第七章 日々 1 Peaceful
こんばんは。碧海ラントです。
そろそろこの作品も十万字届きそうですね。本来ならここらでタイトル回収を行うつもりなんだったんですが、ゲルヒルトさんがいない限りタイトル回収ができないのです。
何か知恵を絞らねばならないようですね。
あと、このシリーズ一話一話が短すぎましたので、特に短いところを二話ずつくらいでまとめたい。
それでは、本編をどうぞ!
1
ウィリアム王国、プリンストン。
その市街にある宿の一室で俺は目を覚ました。
伸びをして起き上がると、世界が何だかリニューアルしたように見えた。
ガリアにいた二日前は一日中移動し続けでしかも一回一回の移動に戦闘が伴うという超絶ハードなものだったが、この静かな朝にいるとそんなことは夢だったかのように思えてくる。
ベッドから起き上がり、洗顔や着替えを終え、またベッドに戻ってくる。
昨日ウィリアム王国に到着したのだが、列車で乗り過ごしたりといったトラブルが相次ぎ、宿に入った時点でローザの見舞いはあきらめていた。だから今日こそは見舞いに行くことにしている。
ローザは現在も軍病院で治療を受けているが、すでに目を覚ましており、容体も回復へ向かっているとのこと。
案ずることはない――ウィリアム王国には。
どこにいるのか全然分からないゲオルクさんとプリシラさん、ガリアへ行って以来連絡が取れないゲルヒルトさん……。目の前には何もないが、蓋がされているだけで問題は山積みなのだ。
さて、見まいに行くといっても早すぎても迷惑だろうし、特にすることもないのでベッドの上でぼーっと天井を見つめている。無為な時間。不意に前にティラミス村で宿をとった時のことを思い出した。
異世界にテレビを期待するのは違うとは分かっているが、やはりテレビが欲しい。娯楽番組とか見たいし、ニュースも知りたい。
圧倒的手持ち部沙汰感。
何もしないことには何も生み出されない。これからしばらくここプリンストンで暮らすことだし、市街をぶらぶらするのも悪くなかろう。
ということで俺は起き上がり、宿屋の主であるおっさんが作る朝食を食いに階段を下りた。
「おはよう、ええと……エイト、くんかい?」
「ええ、おはようございます」
「すまんね。どうにも東洋人の名前を呼ぶのは慣れない」
そう、ここは西洋。なので俺なんかは顔を見た瞬間に外国人だと判断されるようだ。
朝食は宿屋の配慮によりイタリア風。
なぜ配慮でこうなるのかと言うと、元の世界のイギリスと同じく、ウィリアム王国の料理ははっきり言ってマジでまずい。昨日の昼は王国の料理を食ってその時に分かった。
しかし、おっさんの腕が悪いわけではないので今日の朝食は美味。俺も完食することができた。
「ごちそうさまでした。後でちょっと街をぶらぶらします」
「ああ、どうぞどうぞ」
くすんだ緑色の扉を音を立てて閉じる。
石畳に足を踏み出す。
プリンストン市街。大通りから外れた、小さな店がひしめき合っている界隈に宿はある。裏道、と表現すると何か暗くてじめじめしたように思われるが、実際は太陽の良く当たる心地のいい場所だ。
隣の飲食店のおばさんが、店の扉を開け、暖簾(?)を下ろして開店の準備をしている。その他の店も次第に開いていっているようだ。
東から陽光が差し込み、家々の窓を照らす。早朝の適度な緊張感を含んだ空気がまた清々しい。
さて、まずはこの通りの周辺をうろつこうか。
しばらく歩きながら扇風機のごとく首を左右に振っていると、古本屋みたいなものを見つけた。開店直後なのでまだ人はいない。
見るか。
埃っぽい店内に入る。本を並べればとりあえず、という感じに、とにかく本で埋め尽くされている。壁沿いには本棚があるが、それ以外は巨大なかごのようなものに本が詰め込まれていて、適当にとってレジもってけ、という感じ。
裏道の古本屋だけあって時々「……大丈夫すか?」って言いたくなる、魔導書めいた本が置いてある。ってかこの世界、普通に魔術があるからこれは何というべきだ? 邪術書?
ここで何か軽い小説でも買えばいいんじゃないかというのを思いついたのが現在、小説と思われる本を数冊手に取って会計に向かう。
紙袋に本を入れて店を出る。デパートでもないのに、と思ったが、よく考えたらプラスチックはまだ普及していないのかもな。
その他、雑貨屋や古道具屋、骨董屋なんかを見て回り、大通りに出る。そこから海に向かって歩いていくだけで軍病院にはたどり着ける。迷ったり、トラブルが起きたりすることはないだろう。
平穏な陽。
人物紹介 ゲルヒルト・フィドル
若い女性。明朗快活で姉御肌(描写できてたかな……)。ゲルマニア生まれだが、幼いころにウィリアム王国へ渡り、主にそちらで暮らしてきた。ウィリアム王国の軍学校を卒業。




