奇遇ですね。私も203へ向かっていることですの。一緒に向かいましょう」

 ポニテ少女は初めて正面から俺の目を見据えた。

 繊細な、それでいて華麗な顔。太くはないが意志の強そうな眉。強い眼光を放つ目。

 彼女――ベアトリス・クリフォードとの出会いだった。


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